【4】禁忌魔法
ああ、異世界に風呂があるのは素晴らしい。
俺が異世界で最初の風呂にありついたのは忘れもしない。あれは村に逃げる前だった。広々とした実家の中で俺は驚愕していたのを覚えている。
『あのね、お風呂がないの』
そう兄ちゃんに訴えた幼き日。次の日には湯船が出来ていた。
あれ……?じゃぁここに大浴場があるのってまさか。この世界観じゃ珍しいよな。
「お、先に寛いでんのか」
ローウェンとクロウがやって来る。
「デイルってお風呂好きだよな」
「クロウも満更じゃないだろ?」
「まあ実家にあったから」
え……?東洋風の国出身なんだろうか。この世界の東にはそう言う国があると言う。無論行ったことはないけれど。
暫くすれば他の男性メンバーも入ってくる。確かより色白の方がナルさんで隻眼の方はルキさんだ。
「……身なんて清めたくないんですけどね」
ナルさんがボソリとそう呟いた。そういやこの人、ネクロマンサーとか言ってたのと関係あるのかな?
「いいだろうが、疲れ取れるし」
「……だが、規則」
ローウェンに続いてルキが告げたのも真実。何故かお風呂の時間もしっかりと設けられている。
「何かさあ、ここに浴槽造ったのも総帥命令って聞いたことがあるんだけどよ」
「ぶっはぁっ!!」
「大丈夫?デイル」
「う……うん、クロウ」
「……何か、ごめんなさい」
途端に申し訳なくなってきてしまった。多分原因は幼き日の俺の……あの発言だ。
「デイルが謝ることじゃない」
「……クロウ」
友だちとして言ってくれてるんだろう。でも俺が犯人だ。
「風呂が嫌いと言うわけじゃないですよ」
「……ナルさん?」
「ただ私が腐乱死体の腐乱臭の方が好きだと言うだけのことです」
にっこり爽やかに言われたのだが……反応にものすごく困った。
※※※
――――翌日。
本日は魔法訓練である。
「やっぱり気になるのは探知探索かしら」
「ええ、俺もですよ」
早速2人で探索マップを広げる。マップはステータスに紐付けられるものだ。専用スキル保持者ならより高度な探索探知ができる。
「俺のは【千里眼】なので探索条件を指定すればどんなものでも探索できます」
「すごいわね。仮想敵の弱点耐性を正確に把握できたのもそれかしら」
「ええ、その通りです」
「こちらの探索探知ではデフォルトの検索が用意されているのだけど」
「でも気になることがあるんです」
「あら、聞いてもいいかしら」
「ええ。マジックボックスです。これはステータスに紐付けて拡張できるでしょう?」
「そうね。だけど普通は不可能よ。イスキオスだからこその高度技術ね」
まぁジルなら持っているが勇者ゆえの特典だ。いくらゴルトが金を積んでもこの技術は得られない。
「そうです。それみたいにクレアのも拡張できないかと」
「うーん……できたらすごいけれど、どうやるかが重要ね」
「問題はそれなんですよね」
「……ならしようか」
「ルキさん!?できるの!?」
「マジックボックスの拡張機能をハッキングすればいい」
何言ってんだこのひと。
「よし……やるか」
「ちょ……っ、怒られるのでは!?」
「何となく分かった」
マジなの!?
「……拡張しよう。ステータス画面を」
ルキさんに2人でステータス画面を見せる。
「クレアのに、似た機能を拡張すればいいか」
「ええ。検索条件を指定できるようにしてほしいんです」
「……分かった。……デイルの千里眼の検索……クレアの探索探知に……できたぞ」
「もう!?」
「すごいわ!検索条件で絞り込めるようになってる!」
「ルキさん、どうやってこんなかとを……」
「禁忌魔法だな」
アマリリス教官の声にビクンとなる。
禁忌……魔法?
「イスキオスの一部にしか知らされていない技術を……」
ひいぃっ!?これってまずいのでは!?
「……デイルが任意の者と……マップ共有可」
いつの間にそんな機能を!?
「……問題が?」
「……お前な。はぁ……でもそれならあの御方も文句は言わないと思うが」
俺のスキルの拡張にもなったからかな。
「その分報告書は書けよ」
「……」
ほ……報告書。俺たちは訓練生だから日報だけだが、本場の構成員になると企画書、始末書、報告書からは逃れられないと言う。ここら辺は社会人と一緒なんだよなあ。俺は……前世で慣れてるけど。
「ごめんなさい!俺も手伝います!」
「でしたら私も」
「……いや、いい。慣れている」
ルキさんも……?
「それもどうかと思うぞ」
アマリリス教官の言葉にビクンとなる。ルキさんもここに来る前は社畜でもしていたんだろうか?
「しかし訓練の時間は訓練の時間。再開するように」
「まあ……いい」
いいんすか、ルキさん。
「後で仕上げる。俺は……自動報告書作成……魔法もある」
現代で言えばAI作成報告書なんだが……いいのだろうか。
「では次は2人ずつペアになり実戦訓練!」
『は……!』
くじ引きで決まったペア割りはナルさんとルキさんだ。
「ネクロマンサーか……聖魔法の禁忌魔法を試すか?ナル」
「……殺しますよ、ルキ」
ひいいぃっ!!?サイスを持ちながら言うと倍恐い!
「安心しろ……俺は聖魔法……使えない」
うん、俺でも無理だ。それは光に似て非なるもの。聖女や高位神官くらいしか無理だろう。
「知ってます」
にこぱっと微笑むナルさん。
「なので……精一杯防衛してくださいね」
次の瞬間ナルさんの目から笑みが消えニィッと口角が上がる。
「弱点が聖魔法か光魔法……分かりきっているのなら光で行くか。案ずるなこっちにはデイルがいる」
俺頼み……?
「あ、デイルくんはこちら側でやって下さってもいいんですよ~~」
元の爽やかな笑みで手招きするナルさんの周りには……おどろおどろしい死霊たちが出現していた。
「うう……対アンデッド訓練……させてください」
「それでしたら仕方がないですねぇ」
ナルさんがサイスを振るえば死霊たちが襲い掛かる。
「魔法斧!」
それも今回は光属性ハルベルトである。それが幾つも死霊たちに襲い掛かるが、速度を落としたくらい。足りない……!
「禁忌魔法に……全方位攻撃……と言うものがあってな」
「え?」
「……結界で覆う」
ルキさんが結界を構築するが、光魔法のではないから死霊たちは阻めない。
「結界の……全方位から魔法を降らせる……ライトニングアローズならぬアクシズ」
「それなら……ライトニングアクシズ!」
スペルマスターならその説明だけで……いける!
結界のドーム内に攻撃の余波と光が満ちる。
「や、やり過ぎた!?」
結界は既に解かれているが……ルキさんは!?
「光結界ではないので死霊たちもろとも引き上げましたよ」
「ひっ!?」
気が付けば隣にいた。
「そもそも光結界でも私には効かないので死霊を引き戻して逃げれば勝ちです」
「そ……そんな抜け穴が」
「ふふふっ」
どうやらこの中で一番上手なのはナルさんだったようである。
「ところで他のみんなは……」
クロウはローウェンと組んでいるようで、クレアは……エリザとだな。
「あなたみたいなお高く止まったキャラ、嫌いなのよ!」
「そんなことを言われても困るわ」
何だかガチで対立しているように見えるのだが。
「止めなくて大丈夫ですかね?あれ」
「んー……クレアさんの方は上手く躱しているようですし、問題ないかと。しかし気になるのはエリザさんですよねぇ」
「どう言うことです?」
「私は生まれつき死霊もアンデッドもよく見えるので」
ネクロマンサーが操れば俺たちの目にも死霊の類いは見えるし、魔力の強いアンデッドも人の目に映るがそれ以外を見られるのはネクロマンサーの素質とも言える。
「面白いですね、あのこ。誰ひとり復讐など望んでいないのに彼女は自らイスキオスに足を踏み入れてしまった。それでも本人の意思なら何も言うことはないですが」
ナルさんの目には一体何が映っていたのだろう……?




