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復讐と捕食の四話

よろしくお願いします。

 ルヴォルフにとどめの一撃を下したその瞬間、恭司であったモノは再び暗闇の空間に訪れていた。

 しかし今回は地に足付かない感覚といったものは無い。

 たった一度の経験だったが、この空間がどういった場所なのか、なんとなく察しがついていたからだ。

 魂の戦場とでも呼ぼうかその場所には、蒼い輝きを放つ恭司であったモノの魂と、暗闇の空間に染みの様に広がる灰色の光に包まれた老人の姿、ルヴォルフの魂があった。

 殺したモノと殺された者。

 立場の違いこそ有るが、前回と同じ構図に、自分が取るべき行動を定めた恭司であったモノは、眼前の魂を殺すべく蒼い炎となってルヴォルフの魂を飲み込む。

 生前には莫大な魔力を秘めていたルヴォルフの魂は、一筋縄ではいかないという予想に反して、いとも容易く消滅する。

 消滅間際、流れ込んでくる魔術の知識と共に、『魂喰らい(ソウルイーター)』という言葉が微かに聞こえた。






 成すべき事を成した後、恭司であったモノはルヴォルフの死体から自らの体の一部である漆黒の剣を引き抜き、刃に付着した血を振り払ってから左腰の鞘へと収める。

 復讐は果たされた。

 後に残されたのは散乱した備品の数々と、目を見開いたまま息絶えている老人の死体。

 そして……言い知れぬ程の虚無感。

 この復讐に、この殺人に一切の後悔は無い。

 ルヴォルフを殺した事で、元の世界へ帰る手段も潰えたかもしれないが、帰れたところで恭司は既に死んでいる。

 今ここにいるのは、漆黒の騎士の姿をした恭司であったモノであり、人間では無いのだから。

 元の世界に帰れても、日常には帰れないのだ。


 「ア、ァ……ァァ……ァァァァァッ……!」


 何故か母に会いたくなった。

 涙すら流せずに、人であったモノが慟哭する。






 どれ程の時が経ったのだろうか、気が付けばルヴォルフの死体が異臭を放ち始めていた。

 耳も鼻も無いが、音も聞こえれば臭気もしっかり感じ取るらしい。

 漆黒の騎士の記憶で知ってはいたが、実際に感じるとなると理屈が分からないので違和感が拭えない。

 魔術とは本当に何でも有りのようだ。

 そこまで考えた恭司であったモノは、一つの可能性に思い至る。

 不可能を可能とする魔術ならば、自身が生き返る術があるのではないか……と。

 都合の良過ぎる考えだ。

 しかし現に今、自身は擬似的でこそあるが一つの生命として存在できている。

 ならば自らの肉体を再生する術が、この世界に存在しても不思議ではない。

 何の根拠も無い、現実逃避の様な可能性。

 だがそれでも、信じて行動している限りは、辛うじて前向きだと思う事が出来る。

 どの道他にする事も無い。

 例えその先に待つのが絶望であったとしても、諦めないうちは希望なのだと、恭司であったモノは無理矢理思いこみ、再び動き始めるのだった。






 恭司であったモノは、先ず自分自身に目を向ける。

 召喚魔術の大家であり、稀代の闇魔術師としても名を馳せたルヴォルフ・ファウスト。

 彼を殺した時、自身の中に魔術の知識が流れ込んできたの思い出したのだ。

 その知識の中に何かヒントがあるかもしれない。

 そう考え、まるで辞書でも引くかの様に魔術の知識を探っていき―――ある疑問に行き当たった。


 「ナ、イ……?」


 結論を言えば、知識の中に肉体の再生に関するヒントは無かった。

 残念ではあるが仕方が無い事だ、それはいい。

 だが、当然のように有ると思っていた知識までもが無かったのだ。

 ルヴォルフの魂が消滅する際に手に入れた知識、それは闇魔術に関しての物だけだった。

 彼が知っていた筈の召喚魔術は勿論、彼の魔力や記憶に至るまで、闇魔術の知識以外が何も無かった。


 「ナ、ゼ……?」


 漆黒の騎士に宿った魂を殺した際、恭司であったモノはその全てを引き継いだ。

 記憶と知識、技術と魔力、そして漆黒の甲冑という身体まで。

 人格とも言うべき魂が消滅した以外は、その全てが今の恭司であったモノの糧となり、現在の自分を形作っている。

 どうやら一度経験した事で、全ての記憶や知識が手に入るものと思い込んでいたらしい。

 二度しか経験が無いため、一体どういった基準で知識や記憶、魔力の吸収が行われているのかが分からないのだ。

 改めて吸収した記憶や知識を探ってみたが、本来この『漆黒の騎士』という魔術的擬似生命体に、殺害した存在から記憶や知識、魔力を奪うという能力は無い。

 それはルヴォルフの手によりこの世に創造されて数十年、幾度となく敵対者を屠り続けているにもかかわらず、経験が無かったという記憶から明らかだ。

 ならばこの能力は一体何なのかと考えた瞬間……


 魂喰らい(ソウルイーター)


 その言葉を思い出した。

 あの魂の戦場とでも表現できそうな暗闇の空間で、ルヴォルフの魂を飲み込むかのように殺害した瞬間に聞こえた言葉だ。

 その言葉が何を意味するのか、正確なところは分からない。

 しかし他者の魂を食い殺す事で、記憶や知識、更には魔力等も吸収した事を考えれば、この能力を指した言葉であると考える事もできる。

 少なくとも無関係ではない……そんな気がしてならなかった。






 無い物ねだりをしても仕方が無い。

 ルヴォルフの召喚魔術に関する知識は惜しかったが、手に入らなかった以上は自分で調べるより他に無い。

 仮に『魂喰らい』とする、この能力にしてもそうだ。

 元々恭司であったモノが保有していたのか、それとも召喚の際に手に入ったのかは知らないが、現状として自らの能力である以上、詳しく調べて行く必要がある。


 「ジョウ……ホウ……ガ、イル……」


 虚無感に囚われていた心に、目的と言う行動原理が生まれた。

 行く先は見えず、成すべき事は多い。

 それでも根拠の無い可能性に縋り、恭司であったモノ、漆黒の騎士が歩み出す。


ありがとうございました。

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