~誕生~
人は神を創造し崇める。神は人が思い描く存在でいる。神を作ったのは人であるが、人を作ったのは神ともいえる。
神は上位者であり、人は下位者である。
人は創造者であり、神は偶像者である。
唯一同じなのは“感情”がどちらにも存在する事……………。
…………………………………………………では、全てを作った存在は?
「…これからどうすればいいだろうか?俺は…」
そこには2つの人影があった。
1人は、顔の整った男性で、赤茶のショートヘアーで背丈は170ある。異様なのは右目は黒く瞳の中は赤く染まっている事と服の裾から出ている骨の手だろう。
もう1人の方も非常に整った顔立ちをしている。髪は綺麗に整っていて動く際に邪魔にならない程度の短さに揃えられている。身長160ちょっとあるが、瞳には悪戯っ子の色が見え隠れしていて幼さを感じさている。またそれが澄んだ水色の髪にも全く違和感が無くよく似合っている。
「ジン。今はまだ情報が足りな過ぎるし、今日は色々あったんだもん。私疲れちゃったよ。少しだけ寝よ、ね?」
「……あぁ、そうだな。」
ジンは目を閉じると、すぐに睡魔がきて眠りにつく事ができた。
─2時間前─
「みゃ…が……った。しか…しっぱいだ」
(……どこだ?…駄目だ、何も思い出せん…声が聞こえる。…何を話してる?)
××という男が目覚めたのは半径20メートルはある鋼鉄のドームの中だった。××はドームの隅に点座する台の上に横になっていた。状況が分からず周りを見渡そうとし、止めた。理由は気配というべきもの感じたため。そして、何故か体が動かなかったから。
「不完全だが体を保つ事ができたのは被験体0913だけだ。解体する前にルーイン様に報告を」
(不完全?被験体?何を言っ…!!!?)
部屋に声が響くたびに頭に無数の痛みが走った。
(が、が…ああああああ!?)
叫び、暴れそうになったが声が出ず、体は動かなかった。
そして、1人の白衣を着た男が近づいてくるのを感じた。何故か男が近づいてくるにつれて頭痛が激しくなった。
「……ろ」
「…………?」
「やめろおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
体が動きその男の顔を右手で鷲掴みし、男の顔は弾け飛ぶ。男は頭を失いそのまま倒れた。
「何!?魔睡はまだ効いている筈だ!」
「そんな事言ってる場合か!早く警報を鳴らせ!!」
口々に研究者らしき者達が叫び、我先に逃げようとしてる中、××はもっと混乱していた。
握力だけで頭が潰せてしまった事以上に、自分の右手に肉も皮も付いてなかった事に。いや、右手だけではなく、右肩から右足までが骨だけになっていた。
そして、胸部の肋骨の中にある筈の臓器が無く、大きい青白い火の玉のようなものが1つ浮いていた。
「何…だ?これ?」
そんな自らの体に驚愕していると、銃を持って武装している者と1.5メートルはある楯を持った者、黒いローブを纏っている者が入って来た。
××は瞬時に動く事が出来なかった。闖入して来た者達が味方だと思ったから。しかし、その考え方は最も愚かだった。
人の脳が生存本能というもので、自分の都合の良いように解釈してしまったのだ。
闖入して来た者は××を見ると行動は早く、5秒も経たない内に最前列に楯持ち、中央列に銃持ち、最後列に黒ローブの者という隊列を組んだ。銃持ちはトリガーに指を掛け、黒ローブの者はぶつぶつ呟き始め……鉛玉が××を貫通し、突如××の体がバラバラに崩れた。
「こちらa部隊。被験体0913と思われる対象の掃討を完了。今から───」
“ドス──バキッびちゃ”
周りにいた者達が何の音かと音のする方を見ると、上層部と通信をしていた人物の体から骨の腕が突き出ていた。
そして、その後ろには先程バラバラになって死んだ筈の××が立っていた。さらに、何故か頭が弾け飛んだ筈の研究者が消えていて、その研究者の着ていた物を××が着ていた。
「どうなってるんだ!?いや、今は…」
××は理屈は分からなかったが、理解できた事が4つ。
『1つー自分は確実に一回死んだという事』
『2つーさっき自分が殺した人物から転生した事』
『3つー目の前にいるのが決して自分の味方ではない事』
『4つー自分は普通の人間ではない事』
××は目の前の者達から、どうやったら逃げれるか考えていると、目の端の方でまた銃のトリガーに指を掛けようとしてるのが見えた。──瞬間、××の体は頭で理解する前に体が先に動き、その銃持ちの首を左手で切り飛ばした。
(な!?さっき俺はあそこにいた筈……何だ?)
××は首を跳ねた死体を見て、違和感を覚えた。
死体から何か赤い火の玉のような物が出て浮いているのだ。
最初に殺した奴からも出ていた気がすると思いつつ、周りの者達に変化が無い事から自分にしか見えていない事を理解した。
××は自然と赤い火の玉に右手を伸ばし掴んだ。
すると、赤い火の玉は手の中で変化して黒色の剣に変化する。しかし、刃の部分はどろどろした黒いオーラのような物を纏っており、よく見ると人の苦しんでいる顔のようなものが時折浮かび上がっている。明らかに普通の剣では無い。
周りの者達は突然右手に異様な剣が出現したようにしか見えなく、混乱し動きが止まっていた。
××は理解してやった訳ではないが、このチャンスを逃す気は無いという面持ちで、部屋の隅にある扉に向かい走る。
扉まで30メートル以上ある筈だが1秒も経たない内に扉に到着した。
自分の身体能力に驚きはしたが今はそんな感情に浸っている暇は無いと思いつつその扉を開けて脱出しようとしたが、その前に体に鈍痛が走った。振り返ると黒いローブの者達の手から決して物質では無い何かがこっちに飛んで来ていた。
××は横に走りながらそれを回避する。
「…光?」
××は落ち着いていた。
最初は状況が何1つ理解できてなかったから混乱してしまったが、今はここから脱出するという目的があるから。
そして、落ち着いていたからどんな状況も受け止める事ができた。ここから出るには、邪魔者を排除するしかないと。
逃げる事を後にし、剣を邪魔者達に向けた。
すると、黒ローブから飛んで来た物は剣のオーラに阻まれるように軌道修正され、後ろの壁にめり込んだ。何故かは分からなかったが、その剣がどういう力があるか自然と理解できた。
そして、××は邪魔者達に一直線に向かう。銃弾やよく分からない物が飛んで来るが恐怖はなかった。全てが遅く感じたから。飛んで来る物を全て回避し、一瞬にして隊列の前に到着する。大きな楯が攻撃を邪魔するように立ちはだかるが××は剣を1つの楯に撫でるように当てた。
“キーン”
妙に綺麗な音が響き、その響きが他の楯にも広がり、敵側に鋭利な刃物となり砕け飛ぶ。楯持ちとその後ろにいた銃持ちは刃物となった盾の破片が的確に頭と心臓に刺さり絶命した。黒ローブの者はまだ2人生きているが被験体の能力に怯え動く事が出来なくなっていた。
「(丁度良い。適当に動くより聞いた方が効率がいいな。そして、何より俺の体に何をしたのか)…出ぐ―」
出口がどこなのか吐かせようと思い、近づいた瞬間─-
「く、来るなあぁぁぁ!!化け物ぉぉぉ!!!第参天・風岩粉砕!!」
1人の黒ローブの者が呪文を唱える。すると、何も無い場所から拳大くらいの岩が複数個現れて豪風と共に××に飛んできた。
××は無言で目の前の空間に円を描くように剣を振る。すると、目の前に黒い空間が出来、岩は黒い空間の中に吸い込まれ─
“ドス!ドスドスびちゃっ”
辺りに鮮血が飛び散る。
もう1人の黒いローブの者は慌てて相方の方を見ると、そこには岩がめり込みミンチ状態になった肉の塊が転がっていた。
それは言うまでもなく、自分の仲間だと黒ローブの者は理解したのだろう。
肉塊された真上には、黒い空間が出来ていたが、数秒の内に消えて無くなった。
××はそんな様子を確かめてからもう1人の方に目を向けると、黒いローブの者は何かに助けを求めるように手を合わせ震えていた。
××は内心、何も感じてなかった。何も感じてなかったからこそ、また同じ質問をしようと思えた。しかし…
「!?」
質問する前に黒ローブの者から光る模様が浮かび上がり、黒ローブの者は灰になり始める。
「!?い、嫌だ!助けて!助けてくれ!死にた……」
黒ローブの者は完全に灰になり絶命する。
(糞!いったいどうなってやがる!…自力で脱出するしか無いという訳か)
××は内心舌打ちしつつ、落ち着いていた。人がどこにいるか感じる事ができたから。
「…ここから早く離れた方がいいな」
××はこれから起こるであろう事を考えながらドームから出た。
静まりかえったドームに1つの気配があった。今までの光景をずっと見ていた者。
「くっくっく…中々面白い、一時は失敗したかと思いましたが、やっと撒き餌に食いつきましたか。……死神」
そして、ドーム内の気配が消えた。