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夢の守護者は男の娘  作者: ぴえ~る
終章 一段落ついて
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終章2 それぞれの居場所

 結局、そのまま三十分ほど机に突っ伏していたのだが、何が楽しいのか、岬は何も言うことなくただ大悟を見下ろしていた。

 動けるようになるほどの体力が回復したところで、ようやく大悟が顔を上げた。すでに教室内には、テスト終了に浮かれてはしゃいでいる生徒の姿も見えなくなっていた。どの生徒もさっさと教室を後にしたのだろう。残っているのは大悟と岬だけだった。

「それじゃあ、そろそろ行くか。待たせて悪いな」

「ううん、全然だよ。行こっか」

 静かになった廊下を二人で並んで歩く。テスト直前は放課後も教室に残って勉強している生徒をちらほら見かけたが、テストが終わったことで、どの教室も閑散としていた。

「なあ、今さらなんだけどさ、九曜に夢魔が取り憑いたのって、偶然なのか?」

「ううん。もちろん運が悪かった、というのはあるんだろうけど、夢魔に魅入られやすい人ってのはいるんだよ。たとえば、現実に不満を持っている人とか、夢に逃げ道を見出そうとしている人とかね。きっと薫はそういうところにつけ込まれたんだと思う。もちろん、なんの要因もなしで、本当にただの偶然で夢魔に取り憑かれる人もたくさんいるんだけれどね」

(あれ? それじゃあ、もしかして、以前俺が夢魔に取り憑かれた理由って……)

 思わず岬の横顔をまじまじと眺めてしまう。

(岬が男だったってことにショックを受けて、現実から目を背けようとしていたからか……?)

 そんな想像を巡らせてみるが、それが本当なのかは証明のしようがないし、そんなのは関係なくて本当に偶然が重なって、夢魔に取り憑かれただけなのかもしれない。

(ま、今となっちゃどうでもいいことだよな……)

「とりあえず、平穏無事で終わって何よりだ。これで秀人のヤツも九曜のことを気にせずに野球に打ち込めるだろうしな」

 薫が秀人の薦め通りマネージャーをやると言い出したときの、嬉しさを必死に誤魔化そうとしている秀人の顔を思い出すと、思わず笑いそうになる。

「もしかして大悟クンが高校に入って野球をやらなかったのって、薫のことを気遣って? 薫一人だけを仲間外れにしたくなかったから?」

「ははっ、そりゃあ買いかぶりすぎだ。俺はそんな気を回せる人間じゃねえよ。ずっと続けていたことをやめることなんてのは、誰にでもよくあることじゃねえか。それにいちいち理由なんかつけねえよ」

 岬と並んでグラウンドにやって来ると、秀人と薫が塁間ほどの距離を開いて、キャッチボールをしながら言葉のキャッチボールもしていた。この時間はまだウォーミングアップの時間のようで、他の部員たちもそれぞれの方法で身体をほぐしているようだった。

「秀人、キャッチボールの基本は相手の胸にぴしっとだ。少し見ないうちにそんな基本も忘れたのか」

「わかってるよ。だいたいそんなに外れてないんだから文句言うなよ。それにまだ肩が出来上がってないんだから、そんなに思い切り投げられねえよ」

「ふんっ、基礎をおろそかにする人間は、いざというときに痛い目を見るのだぞ」

 秀人たちに一声掛けようかと思ったけれど、練習の邪魔になるのは悪いので、遠くから見守っているだけにすることにした。

 大悟たちに気づく様子もなく、秀人と薫は、ああでもないこうでもない、と言いながらキャッチボールを続けていた。

 そんな二人を見守っていると、この前の練習試合を観戦したときのように大悟たちに接近する影が一つあった。

「やあ岬ちゃん、こんにちは。今日はどうしたんだい?」

 いつぞやの練習試合で秀人とバッテリーを組んでいた先輩が、右手を挙げて挨拶しながら近づいてきた。

「あっ、八神先輩こんにちは。田上クンと薫の様子を見に来たんですよ。薫が今日からマネージャーをやるっていうので」

 岬はその場でぺこりと頭を下げて挨拶を返す。

 なんだかいつの間にか自分が蚊帳の外に追い出されているような錯覚が沸いてきて、大悟は落ち着かなくなってこの場から立ち去りたい衝動に駆られた。

「マネージャーね。なんだったら、岬ちゃんも野球部のマネージャーにならないかい? キミならいつでも大歓迎だよ」

「せっかくですけど、遠慮しておきます」

 表面的な笑顔で八神に返す岬。

「そりゃあ、残念。ところで横にいるのは六宮大悟君だよね?」

「どもっす。六宮です」

 話を振られたことで、八神と視線を交錯させて頭を下げる。心なしか自分でも素っ気ない挨拶だと思ったが、たぶん気のせいだろう。

「キミのことは田上から聞いてるよ。素晴らしい選手らしいじゃないか。どうだい? キミもキミも野球部に入らないかい? 歓迎するよ」

「考えておきますよ」

「ふっ、そりゃあ頼もしい返事だ。それじゃあ、俺は練習があるから失礼するよ。二人もゆっくり見学していってくれ」

 鬱陶しくなるような爽やな笑顔を振りまいて、八神は去って行った。

 そんな彼を見て、心の奥から言葉で表現しにくい気持ち悪い何かが沸いてきているのを感じた。

「なあ、さっきの八神先輩ってのはどういう関係なんだ?」

 大悟が言うと、岬はどこか楽しそうに口元に手を当てて笑みを零した。

「くすっ、なんにもないよ……。って言おうと思ったけど、大悟クンが心配してるみたいだから教えてあげる」

「俺は別に……」

 岬を直視できずに視線を逸らしてしまう。

「大悟クンと一緒に退魔士をやる前に、あの人の中にいた夢魔を退治したことがあるの。あの人、そのときに会ったボクのことを微妙に覚えていたみたいでね。それで田上クンを仲介して現実世界でも、お話をしたことがあるってだけ。あの人がボクをどう思っているのかはわからないけれど、ボクにとっては、退魔士として助けた人間のひとりってだけかな。悪い人じゃないとは思うけどね」

「そっかあ……」

 ――安心した。

(って、何を俺は安心してるんだ……)

 いつものように、変な考えを追い出そうとする大悟だが、なんの心境の変化があったのかは自分でも定かではないが、今回はその気持ちを受け入れることにした。

(いや、きっとそういうことなんだろう。ただ俺が今まで認めたくなかっただけ……)

「なあ岬」

「なに……?」

 頭にはてなマークを浮かべて首を傾げる岬は、どっからどう見ても美少女にしか見えなくて、自然と血液の流れが速くなる。

「いや、なんでもない」

(ははっ、なんだ結局、俺の気持ちってあの日から何にも変わってなかったんだな……)

「も~、なにさ。言いたいことがあるんなら、ちゃんと言いなよ。男らしくないよ」

 不満を隠すことなく唇を尖らせて、頬を膨らませている。

(男らしくないって、おまえが言うのかよ……)

 だけど、そんな岬がどこまでも愛らしく思えてきて、きっとこれからも岬に振り回される日々が続くと思うと、大悟は自然と笑みが零れてしまう。

(俺の居場所はもうグラウンドにはないんだろうな。だってここにあるんだから……)

「も~、なんで笑ってるのさ」

 考えるだけでも気恥ずかしくなるようなことを考えながら、大悟はいつものように岬とじゃれ合いを続けていた。

 ――野球部の面々がそんな二人を生暖かい目で眺めていたことにも気づかずに。

 秀人と薫も、いつしかキャッチボールの手を止めて、二人のやりとりを眺めていた。

「くくっ、こんなところでも人目を気にせずイチャつきやがって。大悟も岬ちゃんも相変わらずだな。あの二人は」

「ふっ、いいじゃないか。あんなにもお似合いの二人は、この世界を探してもそうはいないだろうね。暖かく見守ってやろうじゃないか」

 テスト明けの空気はどこまでも爽やかに澄み切っていて、一足早い夏の到来を告げているかのようであった。

これにて、大悟たちの物語は完結です。

色々と複雑な話になってしまいましたが、私がこの物語を皆様にお伝えしたいことはたった一つのことだけです。

それは男の娘に弄ばれる喜びに気付いていただきたいと言うことだけです。

それさえ伝わっているのでしたら、そのほかには何も語るまい。

というわけで、長々と長文失礼いたしました。ここまで目を通していただきありがとうございます。

次回も皆様に楽しんでいただけるように精進したいと思います。

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