1、人を殺すということ--2
「物騒な話ですね」
不意に声がかかる。後ろから声をかけてきたのは私の助手だった。凛とした声に対応するかのような、澄んだ青色の輪を左手に持つ。僕の青より数段きれいな青だ。字で表現するなら蒼と格好つけていても問題ないだろう。自分と似た部分があると親近感がわくのが人間という物だが、僕と似ていると考えると少々吐き気がするのが正直なところである。屈折した自己嫌悪なのではないかと僕は思う。
彼女は非常に有能ではあるが、僕に見合う女性かといえばそうではない。もちろん僕が劣っているという意味でである。得てして女性は強いものであり、僕のような人間は弱いものである。
弱い人ほど逃げに走る。僕がいい例である。自分のゆがんだ正義感を発散するのはいつもいつも闇のうちである。相手は毎回腕輪の黒い奴である。相手が悪なら倒さなければならない。黒い疑惑があるのなら、罰するべきと考えるのが自分である。其れなら僕は悪なのか。人を殺すのは悪なのか。考えずにはいられない。考えてみても分からない。
今現在においてはっきりわかっていることといえば、僕が善でも悪でもないということ。これは自分の腕輪が何とも言えないグレーであることによりはっきりしている。殺す相手によってグレーの濃さが変わっていくのはご愛嬌だと思うことにする。自分の腕輪の色はもはや自分の管轄外にあるのだ。黒が増そうが白が増そうが、これ以降真っ白になることはないのだ。正義と悪は紙一重とはよく言ったものである。
そして今現在においても分からないこととしては、徐々に黒さを増していく、私の助手をいつ葬るべきかという部分である。もともと純白だった彼女の腕輪は、今では僕と同じ程度にグレーとなっているのだった。もちろん彼女の腕輪が真っ黒になったなら、彼女を自らの手であの世へと送るつもりである。彼女が悪いことをしており、腕輪が真っ黒になってしまうことと、彼女を抱きしめたい、あわよくば接吻したいという二つの感情は、自分に都合のいい方を封印するべきなのであろう。その判断だけは間違えないようにと、僕はすでに心の奥で覚悟を決めている。そのつもりである。




