4-11 大悟の決意
「よう、待たせたな」
夢の中で具現化させた金属バットを片手に、大悟は打席に立って、ピッチャー九曜を見据えた。
「なぜ大悟がここにいる? ショートを守っている大悟は偽物なのか? いや、打席に立っているキミこそが偽物なのか?」
「まあ、そんな細けえことはどうでもいいじゃねえか。打席に打者が立ってるんだ。ピッチャーであるおまえがやることは一つしかないだろうが」
ホームベースを二回バットの先端で軽く叩いて、レフトスタンドへと向ける。
いわゆる、予告ホームランのポーズだ。
「来いよ。NPC相手に無双して喜んでいる寂しいヤツなんて、俺の相手じゃないけどな」
挑発するように言うと、薫は右手に掴んでいるボールを握りつぶすかのように思い切り力を込めた。
「中学時代、僕に何度もケチョンケチョンにされたことを忘れてしまったのか? そういうことならいいよ。大悟じゃ僕には勝てないということを思い出させてあげる」
普段はどこまでも冷静な薫だけど、野球が絡んだ瞬間、見境がなくなる。
それはとても彼女らしい反応だった。
大悟は両足を肩幅くらいに開いて、少し腰を下ろす。バットを担ぐように構えて、顔だけを薫へと向ける。
久しぶりに味わう緊張感に、ここが薫の夢の中と知っていても、ワクワクする気持ちを抑えきれなかった。
(薫を助けるため、だからこそ俺は本気でおまえを叩きつぶす。今までの対戦成績は圧倒的に不利だが、そんなことは関係ねえ)




