3-2 放課後の教室
「ねえ大悟クン、ボク達の関係ってなんなのかな?」
岬はどこか熱っぽい表情で、大悟へと顔を寄せてくる。
場所は夕暮れの教室、果たして岬の顔が赤く見えるのは、窓の外から差し込む夕日が反射しているせいなのか、それとも別の要因があるのか。
岬の顔が近づくにつれて。大悟の心臓が大きく跳ね上がる。
(――って、何を俺はドキドキしてやがるっ! 相手は岬で男だぞ)
自己暗示をかけるように言い聞かせるが、そうやって自分に言い聞かせるという行為自体が、余計に岬のことを意識しているということになり、大悟はドツボに嵌まってしまう。
「ねえ、どうしてボクを避けようとするのかな?」
息がかかりそうなほどに顔を寄せてくる岬。
改めて良く見ると、岬の顔はそんじょそこらの女子じゃ相手にならないほど可愛らしい顔立ちをしている。
長い睫毛にすっとした鼻梁、そしてふっくらとした唇。
岬のパーツをまじまじと凝視してしまい、思わず唾を飲み込んでしまう。
その挙動が岬にも伝わったのか、岬はいたずらっぽく口元をつり上げた。
「どうしたの? ひょっとして、大悟クン、ボクのこと意識してくれてるの?」
大悟の耳元をくすぐるように発せられた岬の声が、優しく大悟の鼓膜を揺さぶった。
――全身に電撃が走る。
「ば、馬鹿なことを言うな。っていうか、さっさとどけろ……よ」
全力で岬から顔を逸らそうとしたが、その視線の先に岬が先回りしている。
何度かそんな攻防が続いたが、焦れた岬が大悟の頬を両手でがっしりとつかみ、大悟の顔の向きを固定させてしまう。
「ねえ、ボクの顔をしっかりと見ながら言って……?」
岬の闇色の瞳が、大悟を吸い込むように見つめている。大悟はその瞳に抗うこともできずに、その瞳を見つめ返す。
「こ、こんなこと……、やめろよ」
精一杯声を絞り出したが、その言葉はなんの説得力も生みはしない。
「ふ~ん、ホントにそう思ってる? こんなに心臓がどきどきしているのに?」
うっとりと笑みを浮かべた岬が、その右手を大悟の心臓の位置まで伸ばしてくる。
元から整った顔立ちの岬だが、今の岬からはそれだけでは言い表せない妖しい何かを感じてしまう。
振りほどくこともできずに、岬の右手が大悟の心臓をとらえる。
岬に触れられた瞬間、全身の熱が心臓に集まってきた。さっきまで大きく跳ねていた心臓は、よりいっそう大悟の体内で暴れ始めた。
「ほら、嘘ばっかり。ねえ、大悟クン、本当のコトを言って。大悟クンはボクにどんなことをしてほしいのかな?」
「…………」
なんの言葉を発することもできずに、大悟はただ岬を見つめていることしかできなかった。
「恥ずかしがらないで。ボクはキミの望むことをなんだってしてあげるし、してあげたいんだよ」
「ち、ちがっ、俺は……」
「ふふっ、大丈夫。ボクに身体を預けて……」
岬の手が大悟の頬を優しく撫でて、ただでさえ近づいてきた岬の顔が一層迫ってくる。
(もうどうにでもなれ!)
そして夕日が差し込む教室の中で、二人の影は一つに重なった。




