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後始末と魔術発動の五話

よろしくお願いします。

 目的を定め、歩みだした漆黒の騎士。

 早速研究室を調べ始めたかったのだが、その前に眼前で異臭を放っている、ルヴォルフの遺体を始末する事から取りかかる。

 こう臭っては落ち着いて研究室を調べる事も出来ないと判断したからだ。


 「ヨ、シ……ツ、カッテ……ミ、ルカ……」


 漆黒の騎士はルヴォルフの遺体がその手に握る杖を抜き取り、遺体へ向けて闇魔術を行使する。

 魔力が送り込まれた杖の先端から、黒い炎のように滲み出した闇が球状に集い、術者の命令を待つように空中で停滞する。

 そして――――――


 「ダァ……ク、フレ……ア!」


 放たれた。

 闇系統の攻撃魔術『ダーク・フレア』。

 空中に停滞していた球状の闇は、弾け飛ぶようにルヴォルフの遺体に突き刺さり、爆ぜる。

 対象を中心に球状に展開した闇は、その内部を炎で焼くように、あるいは酸で溶かすように消滅させていく。

 後に残されたのは、半球状に抉れた地面だけだった。


 「コレ……ガ、マジュ、ツ……」


 情報としての覚えはあるが、自らの意思で初めて発動させた魔術には感慨深いものが有る。

 そして同時に、魔術など一般的にフィクションである世界から来た魂として、その手軽さに驚いた。

 そう、この世界において、魔術の発動は決して難しく無い。

 必要とされるのはたったの三つ、『魔力』と『魔術法陣』、そして『発声』、たったそれだけなのだ。


 まず魔力とは、魂を持つモノが生み出す一種の精神力である。

 個人差こそあるが、魂を持つモノは生まれながらに一定量を備え、生命として時を重ねるほどに増加する傾向がある。

 また、魔術の行使などで消費しても、時間の経過で回復し、睡眠を取る等して精神を休める事で、回復効率を上げる事も出来る。

 魔力の保有上限に関してもやはり個人差はあるが、消費と回復を繰り返すほどに増える傾向があるようだ。


 一方の魔術法陣とは、魔術を発動させるための呪文を詠唱する事で構築される、魔力の流れによって発現する紋章のようなモノである。

 流動する魔力が細い糸のような軌跡をを描き、その幾もの軌跡が重なり、束ねられた様子が見る者に紋章のような印象を与えるのだ。

 流動する魔力が世に刻む、紋章の様な形をした図形、それが魔術法陣である。


 そして最後に魔術発動のトリガーとして、術名を発声する事で魔術は発動し、様々な現象がこの世界に具現される事になる。

 魔力を用いて法陣を構築し、術名の発声を持って発動させる……と、それだけで良いのだ。

 しかしプロセスは同じでも、魔術はその魔術法陣の構築方法によって、大きく二つに分類れている。

 一つは呪文の詠唱により法陣を構築する『詠唱魔術』。

 そしてもう一つが、予め法陣を刻印しておく『無詠唱魔術』だ。


 詠唱魔術とは、呪文を詠唱して法陣を構築し、最後にトリガーとして術名を発声する事で魔術を発動させる基本的な魔術だ。

 呪文さえ知っていれば特別な道具は必要なく、基本的には身体一つで発動させる事が可能である。

 その一方で、詠唱には相応の時間を要し、詠唱を途中で誤れば、魔術の発動どころか、暴発させてしてしまういうリスクがある。


 片や無詠唱魔術は呪文の詠唱こそ必要無いのだが、予め詠唱魔術で構築した魔術法陣を記憶し、何らかの物体に法陣を刻印しておく必要がある。

 そして発動に際し、直接法陣に触れる事で魔力を流し、最後に術名の発声を持ってトリガーとする魔術だ。

 魔術法陣の構築を予め行っておく事で呪文の詠唱というプロセスを省き、魔術の発動速度を上げるのが最大の特徴である。

 加えて呪文の詠唱をせずに済むという事は、詠唱ミスによるリスクを抱えないというメリットもあるのだ。

 しかしこちらもトリガーとして最後に術名を発声しないと発動しないという点は同じであり、刻印された法陣に直接触れて魔力を注ぎ込まなければならないという特性上、何かと制約が多い。

 特に問題となりがちなのが、法陣を刻む場所である。

 魔術の発動速度や、詠唱ミスのリスクが無い無詠唱魔術は、戦闘中など速さがモノを言う場面でこそ、その真価を発揮する。

 しかし壁や地面といった場所に法陣を刻むと、当然動かす事が出来ず、発動場所が限られてしまう訳だ。

 そこで開発されたのが、今正に漆黒の騎士が手にするルヴォルフの杖の様に、またその杖を召喚する為の法陣が刻まれていた、ルヴォルフの黒いローブの様な、持ち運びが容易で、直接魔力を流し易い装備品――――


 『装陣器(そうじんき)』だ。


 これら装陣器は、限られたスペースに法陣を刻む為、一つの品に刻める魔術法陣の種類が少なく、製作するには非常に緻密で高度な技術が必要になる。

 もし法陣の刻印を誤れば、法陣に魔力を通した際、魔術が暴発する危険が有るからだ。

 製作は困難であり、購入しようとすれば非常に高価なのだが、戦闘に際して、その有用性は計り知れないものが有る。

 もしルヴォルフの杖に、カラミティ・チェインの魔術法陣が刻まれていたならば、先の戦闘結果も変わっていたかも知れない。

 このように、無詠唱魔術には制約や準備、資金が必要となる半面、戦況を左右するほどの強みがある訳だ。


 漆黒の騎士は、それら魔術を扱えるという事実に確かな高揚感を感じながら、ルヴォルフの研究室を調べ始めるのだった。

ありがとうございました。

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