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夢の守護者は男の娘  作者: ぴえ~る
4章 夢の終わり
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4-5 僕のポジション

 昼休み、大悟、岬、薫、秀人の四人は近くの机を並べてお昼を食べていた。

「九曜、今日はずいぶん眠そうだな。ひょっとしてまだ休み気分が抜けてないのか?」

 食事中もどこか眠そうに目をしょぼしょぼとさせている薫に向けて、大悟が冗談半分で言う。

 高校生となって初めての定期テストが近いため、授業中もどこかピリピリとした空気が漂っていたにもかかわらず、薫だけは船を漕いで夢と現実を行き来していた。

 その姿は、どこまでもマイペースな薫らしいと言えばらしいかもしれない。

「いやはや、これは恥ずかしいところを見せてしまったな。昨日もしっかり睡眠は取ったはずなのだがどうにも眠たくてね。春の陽気というのは中々に恐ろしいものだね」

 首を捻って答える薫に、岬が質問を投げかける。

「へえ~、ひょっとして幸せな夢でも見てたとか? それで夢に夢中になっちゃったの?」

 最近は夢という単語ができるだけで、大悟はぴくりと反応してしまうようになっていた。

 ただ岬の発言にそのような意図が組み込まれていたかはわからない。

 単純に世間話として夢の話をしようとしただけなのかもしれないし、何かを探ろうとしているのかもしれない。

 ただ探ろうとする意図があったとしても、薫から何を探れることは何もないのだから、やっぱりただの世間話なのだろう。

「まあ、そんなところだ、ということにしておこうか」

 含み笑いを浮かべながら答える薫は、相変わらず冗談なのか本気なのか区別がつきにくい。真面目な顔で微妙に信憑性のある冗談をいうこともあれば、冗談のような言い方で本当のことを言っていたりもするから、九曜薫という人間はとても性質が悪い。

 ただこの話に関しては冗談だろうと本気だろうと、大悟にはまったく関係のないからどうでもいいのだが。

「ふふっ、いい夢が見れるってのは素敵なことだと思うよ」

 岬が言うと、この発言にも妙な説得力が生まれる。しかし、その説得力をひしひしと感じているのは大悟だけだ。

「ところで、九曜さんはどの部活に入るか決めたの? 前に話してたときはゴールデンウィークまでには決めるって言ってたけど」

「それなんだが、やっぱり何もやらないことにしたよ。そのうち気が変わるなんてこともあるかもしれないが、どうにも僕の心を動かすような部活がなかったものだからね」

 きっぱりと言い切る薫に対して、秀人が何か言葉をかけようとしていたが、彼はそれを言いかけて結局黙っていた。

「あれ……? 結局ソフトボールはやらないの? 勿体ないよ」

「そうは言うが、岬や大悟だって、体力を持て余しているじゃないか。僕に言わせるとそちらのほうがよっぽど勿体ないと思うが」

 妙に真に迫っている薫の表情に、

「いや、俺たちは――」

 それ以上を説明するわけにもいかず、岬と目配せをして言葉を飲み込んだ。以前、岬が何も知らない大悟を誤魔化したみたいに、アルバイトだ、と言い張ってもいいのだが、いかんせん薫に食いつかれてしまったときに対処に困る。

「確かに何か新しいことを初めて見るのもいいかもな」

 その結果、大悟は自分でもびっくりするくらいのテキトーな答えを返したのだった。

「ボクは選手とかよりは、マネージャーとかやりたいな」

 見た目が美少女の岬ならば、選手としてよりはマネージャーのほうがよっぽど見栄えするだろう。

 とはいえ、岬は運動神経がかなりいいので、少し練習すれば、選手よりも戦力になりそうな気もするけども。

「マネージャーか……。自分がプレイするわけでもないのに、選手を支えるだけのポジションを希望する、その心理が僕には理解できないな」

 微妙に敵意の籠もった薫の言葉に、大悟たちはつい返す言葉を失ってしまう。そんな微妙な空気に薫も気づいたのか、すぐに訂正を入れた。

「すまない。マネージャーという役割を侮辱しているわけではないんだ。もちろんスポーツをする上でマネージャーというのは大事な役割だと思う。だけど選手としてではなく、進んで裏方に回る人間の気持ちが、僕にはちょっとわからなくてね。気分を害したのなら申し訳ない」

「ううん、別にボクも本気で、どっかの部活のマネージャーをやろうと思ってたわけじゃないから、ボクに謝られても……」

 誠意が込められた薫の謝罪に、岬はバツが悪そうに大悟へと視線を向けて助け船を求めている。しかし、大悟自身もどうすれば良いのかと静観していると、助け船を出したのは秀人だった。

「気持ちがわからねえのは、一度も経験したことがないからだろう。一度やってみたらその楽しさに気づくかもしれねえぞ。野球部のマネージャーが空いてるんだけど、九曜、やらないか?」

 しかしその発言に、一度は緩まったはずのぴりっとした緊張感がまた漂い始める。

 秀人の発言に、薫はむっとした表情を浮かべていた。

「へえ~、それは僕にキミの裏方をやれっていうことなのかな? 僕を顎で使おうとするとは、秀人も偉くなったものじゃないか。噂に聞けばすでにレギュラーの枠をゲットしたそうだしね。そんな秀人からしてみれば、僕なんて雑用役でもしていればいいってことなのかな?」

 あくまで口調は冷静だが、薫の瞳の奥から怒りの感情が滲み出ている。

(というか、九曜のヤツ、どっから秀人がレギュラー取ったっていう情報を聞いたんだろ)

 疑問に思ったが、大悟が口を挟めるような雰囲気ではない。

「は? なんでそんな穿った見方をするんだよ。別にふらふらと帰宅部をやるくらいなら、おまえの好きな野球に少しでも関われることをやったほうがいいんじゃないかっていう、俺なりの提案だよ」

「ふんっ、それこそ余計なお世話だね。だいたいキミはいつもそうだ。グラウンドの隅でグラウンドに立つ権利も持てないまま、指を咥えて秀人の活躍を眺めていろとでも言うのか? 冗談じゃない。そんなもの耐えられるわけがないじゃないか」

 なんだか二人の口論が中学のときの再来みたいで、一人で勝手にほっこりしている大悟だが、いきなり言い合いを始めた二人に、岬はどうすればいいのかわからないようで、オロオロしていた。

 さらに、このやりとりに慣れていない周囲のクラスメイトたちも、何が起こったのかと奇異の視線を送っていた。

 大悟としてはもう少し静観していようかと思ったのだが、さすがに周囲の視線が痛かったので、二人を止めに入ることにした。

「おい、今日そのへんにしておけよ」

 大悟が止めに入ると、薫はきつい視線を向けてきたが、すぐに彼女は我に返り、怒りを静めるように大きく息を吐いた。

「すまない。熱くなりすぎた。僕は少し頭を冷やしてくるよ」

 手つかずの昼食をその場に残して、薫はさっさと教室を出て行ってしまう。

「あ、九曜さん。待って!」

 その背中を追いかけて岬も教室を飛び出していった。

 一波乱が去ったことで教室が妙な静けさに包まれる。まだチラチラとこちらの様子を窺っている生徒もいるが、気にしても仕方ないので気にしないことにした。

「いや~、それにしても二人の言い合い、久々に見たけど、あまりにも久々すぎて一種の懐かしさすら覚えちまったよ」

「ああ、悪いな。俺、ひょっとして間違ったこと言ったか?」

 俯いたまま、秀人は心ここにあらずと言った感じで聞いてきた。

「まあ、どっちかといえば感情的になったあいつが悪い気もしないでもないけれど、秀人の発言も割と無神経だったな。あいつがどんな思いで高校に入ると同時に野球を断念したかはおまえも知ってるだろ」

「ああ、それは知ってるつもりだ。いや、本当につもりでしかないんだろうな」

「ま、他人の苦労や気持ちなんて、どうあってもわかるわけねえからな……。ただどれだけ力があっても、性別っていう大きくて小さな壁だけで、アイツの道が閉ざされたんだ。もう野球の『や』の字も見ないようにする覚悟じゃなきゃ諦められなかったんだろ。ま、それすらも俺の想像でしかねえけどな」

「かもな。あいつ、部屋にあった野球関連のものも、全部捨ててたみたいだし」

 手を組んで目を伏せながら言う秀人。

「そんなヤツにおまえは、グラウンドからとても近いけれど、どれだけ手を伸ばしてもグラウンドに届かないマネージャーというポジションを薦めたんだ。中々に残酷なことをしたと思うぞ。あれ? そう考えるとやっぱり全面的に秀人が悪い気がしてきたぞ」

「手厳しいな……。謝りに行ったところで、もう意味ないだろうな」

「まあ、逆効果だろうな。とりあえず岬が九曜の元に行ってんだから、あいつに任せとけばなんとかなるさ。謝るのはほとぼりが冷めてからだな」

「ふっ……、岬ちゃんのこと、信頼してんだな」

「別に信頼しているとかじゃねえよ。けど、本来の性別と逆の格好をしている似たもの同士のほうがいろいろと話が合いそうだろ。ただそれだけだよ」

 大悟の言葉に小さく頷いた秀人だったが、その横顔からは薫に対する申し訳なさのようなものがこぼれ落ちていた。

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