◇言えない言葉。
キーワード:スカート・秋・ほしいも
赤く染まった紅葉の木の下で、ほしいもを咥えているのは僕の彼女。名前を結城 里美という。
彼女は中毒と言っても過言ではないぐらいほしいもが大好きだ。
水族館へいこうと動物園へ行こうと、必ずカバンの中にはほしいもが常備されている。
お菓子を携帯していると考えればかわいらしい女の子だと思えるのだが、それがほしいもとなると多少なりとも抵抗が生まれる。だって少しばばくさいじゃあないか。
全国のほしいも好きの若者を敵にまわした発言だというのは分かってる。でも、せめて公然の場でもさもさと頬張るのは控えてほしいと思うんだ。
アイボリーホワイトのニットに紺のロングスカート姿はかわいらしいとしか形容できないものなのに、その口元にほしいもがあったらそれが台無しになるんだよっ!
せめてほしいもじゃなくて焼き芋だったったならと何度思ったことか。でも、ほしいもをこよなく愛する彼女にそれを告げられるほど僕ははっきりとものを言える人間じゃないんだ。このことで彼女に嫌われてしまったらと考えただけでその言葉は喉の奥深くへと姿を消してしまうんだから。
まぁ、所詮その程度の願望だってことなんだけどさ。
デートにほしいもを持ち込まないでほしいなって。