4-4 休み明けの教室
ゴールデンウィーク明けの初日、クラスメイトのほとんどがゴールデンウィーク中の思い出について花を咲かせているようだった。
高校に入学してから一ヶ月が経過したこともあり、教室内は入学当初に蔓延していた余所余所しい雰囲気も徐々に消えつつあり、仲のいい数人で集まってそれぞれのグループが出来ていた。
大悟はそんな教室の様相を、まだ眠気が残っている脳みそを使って分析していると、岬がやってきた。
「おはよう、大悟クン。相変わらず眠そうだね~」
「そりゃあ朝なんだからな。眠くないヤツなんていねえよ。それに休み明けってのは、リズムが狂ってるからなおさらだ」
「ボクは全然元気だけどね」
そう言って、岬は元気をアピールするように力こぶを作ってみせる。
退魔士の仕事というのは、必然的に人間が寝静まるような時間から始まるので、どうしても寝不足になる。
大悟に関しては元々朝が弱いというのもあるけれど、それにしても岬はよくもまあ朝っぱらから元気だなと思う。ただ、岬の場合は、授業中にしょっちゅう睡眠を補っている姿を見かけるので、そこの差も大きいのかもしれない。
「それに、学校に来たら大悟クンに会えると思うと、自然と元気になっちゃうんだよ」
そう言って、岬は恥ずかしそうに大悟から顔を逸らす。
言うまでもなく、演技であり、大悟をからかうためのいたずらだ。
それだとわかっていても、大悟の中に多少グッとくるものがあるのは否めないのだが。
「何言ってやがる。休み中もほとんど毎日会ってたじゃねえか」
「ありゃ、そういえばそうだったかも。休みの日でも毎日会うって、なんだか付き合いたてのカップルみたいだね」
「ぶっ――」
「あはは、大悟クンは相変わらずだなあ。やってる側のボクが言うのもなんだけれど、いい加減慣れればいいのに」
「なんで、男に迫られることに慣れないといけないんだよ……」
相変わらずの岬の攻撃にすっかり目を覚ますと、今度は秀人がやってきた。
「よっ、お二人さん、相変わらずイチャイチャしてるねえ。おはよう」
「イチャイチャとか言うな。余計な誤解を生むだろう。とりあえずおはよう」
「誤解ねえ……」
秀人は気持ち悪く口元を歪めて、細めた目で大悟と岬を交互に見やる。
「なんだよ、言いたいことがあるのならはっきり言えよ」
「うんにゃ。野球をやめても、大悟は生き生きとしてるなあっと思って……」
どこか憂いを帯びたような、寂しさの混じった声で答える秀人。
「なんだ、バカにしてるのか? もしかして、ゴールデンウィーク中の練習試合でやらかして、その八つ当たりか?」
「大悟のご期待通り、ゴールデンウィーク中の活躍が評価されて、春の大会の背番号2番。捕手のレギュラーを手に入れることができましたよ」
秀人は得意げな顔で、大悟の眼前にVサインを作った。
「すごい、すご~い」
岬が両手を合わせてはしゃぐ。
「せいぜい頑張ってくれ。俺も九曜も野球をやめた今となっては、高石中学野球部の生き残りはおまえしかいないんだからな」
「また心にもない適当なことを言いやがって……」
呆れた調子で秀人がため息をつくと、ちょうど薫が教室にやってきた。
間もなくチャイムがなるような時間帯で、一歩間違えれば遅刻となるような絶妙な時間での登校だった。
「おーい、九曜。おはよう」
大悟が薫に挨拶するも、彼女は気づかなかったのかまったく反応しない。不審に思って彼女をよく見ると、半分目を閉じた状態でうつらうつらと船を漕ぎながら歩いていた。
彼女は結局、大悟の挨拶に気づくこともなく自分の席に座るなり、そのまま突っ伏してしまった。
「九曜のやつも休み明けで眠いのかな……」
そんな大悟の呟きに、岬が曖昧に答える。
「どうだろうね……」




