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夢の守護者は男の娘  作者: ぴえ~る
2章 退魔士
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2-9 あの娘は誰のモノ?

 デート中のカップル二人を見送った田上秀人たち三人は、その場に立ち尽くしたまま、大悟たちが雑踏に紛れるまでその背中を見送った。

「なあ田上。岬ちゃんと一緒に歩いていたのっておまえのクラスの六宮だろ」

 同じ一年生の野球部の吉田が、見えなくなった二人を見つめたまま残念そうに呟く。

「ああ、そうだよ。あいつとは中学まで一緒のチームでやってたから、顔馴染みなんだよ」

「六宮が岬ちゃんとすげー親しくしてるってのは、聞いていたが……。なんだよあれ。岬ちゃんの言うとおり、どっからどうみても恋人の休日デートじゃねえか」

 通りを歩いている人たちが、頭を抱えて悶絶している吉田を何事かという視線で見つめてる。しかし当の本人は一切気にする素振りは見せない。

 こんなところで、恋は盲目になるってこういうことなのか、などと、秀人はどうでもいい発見をしてしまった。

「いやいや、あいつは野球を捨てた軟弱ものなんだろ。だったら俺たちは甲子園にでもさらっと出場すれば、岬ちゃんは俺たちに振り向いてくれるんじゃないか」

 もう一人の野球部員である斉藤が、がっちりと吉田の肩を抱いて慰めている。

 場所が場所で、状況が状況なら落ち込んでいる選手を、チームメイトが慰めているような感動的な場面に見えなくもないが、街のど真ん中でそんなことをやられても異常なだけである。

 秀人には、周囲から向けられる奇異の視線が、はっきりと感じられていたが、ただこのまま傍観するのも面白そうだったので、秀人は止めることもせずに二人のやりとりを眺めることにした。

「ありがとう斉藤。俺、頑張って甲子園目指すよ。そして甲子園に出た暁には岬ちゃんにこの思いを伝えるんだ……」

 吉田は立ち上がって、自分を慰めてくれた斉藤とがっちり握手を交わす。

「は? 岬ちゃんに思いを伝えるのは俺だけどな……」

 もちろんこの二人も、秀人たちとはクラスが別とは言え、岬が男であることは知っている。その上で岬に対して並々ならぬ好意を抱いているのだ。

 野球部の先輩を筆頭に岬を慕う男子は結構多い。まああの容姿だから、こういう事態になるのも秀人はある程度納得がいくのだが。

(あいつもこれくらい自分の気持ちに素直だったらいいんだけどな……)

 この場にはいない友人のことを思いながら胸中で呟く。

「ほう、斉藤。レギュラー争いよりも、貴様とは決着を付ける必要がありそうだな」

「ふっ、望むところだ。返り討ちにしてやる」

 そう言って、往来のど真ん中でいがみ合いを始める二人。

「思えば、斉藤。おまえのことは気にくわなかったんだ。なんだよそのインテリぶったメガネは。オシャレのつもりか?」

「吉田こそ、髪なんか伸ばしやがって。野球部たるもの坊主一択だろうが」

 そんな罵倒の応酬が徐々にヒートアップして、始めてもみ合いへと発展する。

 メガネをかけている上に髪が長い秀人は、そんな二人の目から逃れるように輪からそっと抜け出して、無関係のフリをすることにした。

 そして真っ昼間の面白そうな見世物が周囲の目を引き、人垣ができて二人への声援が飛び交い始めた。秀人も、すでに無関係なギャラリーの一人として擬態していた。

「おー、ロン毛の兄ちゃん、いけいけ」「メガネの兄ちゃんも頑張れ。負けんな」

 無責任なギャラリーが拳に汗を握りながら声援を送っている。

 それは実に平和な休日だった。

(そうだ。あとで九曜のお見舞いにでも行こうかな)

 二人が喧嘩をしている間、昨日欠席したもう一人の友人を気遣う秀人であった。

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