【6】初任務
――――初めて与えられた任務がまさかパットウ準男爵家とはな。しかし理由は明白だ。
やつらはイスキオスの美学を瀆したからだ。
「勇者の生まれ故郷を人質に取ってるんだっけ?よくやるよ」
クロウは偵察に加わりながらもボソリと漏らす。
「まあな。あの村の人々はよそ者の俺にも親切だった」
「そういやデイルも住んでいたのか」
「ああ……だけど当時の俺は逃げていた。だから力がなかったんだ」
「ですが今は違うでしょう?」
闇の中からキールが現れる。
「そうだ。だから……我らの美学を瀆す者には制裁を」
『我らの美学を瀆す者には制裁を』
7人の人影がパットウ家の屋敷を取り囲む。
「既に魔法で出られなくしてある」
とルキ。ほんと、どんな禁忌魔法だよ。
「出来るだけ殺すなよ。狙うはパットウ家の人間のみ」
『了解』
俺たちは仮面を付け、みなと共に屋敷へと侵入する。
まず向かうのは屋敷内の大広間。
「スキル【千里眼】、探索開始」
屋敷の人間たちの動きを偵察。みなとマップを共有する。
「では各々、狩ってこようか」
『了解』
俺たちは早速闇夜に溶け込む。俺はクロウと一緒だ。
「屋敷の敷地面積だけが大きくて使用人は異様に少ない。おかしな家だ」
「見栄ばかり張るこの領主一族は、昼間は安い賃金や借金を吹っ掛け連れてきた領民の娘をただ同然で働かせている。その割に屋敷に住まわせるのはごく僅かなんだ」
「想像以上のケチだね」
「まあな。あ、でも早速ひとり引っ掛かったな」
音も出さずに忍び寄る。
「俺が行く」
そう言うとクロウは気付かれずに気絶させる。
「これでいいかな」
「上出来だ」
血も出てないし目撃すらさせない。相変わらずすごすぎる。
「でもどうやって運ぶ?まあ運べないこともないんだけど」
大人ひとり運ぶってどんだけ怪力なんだ?
「でも平気」
何もないところからキールが現れる。
「わっ、キールさん!?音もなくどうやって……俺まで気が付かないなんて」
「ふふっ。年の功ですかね」
それでどうにかなるものなのか?大体お前は何歳なんだか。俺が物心ついた頃から外見が変わらない。
気絶した使用人を回収し、キールは音もなく去っていく。
「すげえ……本当に人間?」
「……さ、さあ?」
「何で疑問系?」
それはそのー……本人に無断で言うわけにもいくまい?
「い……いいからほら、探そう」
「んまあそうだね」
そうして応接間に集められたのは気を失う使用人や恐怖で脅える使用人。そしてこんな時でさえよく吠えるパットウ家の人間たち。
「おい、どう言うことだ!この私が誰だか知らんのか!」
知ってるさ。たから捕まえたんだから。
これが当主。ゴルトの父親。ジルの出発の際も平民の俺が付いていくことを散々なじってきたっけ。しかし今の俺たちは。
「お前たちこそ我らを知らんのか」
仮面の裏が俺だとは気付きもしないだろうがな。一応腕の証を見せてやる。
「お前たちなど知らんぞ!私は準男爵家の当主だぞ!」
「そんなものが貴族を語るとは滑稽だ」
つまりは知ることもないくらい国としてはどうでもいい。いや、これからそうなるのは確実だ。
「何だと!?貴様顔を見せろ!」
「そんなことが言える立場か?」
「ぐふっ」
その瞬間当主の頭を床に沈めたのはローウェンだ。
「きゃあぁぁっ!ねぇ、あなた助けてくれない!?同じ女性でしょう?宝石でもドレスでも褒美はたっぷりあげるわよ」
仮面をしていても女性と分かるクレアに夫人が泣き付こうとするが、クレアの冷笑の声がする。
「あなたみたいな女に同じ女性扱いはされたくないわね。私、貴族だからと金や権力を掲げてくる女って嫌いなのよ」
「何よ!こちらが下手に出ていれば付け上がって!」
「下はあなたの方よ。【グラヴィティ】」
その瞬間夫人も床にめり込んだ。さて……残すは。
「ちょ……助けなさいよ!わ、私は貴族のお姫さまなのよ?助けてくれたら特別に私が嫁いであげてもよろしくてよ?貴族の娘を娶れるなんて栄誉なことでしょう?」
ゴルトの妹……彼女のせいで泣きを見ている女性は多い。我が儘で傲慢、欲しいものは何でも手に入れなければ我慢できない性格。本当にゴルトそっくりだ。
「お前みたいな女は反吐が出る」
「は……?」
「聖女アンジュの方が10億倍素晴らしくてかわいい女の子だ」
「何よ何よ何よ!聖女に選ばれたからってたかだかエルフが!あんな女さえいなければ私が聖女に……っ」
「なれるわけねえだろ」
この女はアンジュのようにこっそりとポーションを忍ばせたりはしない。ゴルトと共にせせら笑いを浮かべるだけだろうから。
「何ですって!?」
もぞもぞと縄を外そうとするが外れるはずもない。その上突然悲鳴をあげてもがく。
「見えるようにしましょうか?」
にこにこしながらナルがサイスを構える。
「後学までに見てもいい?」
「ええ。では」
するとゴルトの妹に無数の死霊が群がっていた。
「みな相当憎いようですねえ。喜んで集合してくれましたよ」
さらには次から次へと……どんだけやったわけ?しかもそれは領主夫妻にまで及ぶ。どうやらあの2人も相当怨まれていたようだ。
ようやっと満足した死霊たちが帰っていけば、後には息も絶え絶えのパットウ家の3人と脅える使用人たちがいた。
「こんなこと……して、ただで……すむと……」
当主が声を絞り出す。
「当然だ。お前たちはじきに平民となる」
「は……?」
「そう言えば……勇者を独占するためにずいぶんと色々とやってくれたな。勇者の生まれ故郷を人質にする、勇者の名前を勝手に改名する、自分の息子が勇者になれなかったからと悔しがりせめて勇者パーティーにと押し付ける。特に最後のは……最悪だ」
当主の顔を覗き込み、彼にだけ見えるように仮面を少しずらす。
「何だ、その紫……まるであの生意気なガキのようだ」
「顔すらちゃんと覚えていないのか。そうか……生意気で悪かったな」
「まさか……お前っ」
「言っとくけど俺はな、ジルたちに手ぇ出したお前らに容赦する気はないんだよ」
あの村は俺にとっても大切な故郷のひとつだから。
「これは選別だ」
ふわりと立ち上がれば、当主の身体すれすれに無数の魔法斧が突き刺さり悲鳴を上げるが知ったことじゃない。
「ほどいて……この縄……お願いよぉっ!」
夫人が涙目だ。
「ほどくわけないだろ?もうすぐ団体さんが来るってのに」
多数の足音がこちらに向かっていく。
「さて、俺たちは充分制裁を与えたんでな。最後くらいは国に恩を売っておこうか」
応接間の扉が開かれると共に俺たちは闇に紛れる。
その後一家は捕らえられ牢屋に入れられ、勇者に対するさまざまな罪で処刑が執行された。イスキオスのことをあれこれ言っていたがあちらさんも百の承知。取り合うはずもない。むしろそうやらなければイスキオスが圧力をかけると言う脅しなので国もしっかりと働いてくれたようだ。
使用人たちは解放されたが新たな領主には受け入れてもらえなかったと言う。ま、無理矢理タダ働きさせられていたものたちは新たな働き口を紹介してもらったようだがな。
「しかしよろしいので?デイルさまにとってはあれらも敵では」
次なる目的地を目指していれば、キールが問いかけてくる。
「さすがに一家全員消えたりしたら不審がられる。だがこの恩を売ったことで国からはひとり好きにやっていいと通達が出た」
むしろ国家としてもイスキオスに恩を売れて相互に利益のある取引となった。
そしてそれゆえにギルドもまだ手を下していない。
「次は再びジルたちのもとへ向かおう」
「はい、次の狩りも楽しみです」
次は仲間たちと共にだからな。




