2-1 四谷岬の思い
――あの日、ボクは彼と出会った。
その時に、彼がボクにそういう感情を抱いていたことには気づいていた。だけど同時に、彼はボクの外側を見て、そういう気持ちを抱いているということも理解していた。
そしてボクは彼の気持ちを知りつつ、自分のことをその場では告げずに、自分の正体を隠した。
そういえば、入学式の日、ボクが秘密を告白したときに、彼はこの世の終わりみたいな顔でショックを受けてたっけ……。
ボクは彼を騙していたわけだから、彼から恨まれると思っていた。だけど、現実にはそうならなかった。
その翌日、ボクの正体を知った彼は、少し気まずそうな顔をしていたけれど、それでも「同姓の友人」として、ボクに精一杯気遣って話しかけてくれた。
――たぶんきっとその時からだと思う。
ボクが彼と同じ時間を共有したい、と思うようになったのは。
結局のところ、毎日毎日飽きもせずに彼をからかい続けるのは、ボクが彼の気を引きたいからなのかもしれないね。
ただ、実際の自分の気持ちなんてわからないよ。確かに他人よりは自分のことをわかっているつもりだけれど、それでも自分の気持ちを正確に理解するのも中々難しいもんだよね。
ボクらは歪で奇妙な関係かもしれないけれど、これはこれでひとつの正しい人間関係のあり方なんじゃないかと思う。
果たして彼がどう思っているかはわからないけれど、ボクはこの関係に満足しているよ。
あまり欲張りすぎると、バチがあたるからね。
――要はそういうことなんだと思う。