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夢の守護者は男の娘  作者: ぴえ~る
3章 僕の夢、僕の思い
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3-4 一人足りない昼休み

「九曜のヤツ、珍しく最近休みがちだよな。アイツ中学のときは皆勤賞だったってのに、どうしちゃんだろうな。秀人、おまえこの間、見舞いに行ったんだろ。九曜の様子どうだった? 何か変わったところとかなかったか?」

 とある日の昼休み、大悟と秀人と岬の三人は、中庭のベンチに陣取って昼食を食べていた。

 三人掛けのベンチで、大悟が真ん中に座り、その左右に岬と秀人が腰掛けている。

 華の金曜日、気温が高い上に風もなく太陽が降り注ぐような絶好の天気だったので、中庭で昼食を取っている学生は他にもたくさんいる。

 薫は先週の金曜日に体調を崩して一度学校を休んでいたが、ちょうど週末を挟んだ次の月曜日から木曜日まではしっかりと登校していた。しかし、今日になってまた休んだのである。

 普段から寡黙で表情の変化には気づきにくい薫だが、最近の薫には付き合いの長い大悟にだからこそわかる微妙な変化があり、今思えば登校していたときもなんだか様子がおかしかった気がする。

 大悟でさえ薫の表情の変化に気づいたのだから、おそらくは秀人もその変化には気づいているはずなのだ。

 捕手というのは、投手の微妙な変化に気づいて投球の組み立てをしないといけない。

 こういう言い方は誤解を生みそうだが、秀人は中学時代、いつでも薫の顔色を窺いながら生きていたわけである。よって、大悟よりも秀人のほうが薫については詳しいはずだった。

「大方、先週に煩っていた風邪でもぶり返したんだろ。それに俺が九曜の見舞いに行ったのは前に休んだときだぞ。最近は俺も野球部で忙しいし、九曜のことはよくわからん。岬ちゃんのほうが知ってるんじゃないの? 最近九曜と仲良くしているみたいだし」

 秀人のどこか突き放したような言い方に、大悟がいぶかしげな表情を浮かべていると、隣で楓のお弁当を食べていた岬が思いついたように会話に入ってきた。

「う~ん、昨日は普通に学校に来てたけど、ボクが見る限り、変わったところはなかったと思うな」

 何かと薫と気が合う岬は、他人にあまり心を開かない薫とすでに打ち解けていて、けっこうお互いのことなんかも、ざっくばらんに話しているそうだ。

 最近のことだけを考えると、薫の一番近くにいるのはおそらく岬だろうが、そんな岬ですら薫の微妙な変化には気づいていないみたいだ。そうなると、もしかしたら秀人も本当に薫の微妙な変化に気づいていないのかもしれないし、その微妙な変化自体が大悟の思い過ごしなのかもしれない。

「話は変わるんだけれど、九曜さん、この間ソフトボール部に体験入部して、ソフトボール部のエースからホームラン打ったらしいよ。それから熱心に勧誘されてるらしいけど、結局ソフト部に入るのかな」

「まあ九曜だしな、こんな言葉で片付けられるのが九曜の凄いところだよ。だいたい、中学時代は俺らと余裕で渡り合っていたんだから、今さら女子の中にアイツを放り込むのはかなり卑怯くさい感じがするんだけどな」

 中学時代から薫の活躍を間近で見てきた大悟にとっては、ソフトボール部のエースからホームランを打って無表情でベースを一蹴する薫の表情が簡単に思い浮かぶのだ。

「そろそろ部活も決めたいって言ってたから、結局ソフトボール部にするのかもね」

 岬が顎に指を当てて首を傾げると、おもむろに秀人がベンチから立ち上がる。

「わり、ちょっと俺、先に行ってるわ。今週の日曜日に練習試合があるんだけど、その打ち合わせを先輩としたいんでな」

 話を遮るように、秀人は背中を向けて、後ろ向きにこちらへと手を上げて去って行ってしまった。

 心なしかその背中が小さく見えた気がするけど、きっと気のせいだろう。

「んじゃあ、俺は今日あたり九曜のお見舞いでも行こうかな。この間休んだときは、行けなかったし」

「あっ、それじゃ、ボクも行くよ~。九曜さんはボクにとっても大事な友達だしね。それに――」

 岬はそこで一拍置く。

「夢魔の仕業かもしれないしね」

「夢魔……?」

「大悟クンも夢魔に取り憑かれた時に、突然身体がだるくなったりしたでしょ。だからもしかしたらって思ってね」

「それじゃあ、九曜が休みがちになったのは、夢魔のせいかもしれないと?」

「可能性は低いかもしれないけれど、ゼロじゃないからね。それにこの前のおしゃべりな夢魔が言ってた言葉も気になるしね」

「あれか? 『俺がダメでもアスタロト様がいる』とかいうやつか? まあ、そのアスタロト様が近くにいるかもしれないのなら、警戒は怠らない方がいいってわけだな」

「そういうことだね。とは言っても、肩肘張ってても仕方ないから、あんまり根は詰めすぎないようにしないとね。お母さんにも話してあるから、お母さんのほうでもそのへんの捜索は続けているだろうしね」

 そんなふうに今後の方針を話していると、いつの間にか昼休みを終了が近づいていた。

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