【3】新しい斧
――――異世界でも地球でも共通していることがある。それは……朝練を終えた後の補給は旨い。
「あー……生き返る」
「それは何よりだ、デイル」
「……アマリリス教官?」
「君に届いたものがあってな。空き時間にと思ったのだが、今構わないか?」
「ええ、もちろん。朝食までは時間がありますから」
「そうか。へばっていなくて何よりだ」
「鍛えられましたからね」
ぶっちゃけレベルも上がった。ジルの隣にのうのうといた頃よりも格段に。
アンジュはツンデレだが優しく笑ってくれた。しかしゴルトや周りはそうは行かなかった。
「では行こう」
「はい!」
「君の注文していた品が届いたんだ」
「……斧ですか?」
「訓練お疲れさまです」
「お疲れさまです」
物資の補給と言えばここでは売店しかない。店員に会釈して店の奥に向かう。
「これだ」
「これは?」
斧を入れるにしては大きすぎる箱である。
「注文の品だよ」
「大きすぎません?どんな斧をこの中に……」
注文していたのは汎用的なバトルアックスだったような。
俺の魔力で錠を解除する。ガチャッ。恐る恐る中身を確認する。
その中には……大量の斧が入っていた。大小様々、長柄、両刃、槍斧。てか素材もただ者ではないのだが。
「何すか、この量」
「私も押し付けられたのだ。無論代金はあの御方持ち」
に……兄ちゃんかよ……っ!
「職権乱用なんじゃ……?」
「ポケットマネーだから気にするなと言うことだ。どうする?受け取るか」
「受け取らなければどうなります?」
「憂さ晴らしをされるだろうな」
「……」
周囲への被害が甚大となるだろう。
「マジックボックスに入れておきます」
「英断だ」
マジックボックスなら訓練生になった時にステータスに紐付けて拡張してもらったからな。
マジックボックスに斧を格納すればアマリリス教官と共に表に戻ったところでクレアと遭遇した。
「やあ、クレア隊員も来ていたのか」
「はい、アマリリス教官」
「ならばここに上官がいては何だろう?仲良くしたまえ」
気を使ってくれたのかな。相変わらず姉さんは優しいな。
「奥ってことは……注文していた武器が届いたのかしら」
「そ、そんなところです」
「気まずそうにしなくてもいいのよ。特注品や部品なんかはみんな奥よ」
「思えば……」
特段隠すことでもなかったか。しかし兄ちゃんが大量の斧を押し付けてきたことは隠さねば。
「私、会計を済ませてくるわね。食堂には一緒に行きましょ」
「はい、是非」
しかしその時訓練生のもう一人の女性とすれ違う。年齢はクレアと変わらなさそうだが、どこか気の強そうな印象を受ける。
「おはよう。あなたも一緒に食堂に行く?」
「……勘違いしないで。訓練の一環だから共闘はするけど、私、アンタみたいないいとこのお嬢さまみたいなの嫌いなの」
「ちょ……待っ」
彼女の剣幕にクレアの隣に立つがクレアが俺を制する。
「お貴族のお遊びのつもり?不愉快だわ」
そう言うと彼女はすたすたと先に行ってしまう。
「同期で女子はエリザさんと私だけだったから仲良くなりたかったんだけど、嫌われちゃったわね」
クレアは困ったように苦笑しつつ商品を受け取った。
「……その、誤解を解かずに良かったんですか?」
彼女……エリザはクレアを貴族のお嬢さまだと誤解しているようだ。
「解こうとしても、火に油を注いだことの方が多いもの」
それは魔女狩りの時のこと……もしくは彼女の人生そのものに対してだろうか。
「けど、違うのなら違うって言うべきです!」
「えと……デイル?」
「俺だってクレアのことは大切な仲間だ!だからクレアの無実くらい一緒に証明する!」
「……あなた、やっぱりイイコね」
どうしてそんな泣きそうな笑みを浮かべるのだろう。
「ありがとうね、デイル」
けれど一瞬の惑いを隠した彼女はまたいつもの笑みに戻っていた。
※※※
今日の午前中は武器を使った訓練である。俺は模擬斧を借りることにした。
「注文品、届いたんじゃないの?朝食の前に取りに行ったって聞いたけど」
「ああ、うん、クロウ。磨いたりしないといけないから」
「ふうん?それもあるか」
何とか納得してもらえたか。
今回はペア訓練だが俺たちは奇数なのでクロウとローウェンさんと一緒だ。
「改めてよろしく。ローウェンでいい。年上だが【さん】付けとかは不要だし付けられるような人間でもない」
いやいや、そんなこといったって……赤茶色の髪の彼はクレアよりも年上、20代のように思える。
「その、俺はデイルでいいです」
「俺もクロウで」
「それなら早速やるか?体格差もあるし、2人同時でもいい」
このペア分けは体格差も性別も加味しない。クレアも成人男性とペアを組んでいる。どんな相手でも戦えるようにと言うスタンスがあるからだ。
「俺はこの大剣を使おう」
「じゃー俺はここら辺の武器」
クロウがじゃらじゃらと見せてきたのは正式名称の分からない武器たち。
「暗器だな」
「知ってるの?」
「ああ、扱いはクロウの方が100倍上手いぞ」
いや、このひと暗器使いとやりあったことあったのだろうか。
「デイルはその斧か」
「ええ……まあ、補給の模擬斧ですけど。その大剣相手じゃ折れる気しかしませんけど」
金属の補強具は付いているが。
「何だ、自信がないのか?貸してみな」
「へぁっ!?」
ローウェンが俺の手から斧を手にすればクロウが察したように距離を取る。
「さて、やろうか」
「俺の暗器相手じゃ不利だと思うけど」
「構わんさ」
そう言うとローウェンは大剣を背負ったままクロウに距離を詰める。
「ちょ……っ、いきなりかよ!」
クロウは華麗に暗器を操る。
鎖の付いた暗器でローウェンの斧を拘束しようとするが巧みな斧捌きで暗器同士が絡まる。
「マジかよ、このっ」
武器を握り替え両手ダガーを構えたクロウに接近戦に持っていく。
「斧使いって馬鹿力すぎない?」
「それだけじゃない」
次の瞬間ローウェンの斧が不思議な動きをしてクロウのダガーを両方弾き飛ばした。
「……そう来たか。斧使いに敗れるなんて初めてかな」
「そら光栄だ」
すごい……少なくとも最後のは力技ではなく完全に技術技だ。
「ま、こんなわけだから何事にも勝機はあんだろ?」
「は……はい!」
「なら今朝注文したってやつ?納品されたんならちゃんとした鍛冶屋なら磨いてあるはずだ。イスキオス製ならそうするだろう?使ってみればどうだ。使わないと使えるようにならない」
「……その、どれにすれば」
「好きなのを選べばいい。気に入ってんならやってみな」
「それじゃぁ……」
取り出したのは柄が長めの両刃斧である。
「でも……何となく恐くもあって。割れ……ないかなって」
いざ兄ちゃんからと聞けば恥ずかしさもあるが、思い返すのはあの斧の最後。
「村を出て冒険者になる時、斧使いを教えてくれた木こりが持たせてくれたんです。けど……それよりも格段と高価な素材の大斧に粉々にされてしまったんです」
「その斧の素材ならどんな斧より強いだろ。オリハルコン製だろ?」
……兄ちゃん、何つー素材で斧作ってんだ。
「それに……オリハルコン製でも鋼に勝てることもある。傲れば自分より下のやつに出し抜かれる。お前だって今のままじゃ手斧にすら負けんだろ?」
「……それは否定できないかもですね」
「強くならなくていいのか?」
「それは……強くはなります!そうじゃなきゃ……」
ジルの隣に立てないだろ。
「ならやるぞ」
「は……はい!」
足りないのなら足りるまで鍛えるまでだ……!
無意味な嫉妬を向けられていたあの頃よりは自分を高められるのが何より楽しいんだ。




