第53話 異形の人形と連接剣
「21、仕事だ」
ゾッとするような冷たい声を受けて、私は、ミラは牢獄から外に出された。
ミラの魔法は、魔物との直接戦闘に関してはそれほど強い魔法じゃない。
それなのにミラに声をかけられるということは、きっとスパイか情報の奪取かはたまた破壊工作か、きっと碌でもない任務なんでしょう?
でも、姉さんの命を盾に取られている限りミラに選択肢なんてない。
いや、そうじゃなくてもミラの命も、この生贄と名付けられた組織の人間は全員博士に、あの変貌してしまった天才に命を握られているのだから。
「博士の探していた、蘇生魔法の使い手と思しき女が見つかった。お前の仕事は、日本のマセイタイというバーバ・ヤガー共の巣窟に出向して情報を集めることだ。状況が許すなら、ターゲットにお前の魔法を使って「同意のもとに同行」してもらっても構わん」
日本、父の故郷だけど生憎とミラも姉さんもその地へ行ったことはない。
ルーシャとは違い、バーバ・ヤガーにも好意的な奇妙な国だという事と、食なんていう栄養補給行為に無駄に心血を注いでいるという与太話ぐらいしかミラは知らない。
ああ、小さい国だから家も小さいんだったっけ。
現地でミラに与えられる部屋があの牢獄以下の広さであることも覚悟しておいたほうが良いかも知れない。
「なんとしても博士に戻って貰わねば生贄自体が崩壊しかねん。必要な資料は用意しておいた、頭に叩き込んでおけ。今回の潜入は本名で構わん、その方が怪しまれないだろう。他の設定は資料に書いてある通りだ」
どうやら久々に番号ではなく名前で呼ばれる機会となるみたいだ。
偽名じゃないから呼ばれてすぐ返事ができるように頭を切り替える必要もない。
資料を読む限り、警戒されているのは間違いないし、ターゲットのセヴンスと名乗るバーバ・ヤガーに接触するだけでも時間がかかるに違いない。
魔物との戦闘は発生するだろうけど、しばらくまともな生活が送れるかも知れない……。
そう思って日本に来たミラに最初に話しかけてきたのは、ミラを一番警戒しているはずのターゲット、セヴンスだった。
やけに親密そうなキモノの女と、視線の鋭い不健康そうなルーシャ語を解する2人の取り巻きを連れて。
どういう事?何が目的?
他愛のない質問を投げかけられたけど、相手は《《救世主の根源》》の所持者。
資料曰く、《《列聖されてる聖人の逸話》》さえ魔法として使用する事ができる使い手だ。何気ない質問だって迂闊に答えられない。
なにせ、原罪教にはあれこれ合わせて約一万人の聖人がいるのだ、嘘を見抜く逸話を持つ者、何でも無い事柄から答えにたどり着く逸話を持つ者だって居るはず。
それらの逸話を魔法として再現され、ミラの目的が露見でもしたら全てが御破算だ。
心を読む魔法を使われる可能性もあるけど、他人にかける魔法である以上魔力保有者なら抵抗は可能なはずだし、そちらは多分大丈夫だと思う。
幸運にも、魔物が出現しそれに乗る形で会話を切り上げることが出来た。
出撃の時に手順がわからなくて手間取ってしまったけれど、言い訳として使った魔物退治の実績は、積んでおくに越したことはないはず。
転移の魔法で現場へ瞬間移動、こんなデタラメな魔法を使うバーバ・ヤガーが居れば魔物の対処もそれは楽に違いない。
この魔法が有れば、母国の様に対処できないと判断された地域が切り捨てられるなんて事は無いのだろう。
転移先は魔物から少し離れた物陰を選択した。ミラが魔物と戦うためにはほんの少だけど準備時間が必要だから。
ミラと一緒に転移されたスーツケースを開くとバラバラになった死体の様に折りたたまれた戦闘人形が現れる。
懸糸傀儡ではなくミラの《《傀儡と血》》の根源で操作する、血に見立てた赤い液体の通った兵器人形。
「覚醒めて」
ミラの魔力を通すと、バネじかけのように人形が起き上がる。
敵は5体、できるだけ早く頭数を削らないとこちらの被害が大きくなりそう。
獣型である以上、それなりに素早い相手と想定して武器は……。
《《四本の腕》》にそれぞれ武器を持ち、《《六本の足》》を持つ少女の顔をした異形が戦場へ躍り出た。
精巧に作られた少女の顔、着せてある青いドレス、プラチナブロンドの長い髪。
こんな異形の人形にそれらを合わせる制作者の趣味にヘドが出そうになる。
だけど、この「使徒」なんて悪趣味な名前のつけられた人形はミラの貴重な戦力。使わないなんて選択肢は無い。
戦闘法衣である軍服のコートを翻しながら使徒と共に魔物の前へと歩み出る。
人形の手に握られているのは分割された刃を鋼線で繋いだような不可解な形状の刃。
常識で考えればどう考えても扱いに難があるその武器も、ミラの傀儡の魔力を通せば思い通りに動く長大な刃となる。
背中に数字の刻まれた5体の虎の魔物の、最も近くに居た個体に3本の連接剣を伸ばして斬り刻む。
気がついた残り4体の魔物が向かってくるけど、その突進経路に残り1本の刃をうねらせれば足を止めざるをえない。
「でもね、足を止めるのは悪手なのよ」
連接剣を警戒して足を止めた魔物の1体に、軍服と共に召喚されるマスケット銃の弾丸を撃ち込んだ。
弾丸は魔力をたっぷり含んだミラの血液で出来ている。
魔力量の多い単体出現の魔物は流石に無理だけど、群体型の1体であれば……。
「魔力浸透……、掌握!」
ミラの魔力で全身を侵食された虎の魔物はこちらのみを警戒していた隣の魔物に食らいついた。
5対2だった戦力はこれで2対3、勝負は決したはず。
……でも、そこに油断があったのかもしれない。
動物の姿を取っているとはいえ、やはり魔物は魔物、何の特殊能力も無いなんて思い込んだミラに落ち度がある。
2体の魔物がミラに向けて同時に咆哮を轟かせる。
轟音と共に襲いかかった強烈な魔力の波動に、一瞬だけ魔力の制御が乱れた。
その一瞬に2匹の虎が駆け出し、至近距離へと迫る。
咄嗟に1匹にはミラの支配下に置かれた魔物をぶち当て対処するけど、もう1匹は止められない。
使徒で抑え込めはするだろうけど、損傷は免れないだろう。
悔しいが、詰めを誤ったようだ……。
ミラと魔物との間に使徒を割り込ませ盾とする。
しかし、迫りくる虎はその前に動きを止めていた。
その額には1本の矢が突き刺さり、使徒へ向けて振り下ろされようとしていた腕には無数のワイヤーが絡みついている。
これはウィステリア・ヴェールとセヴンスの魔法のはず。一体どこから……。
虎の魔物にとどめを刺し、周囲を見渡すがその姿はどこにも見つからなかった。
戦力として一定の価値は示したと思うけれど、一番作りたくない相手に借りを作ってしまった……。
ミラの日本での初戦闘はこうして幕を閉じた。
セヴンスとウィステリア・ヴェールの姿を見つけられなかった、その意味を知らずに。
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連接剣、ガリアンソード、蛇腹剣、多節剣、呼び方がいっぱいあるあのロマン武器かっこいいですよね。
あと人形なんですから手足増やして異形化するのもロマンだと思います!某ロボゲーは4脚とフロートが好きです!




