ソラニ ニタイロ
「もともと、ナツのこと、好きじゃなかったんだ」
今日、別れを告げられるのは予測していた。
しかし、こんな言葉で告げられるとは。
想定外の一言に、一瞬、気が遠くなる。
「ほら、ナツってさ、精神的に弱いじゃん。俺がいなくなったら、自殺しそうでさ。あ、でも、友達としては仲良くやってこーぜ、趣味も合うんだしさ」
心の中で、思い上がるなと叫んで前を見る。
薄く笑いながら、言葉を吐く男に、彼女は憎悪を抱きながらも、まだ執着していた。
「あ…うん、わかった、友達として、よろしくね」
男が手を差し出す。
和解の握手をしようというのだろう。
女も手を差し出す。
差し出しながら、心の中で罵る。
罵りながらも、僅かな望みをかける。
友人から、恋人にだってなれるもの。またきっと「彼女」になれるわ。
知らず、その言葉は彼女の口から零れていたらしい。
男が鬱陶しそうに彼女を見ながら吐き捨てるように言った。
「は?お前、ウザいよ。てか鏡見ろよ。お前が彼女ヅラして隣を歩いてるだけで俺の価値が落ちるの。解る?友達で居させてやるんだから感謝しろよ」
相手にとも自分にともつかず、「死んでしまえ」と呟く。
いつだったか男に言われた言葉を思い出した。
------汗手だから、気持ち悪い。
急いで差し出した手を引っ込める。
「どうしたんだ?」
不思議そうに男が女を見下す。
「ごめん…またベタベタしちゃうから」
手を繋ぎたくないって言ったのは、あなたなのにねぇ。
小さく微笑んで手を離す。
なんだか涙が出てきた。
悔しくて、悲しくて。
けれど女は笑っていた。
男に涙を見せまいと。
そして、笑っていないとその場に崩れ落ちてしまいそうな自分を支えるために。
女は朗らかに笑ってみせた。
それを男は、可愛いげがないというように一瞥すると、「じゃあ、また連絡するから」と言い捨てて踵を返した。
涙が零れそうになって、唇をかんで上を見る。
ぼやけて何も見えない目を優しく空が目隠しする。
今は何も見なくていいんだと言うように。
大嫌いだった東京の空が、こんなにも懐深く青いなんて思わなかった。