4-8 岬の決意
「岬ちゃん、いいの? 九曜さんって、友達なんでしょ」
リビングのテーブルに向かい合っている楓が、心配そうな瞳で岬の顔を見つめている。
岬の心労を気遣って掛けた母親の言葉。
それは素直に嬉しいが、彼女の顔からは夢魔の探索で蓄積された疲労がありありと見受けられるため、素直に甘えるわけにはいかない。
普段から物静かな滝原市西区だが、夜が更けると周囲から音という存在が消えたかのような静けさを見せている。
「ううん、大丈夫。お母さんも疲れたでしょ。あとはボクに任せて」
できるだけ明るく振る舞おうとする岬だが、やっぱり薫の顔が脳裏にちらつく。
性別が違えど、いや性別が違うからこそ、似たもの同士の薫とは、知り合ってひと月とは思えないくらいに気が合った。
(それもこれまでかな……。ま、仕方ないよね)
友人の夢を奪ったという後ろめたさから友だち付き合いが上手くいかなくなったのは、今回が初めてのことではない。これまでだって何度も同じような経験をしているのだから、今回だって何も問題はないはずだ。
「あたしもついて行こっか? 岬ちゃんひとりじゃ心配だし」
「ううん、ただでさえ夢魔の浸食が進んでいるみたいだし、二人で押し寄せると、九曜さんに負担がかかるかもしれない。やっぱりボクひとりで行くよ」
「そうね。わかったわ」
楓は納得したように頷いて小さく目を伏せる。
「それじゃあ、行ってくるね。おやすみお母さん」
「ええ、いい夢を見るのよ」
岬はにっこりと微笑んで自室へと戻る。
(大悟クンはどうしてるかな?)
突き放したパートナーのことを思いつつ、岬は薫と意識を重ねるためにゆっくりとベッドに沈み込んだ。




