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環状の理  作者: 絵之守空
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1、人を殺すということ--1

 僕の両腕には、というか、僕からしたら全人類の両腕には、一つずつ輪っかがついている。

 気付いた時にはついていた、という表現が一番しっくりくる。僕の両手に嵌っている輪に気付いたのはそれこそ物心のつくころ。一番はっきり覚えているという意味で言うなら、おそらく初めて物を壊した幼稚園児の頃だろう。

 当時僕は両手の輪を取りたくて、先生この輪っか取って、とずっと言い寄っていた。僕からしたらみんなつけているのに、他の人はそんなものないという。そして自分が認識できないものは、認識できるものを嘘つき呼ばわりすることで遠ざける。今思えば世の理不尽さを初めて知ったのはあの時かもしれない。ともかく、僕に見える輪っかは他の誰にも見ることができないようだった。そのうち輪っかのことを言い出すこともやめた。

 左手の輪の色は人によって違う。十人十色を具現化したようなものだ。非常に近い色であることはあっても全く同じという物はないのではなかろうか。僕には正しい色の識別なんてできないから、はっきりとしたことは言えないのだけれど。とにかく、きれいな色から汚い色まで。赤色から紫色まで、白と黒は見たことないが、虹に含まれる7色に似た色はだいたいあったように思う。ちなみに僕は青色だ。どういう青なのかはわからない。何色?と聞かれたらだいたいの人が青色と答えるような色だと思ってもらえたらいい。

 右手の輪の色も人によって違う。しかし、左手と違うのは、必ずモノトーンカラーである点だ。白い人、黒い人。様々いるようだが多くの人は白っぽい灰色のようだった。この輪についてわかることは、"おそらく白い輪の持ち主は善、黒い輪の持ち主は悪"ということだ。現に僕の手に嵌っている輪はかなり黒くなっている。それでもまだ漆黒となりきっていないのはひとえに僕の自分ルールのおかげだろう。

 右手の輪が善悪を表すバロメータじゃないのかという仮説の下、僕は殺す対象を"右手の輪が黒い人"に限定した。ただこれだけで、世間的には害悪である、と思っている真っ黒な輪になることを回避しているのだと思う。

 初めは殺人鬼だった。たまたま僕が襲われた。小、中、高と学校では人畜無害そうという評価を受け続けた僕だ。標的になってもおかしくはない。そいつの腕輪は真っ黒だった。僕は無我夢中で相手を倒そうとした。たまたま一発きれいに入り、形勢が逆転。本人が今までこんなことなかったのに云々と言っていたからおそらく何回か同じようなことを繰り返している。ちょうどワイドショーで連続殺人が起きていたので犯人はコイツだったのだろう。つまり、僕が人を殺す対象に入れたのは、正当防衛、いや過剰防衛がきっかけである。ちなみにこいつは連続殺人の被害者として報道された。よって犯人が変わり、手口が変わったことによってまだ犯人は捕まっていない。その犯人はかくいう僕なのだけれど。

 それから黒い輪をもつ人間を殺すたび、連続殺人として取り上げられ、被害者についての情報も出てくる。細かくは言わないが、裏で悪事を働いていたという噂がある、という程度の情報がお茶の間を席巻し、義賊ではないかと言われたほどだった。それに関しては申し訳ないと言わざるを得ない。悪人は殺していい、僕にとって玩具くらいの認識なのだ。自分の玩具を壊すことで正義の味方だの天罰の申し子だのと持ち上げられても困る。どうやら昨日僕が血の池に沈めた彼は結婚詐欺の常習犯だったらしい。画面の向こうで行き遅れのおばさんが、女の敵だの結婚をなんだと思っているのかだのと喚いている。そして一言、でも人殺しはやりすぎよ。

 僕はその言葉を熱いコーヒーと共に飲み下す。苦みを伴う液体と共に、若干の温度をのどに残してそのまま消化器へと落ちて行く。喉元過ぎれば何とやらというやつだ。いい加減そういう話は飽き飽きしている。


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