表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の守護者は男の娘  作者: ぴえ~る
3章 僕の夢、僕の思い
34/52

3-9 反省会?

「惜しかったな」

 試合が午前中に終わったこともあって、大悟と岬は秀人ともに学校の近所の定食屋で昼食を食べていた。

 練習試合の結果は、五対四で惜しくも清心高校が敗れてしまった。いくら、練習試合といえど、負けという二文字は重くのしかかってくるらしく、秀人は落ち込んでいるようだった。

「春の大会も近いし、勝ってはずみが付けられればと思ったんだけどなあ……」

 秀人は悔しそうに顔を歪めている。

 もし今日のマウンドに薫が立っていたとすれば、この場では大悟たちの存在を無視して秀人と薫で大反省会が行われていたことだろう。

 そんな場面を想像して、大悟は思わず笑いそうになってしまう。

「でも惜しかったよね。最終回までは勝ってたんだから」

 岬は肩を落とした秀人を慰める。

「惜しくても負けは負けだ。本番だと、惜しかったなんて言い訳はぜったいに通用しないからな。スマートに負けるくらいならどれだけ無様でも勝つほうがいいに決まってる」

「さて、それじゃあ、秀人さんは最終回で逆転された要因は何だと考えますか?」

 大悟はインタビュアーのように、スプーンをマイクに見立てて秀人へと向ける。

「逆転の一打を打たれた時の配球かな。あそこは内角のストレートを要求したんだが、先輩が内角に投げきれなかった。真ん中に入ってきたボールをまんまと痛打されたんだよ。ただ、内角を投げきれなかった先輩を責めているわけじゃなくて、今考えると、あそこは無理に内角を使わなくてもよかったじゃないかなってさ」

「なるほどな。こんなこというのは後出しじゃんけんみたいだけれど、あの時は、なんとなく打たれそうな雰囲気出てたもんな」

「ははっ、確かに大悟の言うとおりかもな。あの場面は理想を言えば、内角のボールを見せ球にするべきだったんだ。だけど先輩の体力や能力を冷静に考えて抑えられるボールを選択できなかった。よって、それも含めて俺の配球ミスさ」

 秀人は自分の非をさらけ出して、降参するように両手を挙げる。

「へえ~、キャッチャーってそんなところまで考えてるんだあ……。なんか深いね。しかも守りだけじゃなくて、打つほうもしっかりやらないといけないんだから、ホントに大変なポジションなんだね」

 そう言って、岬は感嘆の息を漏らす。

「ま、打つほうは三打点で一得点。全得点に絡んだんだから、実際大した活躍だと思うぜ」

「なんか大悟に褒められるのって、こそばゆいな。なんか変な感じがする」

 大悟が素直に褒めると、秀人は寒気をこらえるように両腕をこする仕草をする。

「せっかく褒めたんだから、素直に受け取っておけ。それに配球ミスがどうだと言っていたが、あの先輩、かなり秀人のこと信頼して投げてたように見えたぞ。こりゃあレギュラーも近いんじゃないか?」

「実際、先輩は滅多に首を振らないから、リードしやすいといえばしやすいかもな。ただ――」

 そこで言葉を詰まらせる。

「ただ――?」

「いやなんでもない。守備の上手いショートでもいれば、もう少し守備も引き締まるんだろうけどな」

 秀人は何かを企んでいるかのように、目を細めて秀人は大悟を見据えていた。

「いない人間の話をしても仕方ないだろ。おまえが言っていることを大げさに言うと、プロ野球の選手がいれば、甲子園に行けるのに、って言ってるのと、同じだからな。所詮は無いものねだりだ」

「そんな贅沢を言っているつもりはないんだがな……。けど、持っているカードで勝負しないといけないってのは同意だ。というわけで、この場は俺の初スタメン、初安打、初打点を賞して大悟に奢ってもらうことになりました。ごちそうさまです」

 両手をテーブルについて頭を下げる秀人に対して、

「何が、『というわけで』だよ。前後関係がまるでねえじゃねえか」

「大悟クン、ごちそうさまです」

 どさくさに紛れて、岬も両手を合わせて頭を下げた。

「おいこら待て。岬はなんの関係もないだろうが」

「まーまー、そんな細かいこと言わずにさ。デート中のご飯代は男の子が出すものでしょ」

「なら、男である岬は自分で払うんだな。っていうか、俺は秀人の分も払わないけどな」

「あらら、どさくさに奢ってもらう作戦は失敗だね。それにしても大悟クン、ボク達がデートをしてるってことは否定しないんだね」

 岬は口元に手を当てて、いたずらっぽく笑っている。

「な、何言ってやが――おいこら」

 大悟から逃れようと一足先にぴゅーっと出口のほうに向かう岬と、それを追いかける大悟。

 秀人はテーブルに肘を突きながら、そんな二人の姿を眺めていた。

 レジにたどり着く前に、岬が大悟に捕まって何やら楽しそうに言い合いを始めた。大悟はかなり必死の様子だから、決して楽しんでいるわけではないのだろうけど。

 周囲のお客さんから奇異の視線を向けられているが、自分たちの世界に入り込んでいる二人はその視線を気にしている素振りを見せない。

「くくっ、恋は人を盲目にさせるんだな……」

 そんな二人の様子を眺めて、秀人はしみじみと呟いた。

 もともと学生が多いせいか、店側も騒ぎには慣れているようで、店員のおばちゃんは微笑ましいものを見るような視線で二人を見守っている。

「平和だなあ……」

 しみじみとした秀人の呟き。

 結局、二人がイチャイチャしている間に秀人は自分の分の支払いを済ませたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ