2-6 待ち合わせのカップル?
休日の西区は、普段にも増して人が溢れていた。
空は雲一つない快晴で、太陽から注がれる光が春の陽気を助長させている。四月も半ばということで、冬もすっかりなりを潜め、周囲に漂う風もかなり暖かく感じるようになっている。
大悟は改札を出て、駅構内から屋外に出たところで、そんな春の陽気を全身に浴びた。
どうやら、自分たちと同じように駅前を待ち合わせとする人はたくさんいるらしく、駅前の広場は待ち合わせの人たちで埋め尽くされていた。
ただその中で岬の姿を探すと、割と簡単に岬を発見することができた。
ひょっとしたら自分には、人混みでも特定の人物を探し出す能力があるのかもしれない、なんて下らないことを考えながら、大悟は岬へと近づいた。
普段の学生服とは違って、学校に行く予定もない今日の岬は当然私服だ。
それでも女物の服を着こなしているのは相変わらずで、膝上あたりまでの紺色のスカートに黒いニーソックス、そして手首までの長袖の黒いTシャツという格好だ。
スカートとニーソックスの隙間から、眩しい太ももがチラチラと見えた。
そんな岬の格好に、普段とは違う格好に新鮮さを感じた。
――だからどうしたということもないのだが。
「よっ、おはよう」
「あっ、大悟クン。おはよう」
大悟の挨拶に気づいて岬が振り向くと、すぐさま駆け足で近づいてくる。
そして岬は一足一刀の間合いまで近づいてもスピードを緩めず、そのまま二人の距離がゼロとなり、大悟へと抱きついた。
「うわっ、やめろ。こんなところで引っ付くな」
周囲から浴びせられる視線を気にしながら、まとわりついてくる岬を引っぺがす。
「も~、男同士なんだし、硬いこと言わなくていいのに。それに欧米じゃ普通だよ」
岬は不満そうに唇を尖らせた。
「ここは日本だ。郷に入っては郷に従え」
「はあい。以後気をつけまーす」
残念そうに肩を落とす岬。
反省の言葉を並べてはいるが、おそらくは反省なんてしていないのだろう。今さら咎めるのも面倒なので、強く言うつもりのないのだが。
「それじゃあ、行こっか」
当然のように差し出してくる岬の手を、当然のように握り返した大悟だったが、すぐにそれが当然のことではないと気づいて、その手を振りほどく。
「なんで男同士で手を握って歩かにゃいかんのだ」
「ありゃりゃ、ごく自然にやったつもりだったのに、ばれちったか。残念」
岬はいたずらっぽく舌を出した。
(今さらなんだけれど、これってデートなんじゃ……。いやいや何言ってんだ。岬は男だし)
そう思いながら、大悟は隣を歩いている岬の顔を盗み見る。
岬は大悟の胸中なんて知らずに、無防備な笑みを浮かべている。
沸き上がる邪念を振りほどくように、大悟は岬に気づかれないように深呼吸をする。
街の雑踏の中へと溶け込んだ二人。こうして休日のデート? が幕を開けた。




