宇宙の声は、姫君に
プチ長文短編です。
広大な宇宙の中で、青く輝く星・地球――
様々な生命があふれる中で、私たち人類は『知性』を育む。
そして、その中に『コズミック・ヒューマン』といわれる人種が存在していた。
ワイト城の庭園でモンシロチョウがひらひらと飛んでいる。
そよ風がなんとも気持ちよくて、朝の陽ざしがまぶしい。
優雅な時は、お転婆姫にぶち壊された。
「おっはよー、お兄さま!」
コップの紅茶が飛び散るほどに背中を叩かれた、ジューリア王子はティラを叱りつける。
これが、日常茶飯事だ。
ジューリアは十九歳で、兵を率いる将来有望な人物である。
妹思いで、いつもお転婆なところに手を焼いていた。
そんな兄の気なんて知らない、二つ年下のティラはお気楽なもの。
次の瞬間平和な日常が幕を閉じる。
ドドドドドッ!!
地響きが聞えてきたかとおもうと、城下町にモンスターが現れたとの報告があった。
「……また、ダークムーンの仕業か?」
紅茶を一口飲むと、ジューリアは「ふう」溜息をきながら立ち上がると剣を腰に城下町へと向かう。
城下町の民は逃げまといパニックになっていた。
助けをもとめる声が町中にこだまする。
その悲鳴を聞いて、笑いながら追い回すダークムーンの無法者たち。
「助けてください。命だけは……」
無法者一人が一人の女性に目をつけジリジリと迫っていく。
ナイフで脅して嫌がる女性を、ムリヤリ性の餌食にする。
無法者たちはこぞって町の女たちを餌食にしていく。
モンスターがいるため、町の人々は助けに入れず、ただ見ているだけだった。
ジューリア率いる軍隊が到着したのは、町が荒らされて三十分ぐらい経てのこと。
「王子の軍隊だ。やっとが来てくれたぞ!」
町の民から歓喜が飛びかう。
一つの希望を託すように、声援をおくる人々。
面白くないのは、ダークムーンの無法者たち。
「ちっ! 王子が来やがったか。みんなずらかるぞ」
モンスターの鎖をほどいて、リーダーが手招きし子分たちと退いていく。
残された、モンスターは暴れ放題。
「くそ、よりによって"ハネッド"か……やっかいなのを置いていったな」
ハネッドは、この世界で一番やっかいなモンスター。
その目はギラギラと銀色で、爪・牙も鋭く、黒い毛に覆われ凶暴だ。
手を空にかざし、兵士にライフルを一斉射撃するよう指示する。
その発砲でハネッドは倒れた、かに思えた。
しかし、ジューリアに突進してきた。
ライフルを撃つのが間にあわず、ジューリアは重傷を負った。
必死に兵士たちはライフルを撃ちつづけて、ハネッドを射殺したものの王子は意識不明に陥る。
すぐさま救急隊員が駆けつけ治療にあたったが、あと一歩のところで息を引き取った。
このときから二日後――
コーン、コーンと鐘がなりる教会で、ジューリアの葬儀が行われていた。
「……なんで、なんでお兄さまが死ななければならないのよ?」
悲しみにふける、父・ジョーンと、母・シュリーナは優しくティラをなぐさめる。
葬儀は静かに行われ、ジューリアの棺桶を埋葬して、お墓に花束をそっと添えた。
その夜、最愛なる兄を失った悲しみと、ダークムーンへの強い怒りとでティラは荒れていた。
枕を壁に投げつけて、泣きわめいた。
そして、寝き疲れいつの間にか眠りに就いく。
――そこは、宇宙――
星たちがまばゆく光っていた。
ティラは宇宙の声を耳にする。
《……ティラ・ワイト……》
自分を呼ぶ声がした。
声が聞えるほうに足を進めと、温かい光が全身を包んむ。
《ティラ・ワイト、私の声が聞えますね? あなたは宇宙のパワーを手い入れるのです。そして邪神・アンドレフと戦うのです》
意味が分からず、ティラは首をかしげた。
気が付くとベッドの上にいて、窓からさしこむ朝日がまぶしい。
「おはよう、お兄さま……」
家族の集合写真を手にとり涙をこぼした。
その涙はジューリアにこぼれ落ちる。
《泣くんじゃないよ》
そんな声が聞えた気がした。
大臣から朝食の時間と伝えられ、食堂の大テーブルにつくもショックから食事もノドを通らない。
そんな様子をみた、ジョーンはイスから立ちあがって、静かに近寄りなぐさめの言葉を投げかけた。
「つらいな、パパもつらいよ。ママだってつらい。ジューリアは天国でお前を見守っているんじゃにかな?」
複雑な気持ちだ。
嬉しい言葉なのにどこかもの悲しい。
「うん」とうなずいて、パンを一口食べた。
「おいしい……けど、お兄さまがいたほうがもっとおいしい」
泣きながら食堂を飛びだし、壁に頭を打ちつける。
血がにじむほどに頭を打ちつけた。
それを見た家来たちがあわてて止めに入る。
「姫さま、お気を確かに!」
騒ぎを聞きつけたジョーンの指示で医務室に連れていかれた。
両親は心配でいてもたってもいられない。
「ああ、余計に悲しませてしまった」
悔やむジョーンは壁を叩く。
医務室のドアが開いたとき、医師の手をとりジョーンは娘の安否をせかす。
医師からは命には別条ないと言われたが、カウンセリングが必要と診断される。
中に入りベッドに横になっている愛娘の手をとり、シュリーナは頭をなでた。
「今度、旅行にでも行きましょう」
ティラは少し笑った。
でも悲しみが消えたわけじゃなく、心の底からは笑えなかった。
医務室から自分の部屋に戻り、また家族写真の兄を見て目を潤した。
「……どうして、涙がほほを伝うの? 泣くなって叱られたのに」
今朝の声がジューリアに似ていたからだ。
必死に涙をこらえようとするが、次から次へとこぼれ落ちる。
鼻水もたらして、お姫様は顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、お兄さま。私そこまで強くない」
泣き疲れたころ、意識がもうろうとしていく中でまたあの声が聞こえた。
《憎むは、邪神・アンドレフ。あなたの力を、宇宙のパワーを解放なさい。コズミック・ヒューマンの力を……》
理解ができない。
この幻聴は、この日から続くことになり悩ませる。
そして城内で変なウワサが出回った。
「最近、姫さまは夜中に出歩き、屋上で空を見ながら独り言をつぶやいている。まるで神と交信しているみたいだ」
ジョーンはその光景を見たという一人の兵士を問いつめた。
恐る恐る語る。
「……はい、私が見たとき姫さまは宇宙がどうのこうのとか……」
これは心の病が進行していると思ったジョーンは、その晩から侍女を見張りにつけた。
夜中、ムクっと起きあがるティラの後をつけた。
屋上に行った瞬間に姫さまが宙に浮くのを見て腰を抜かす。
あわててジョーンの寝室へ向かい報告をする。
すぐに行ってみるとそこで目にしたものは、光に包まれたティラのすがた。
「これは、コズミック・ヒューマンの力だ。古い文献で見たことがある。まさか邪神が目覚める時がきたのか?」
そのとき、老婆が現れて語った。
この老婆はワイト家と代々繋がりがる占い師で、サントルマと人は呼ぶ。
「伝説によると"邪神目覚める時、宇宙の力を秘めた姫君が、世界の混乱を鎮めるだろう"と書かれている」
信じられない様子のジョーンたちは息をのんだ。
しかし、目の前にはコズミック・ヒューマンのパワーを得た姫君がいる。
信じるしかないようだ。
同時刻、町はずれの遺跡ではダークムーンのリーダーが邪神・アンドレフを目覚めさせる儀式をしていた。
生け贄は今までさらってきた女たち。
「邪神・アンドレフさま、我らにその力をあたえたまえ」
呪文を唱えること一時間、闇のゲートが開き邪神・アンドレフが目覚める。
するとそこにいる者たちを丸飲みにしたした。
すさまじく巨大でハネッドまでを一瞬で倒すほどの力。
これを見た生き残った無法者の一人が逃げようとしたが間にあわず惨殺された。
ワイト城では、サンドルマがその邪悪な気を察知した。
「このままでは世界が終わるぞ!」
邪神・アンドレフのすがたが見えたときは遅く口から炎を吐いた。
城下町は火の海になる。
「化け物だァァァッ!」
町中が混乱の渦に巻き込まれていった。
ティラは宙に浮いたまま、邪神へと向かっていった。
「悪しきものよ去れ!」
混沌とする中、コズミック・ヒューマンは、すなわち太陽の剣・星の盾を持ち、月の鎧を身に着けて立ち向かった。
邪神も負けてはいない。
その巨大な体に、すなわちトゲを持ち毒を吐き、闇の衣ををまとった。
両者、引けを取らずにあいまみえる。
その戦いは、人々を絶望に追いこんだ。
「ああ、もしもジューリアさまが生きていらしたら……」
そう嘆くものがいた。
その声、宇宙の女神に届き奇跡をもたらす。
《ティラ・ワイトよ、あなたの愛しき兄はそこにいます。あなたの内にいて力をかしてくれるでしょう》
見よ、黄泉の世界から生き返かえった王子のすがたを――
そして迎まつれ。
彼は言うだろう「泣くな」と、「希望を持て」と――
「王子、王子!」
人々の歓声は、強く届いた。
姫君も、いっそう力を高める。
ジューリアの手がふれたとき、ティラの体は太陽のように輝きを放つ。
邪神の目は潰れ、トゲもなくなり毒も消えた。
そして、太陽の剣でその胸をつらぬいた。
「グォォォォ!!」
邪神・アンドレフ断末魔の叫びをあげて消えさった。
この奇跡の一夜は去り、太陽が昇るころジューリアの魂は宇宙へと向かった。
「お兄さま、お兄さま、お兄さま!」
悲しみの姫君は、何度も何度も叫んでいた。
王子は振りかえると一言添える。
「違う希望をもて、泣くな」
それが最後の言葉となった。
十年後、あの戦いの被災地、城下町は復興しつつある。
姫君は復興の援助をひたすらしてきた。
町は活気づいてきている。
モンシロチョウがひらひらと舞う庭園で、紅茶を飲むティラ。
「おっはよー」
背中を何者かに叩かれる。
ティラは、後ろをふり向き、しかめっ面でその人物の頭をこづいた。
「もう、お転婆娘、誰に似たんだか」
そこへ男性が近寄ってきてからかってきた。
「フフ、君に似たんじゃないかな?」
男性は夫のシータで、背中を叩いてきたのは九歳になる娘のセミア。
「さあセミア、パパと鬼ごっこだ」
無邪気に遊ぶ父と娘に、昔の自分とジューリアを重ねていた。
「私、新しい希望を持ったよお兄ちゃん」
空を見上げて、胸に手を当てつぶやいた。
《良かったな》
そんな声が宇宙から聞えた。
読了感謝!