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新生と復讐の三話

よろしくお願いします。

 「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」


 その産声は、底知れぬ洞窟の深淵から響く、風の唸り声の様だった。

 漆黒の鎧と共に、蒼い閃光に包まれた次の瞬間、岸野恭司は漆黒の鎧と一体化し、この世界で新生を果たした。

 一体化とは言っても、実際に恭司の肉体と漆黒の鎧が混ざり合ったのではない。

 一見すると、今まで通りの悪魔の角を兜に頂く漆黒の騎士だ。

 しかしその関節部の鎖帷子から溢れ出る、炎のような光……魔力の輝きは、紅から蒼へと変化している。

 そして以前は紅く輝く魂を宿していた漆黒の鎧の内部には、蒼い炎のような魔力で包まれた恭司の遺体が、漆黒の鎧を纏うようにして納められている。

 恭司の遺体は血肉も衣服も消滅し、既に白骨と化していたが、頭蓋にある眼球のあった窪みには、蒼い光が瞳のように納まり、暗い兜の中で爛々と輝きを放っているのが見て取れる。

 そして右手には恭司の肉体を貫いた時のまま漆黒の剣が握られており、刃に纏っている魔力は蒼い輝きへと変化していた。


 「ル、ヴォ……ル、フ……!」


 新たな存在として新生した恭司であったモノは、人外として最初の光景を目にする。

 蒼い光球という新たな眼球は、驚愕の表情を浮かべる老人の存在を捉えた。

 恭司が死んだ研究室で、相変わらず机に向かっていた所を見ると、どうやらあの暗闇の空間での出来事は一瞬の事だったようだ。


 「な、何事……っ!?」


 黒いローブを纏った老人は、その顔に驚愕の表情を浮かべ、口走る。

 新生に際して引き継いだ情報により、意味不明だった言語も今は理解できている。

 闇魔術にも精通する召喚魔術の大家、『ルヴォルフ・ファウスト』は、自らが創りだした漆黒の騎士の異変に気付いたのだろう、反射的に虚空より二メートル程の杖を召喚し、恭司だったモノに向かって実体、非実体を問わず万物を拘束する闇魔術『カラミティ・チェイン』を詠唱する。

 だが、恭司であったモノは知っている。

 ルヴォルフの従者として、漆黒の騎士が記憶したその魔術を、恭司であったモノは自らの記憶として知っているが故に―――――動く。


 「オォォォォォッ!」


 発動までの僅か数秒。

 この教室程度の狭い空間で、その隙は致命的なものとなる。

 恭司であったモノは、蒼い魔力を宿した漆黒の剣を、身体の右後方に振り上げ、左半身を前に一気に斬り込む。

 ルヴォルフとの距離は僅か数メートル。

 漆黒の騎士として新生した恭司であったモノには正に一瞬の距離だ。

 一切の重さを感じさせない柔軟な動きで、瞬時にルヴォルフの懐に入り込み、勢いを殺さず一瞬で剣を振り抜く。


 「ぬおっ!!」


 だが、蒼い輝きを纏い、振り抜かれた右上からの袈裟斬りに、ルヴォルフは即座に対応してみせた。

 詠唱が間に合わないと見るや魔術の発動を即座にキャンセルし、自らの魂が秘めた魔力を自身の外へと一気に放出する。

 魔術でも何でもない、ただの魔力の放出だが、ルヴォルフの宿す大量の魔力は、一種のバリアのような魔力の壁を形成し、恭司であったモノが放つ、強烈な斬撃を辛くも凌いだのだ。

 しかし術として洗練された正式な魔術とは違い、瞬間的な放出でしかない魔力の障壁は、無駄も多く直ぐに霧散してしまい、相殺しきれなかった衝撃がルヴォルフの身体を吹き飛ばす。


 「ぐっ……馬鹿なっ! 契約者に……主である私に攻撃など出来るはずがっ……!!」


 壁まで吹き飛ばされ、轟音を上げながら強かに身体を打ちつけたルヴォルフ。

 その衝撃で散乱した備品や書物の中、背中を壁に預けたまま苦悶の表情を浮かべて口走るが、ルヴォルフが契約した魂は既に消滅している。

 新生した恭司であったモノにとって、他者が結んだ契約など何の効果もない。


 「コ、ロ……シテ、ヤ……ル!」


 恭司であったモノは、明確な殺意をルヴォルフに向けつつ、新たに得た体の様子を確かめる。

 肉体が存在しない以上、漆黒の騎士に筋力等と言った身体能力は皆無である。

 しかし鎧に施された魔術が、宿らせた魂に秘められている魔力を用いて鎧を動かし、その魔力によって身体能力が発揮される仕組みになっているのだ。

 そして今、漆黒の鎧に宿っている魂は、強大な魔力を誇るに至り、最早常人の身体能力とは比べ物にならなかった。

 漆黒の騎士が身につけていた剣技をも自らの技として取り込んだ恭司であったモノは、未だ態勢を整えられずにいるルヴォルフの息の根を止めるべく、再び剣を構える。


 「ミ、エル……、マ……リョ、ク……ハ、モウ……ナ、イッ……!」


 新たに手にした蒼い瞳は、体を見透かすかのようにルヴォルフの魔力を測る。

 本来であれば現在の漆黒の騎士をも上回る魔力量を誇るルヴォルフだが、異世界召喚という膨大な魔力を消費する魔術を行使した後である事に加え、漆黒の騎士の斬撃を防ぐ為、痛恨にも残っていた魔力を放出してしまっている。

 匹敵する者など数えるほどしか居ないルヴォルフの魔力も、既に底を突こうとしているのだ。

 万全の状態であれば例え近接戦闘であっても簡単に倒す事は出来ないであろう事を記憶から理解している恭司であったモノは、千載一遇とも言えるこの機を逃すつもりは無かった。


 「あの蒼い魔力……! 内蔵した魂が変質したとでも言うのかっ!? 状況的に考えてあの少年を殺した影響……しかし奴に特別な力は何も感じなかった! 確かにそれなりの魔力を保有してはいたが、精々がその程度だったはずっ! そもそも他者を殺害する事で魂が変質するのなら、これまで一度も変異しなかったのはおかしいっ! ならばやはりあの少年に何かがあったのか!? 私の眼を欺く程の何かが!? それは何だっ!? 一体何故!! 何故!? 何故ぇぇぇぇぇっ!!」


 ルヴォルフは絶体絶命の状況に、発狂したかのように叫び声を上げて白髪の頭部を掻き毟っていた。

 それでも打開策を模索しようとしているのか、漆黒の騎士の様子を観察し、変異した原因を突き止めようとしている、しかし―――――


 「ぐっ……おぉ……おぉぉぉぉっ!!!」


 ルヴォルフが真相に辿りつくのを待たず、蒼い魔力を纏った漆黒の剣がその心臓を貫く。

 剣の柄頭を左手で押さえ、右足を力強く踏み込み放たれた神速の突き。


 「シ……ネ……!」


 それは奇しくも、恭司を殺した一撃と同じ技だった。


ありがとうございました。

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