2-7 夢魔探し
お昼というにはまだ早い時間帯、集合してから間もなくのこと、二人はそれらしい人間を発見した。
二人が歩いているのは、駅近くにあるショッピングモール前。
入り口付近に設置しているベンチに、エナメルバッグを横に置いて、ベンチにもたれかかっている高校生くらいの男がいた。短く切り揃えられたスポーツ刈りと、中々に鍛えられた体つきから察するに、どこかの高校の運動部なのだろうが、その顔には陰が差しており疲弊しているように見える。
言ってしまえば、あの日岬が助けたサラリーマンの男と同じような雰囲気を醸し出していた。
横目でその男の横を通り過ぎてそのまま歩き、大悟は男から少し離れたところで岬に耳打ちをする。
「なんか今の高校生がそれっぽい気がしたんだが、違うか?」
別に声を潜めなくても雑踏の中ならば、誰かに聞かれる心配なんてないのかもしれないだが、それでも大悟は声を潜めていた。
「よく気づいたね。大悟クン。さすがだよ」
岬も同じように答え、二人は近くにあったベンチに腰をかけて、横目で男の様子を窺った。
「それでどうするんだ。話しかけに行くのか?」
「いやいや、その必要はないよ。大悟クンはちょっと待っててね」
岬はおもむろに立ち上がって来た道を引き返し始めた。
そのまま男の前を通り過ぎて、しばらく歩いたところで踵を返して戻ってくる。
「…………?」
何かをした様子は見られなかったが、戻ってきた岬は、満足した表情で親指を突き立てている。
「うん。ミッションコンプリート」
そう言って、岬は携帯電話の画面を見せてくる。
液晶画面には、どこか不機嫌そうに顔を伏せている男の顔がバッチリと収められていた。言うまでもなく、隣でベンチに座っている男の顔だ。
「すれ違ったときに撮ったのか。まったく気づかなかった」
「まあね~」
岬は得意そうな顔でピースをしてみせる。
「それでこのあとはどうするんだ?」
「ん? この場でできることなんてないし、夜になったらこの前と同じようにあの人の夢に入って夢魔退治だね」
「んじゃあ、次に行くんだな」
「まあ、そうだけど、ちょうどいい区切りだし、お腹が空いてきたから先にご飯にしない?」
「ああ、そのへんの行動指針は任せるよ。岬のほうが先輩なんだし、元体育会系として先輩の言うことは素直に聞かないとな」
「ホントに? それじゃあ、なんでも言うこと聞いてくれるの?」
そう言って、目を輝かせている岬は、間違いなくろくでもないことを企んでいるのだろう。
「それじゃあ、手を繋ぎながらご飯を食べる場所を探そうっ。先輩めーれーだ」
予想通り、満面の笑みでろくでもないことを提案してきた。
「残念だけれど、俺はいくら先輩相手であろうと、理不尽な命令に対してはきっちりと反論するタイプの人間なんでな。悪いがその命令は聞けない」
「ちぇっ、反抗的な後輩を持ってしまって、ボクは辛いよ」
岬は唇を尖らせながら、ぶーぶーと文句を言う。
そんなこんなで、端から見るとデートをしている男女にしか見えない二人は、ショッピングモール内のフードコートで少し早めの昼食を取ることにした。




