【2】イスキオス
――――イスキオス
名だたる権力者ならばその名を聞いて震え上がる。それこそがイスキオス。
「手を休めるな!気を抜けば前衛もろともお前らは壊滅だぞ!」
アマリリス教官の勇ましい声が響く。
『は……っ!』
俺たち7人の訓練生は前衛の攻撃と後衛の支援に分かれている。俺は後衛だ。
「デバフとバフは俺に任せて回復防御を!」
叫べば後衛メンツがHPMP回復や防御を重ねがけする。
この世界で成人したての13歳はなかなかいないが、それでもここにいるやつらはそれらを判別できる精鋭だ。
その隙にイスキオスが造り出した仮想敵を前衛で叩くのだ。
んーと……【千里眼】。
「敵は2列計14、対象A火弱水耐。対象B風弱土耐」
そう前衛に声を掛ければ巨大な火の竜が風を纏って仮想敵に激突する。
「後衛にデイルがいると効きすぎる。次、交代!」
『は……っ!』
味方支援はパーティーの時も少しやったが……実戦となれば俺はまだまだ。しかしながらやらなきゃやられる!
ジョブ【スペルマスター】だからこそ。
「攻撃ならこれだ」
俺の好きな斧だ。
「魔法斧!」
俺の周りに魔法の斧が出現する。
「対象A火耐、B風耐!後ろは探知不可!」
後方から指示が飛ぶ。探知探索スキルもひとによってどの程度か分かれるからな。まずは分かっているのだけ……!
「火と風以外の属性を」
水、土、光、闇。それぞれを纏った魔法斧が仮想敵に命中する。
すると俺の斧の命中具合に前衛たちが魔法を展開、着実に仕留めていく。
そして前列が崩れれば、後ろからどでかい仮想敵が飛び出してくる。
「6耐!」
げぇ、それ弱点がない!
「ねえ、あれの不意をつける?」
声を掛けてきたのは俺と年代の近い少年クロウだ。
「目眩ましなら」
ズドドドッと魔法斧を叩き込めば、クロウが素早く仮想敵に距離を詰め見たことのない鉄の武器を叩き込む!
「魔法がダメなら物理だろ?」
「……うん!」
俺は魔法に頼りきり……いや魔法すらおぼつかないから。今は出来ることからかな。
「よし、訓練終わり!各自休むように!」
『はっ!アマリリス教官!』
訓練が終われば夕飯を食べて寝ると言うシンプルスケジュールだが、それでもレベルはもうすぐ99である。訓練生は少なめだがそれでも精鋭揃い。
さらにここからも脱落者が出ると言うから本物の構成員と言うのはとんでもない連中なのだ。
「……ジルは今レベルどのくらいだろうか」
「ジルって?」
顔を上げればクロウも夕飯を持ってきたところだった。
「いや、悪い。あまり聞かないのがこちら側のルールだったな」
裏ギルド同様、ここも裏側だ。
「別にいいよ。みな知ってることだ。勇者ジル」
「ジルベール・ライトゥンのこと?」
「……そうだな」
少なくとも俺はそんな名前は知らないが。
「それから……デイルのファミリーネームってマジなの?」
「……マジだが特別扱いとかは必要ない。俺はまだまだ見習いで弱い。コネなんて利用していたらこの場にいないし、それは美学に反する」
そして同期の訓練生たちの視線に気が付く。俺とよく話すクロウに聞くように頼んだってことか。
「ま、教官も特別扱いなんてしないしな」
「そうそ」
むしろ姉さんがそうしてくれたからこそ、俺の出自にそれほど反発がない。子どものような嫉妬をするほどイスキオスは甘くないしそんなやからは訓練生にもなれなかったし、途中で叩き落とされる。イスキオスの美学に反するのなら何れは粛清対象になるからな。
――――翌朝。
朝練を終えた後は意外にも座学である。主な科目は結社の美学、言語、歴史、政治、魔法や武器、暗殺術などと物騒なものもある。
しかし前世の学校みたいなものは今まで村の青空教室だけだったから……教室での座学なんて懐かしいな。
「ねえ、デイルくんだったわね」
俺に声をかけてきたのは……確か。
「……クレアさん?」
日本で言えば高校生くらいの美少女だ。彼女は獣人族で狐耳しっぽ。専門は魔法で探索探知もできるから前衛後衛戦だと自ずと別衛となる。
「クレアでいいわよ。戦闘訓練では短い方がいいでしょ?」
それはそうかも。しかし年上なのにいいのだろうか?
「もし生意気かもとか思っているなら心配は不要よ。私、昔からマセてて生意気だって言いがかりを付けられるの」
「マセてるのは俺もです」
「あら。お揃いね」
クスクスと華麗に微笑む彼女には【生意気】と言う印象など抱かせない上品さがある。
だとすればいわれのない【嫉妬】。それは俺も分かることだ。
「こうしてゆっくり話すのは初めてよね」
「ええ」
訓練時は互いに指示は出すがプライベートではあまりしゃべったことがないのだ。
しかし実際の彼女はとても話しやすいと言うか、共感できる部分が多い。
「ファミリーネームを聞いた時は驚いたけど、あなた、結構真面目なんだもの」
「……へ?」
「普通は偉ぶってるとか、不真面目でもどうせパスできるからとかそう言うの、想像するでしょ?」
「ああ……まあ」
前世の記憶からするとそう言う展開って有り得るもんな。
「でもあなたは……私が憧れるイスキオスの精神を感じたわ」
「憧れる、イスキオス?」
「そうよ。私はね、イスキオスに感謝しているのよ」
熱情を孕み微笑む彼女にドキリとする。
「【魔女狩り】って知ってる?」
「……聞いたことなら」
あくまでも前世の知識だが、この世界にも女性の魔法使いはいるし彼女もそうだ。だからこそなくはないのだろう。
「私は魔女狩りに遭ったのよ」
「……え?」
「理由は魔法が使えて美しいから……ですって。有り得ると思う?」
「……そう言う考えの人間ならいなくもないですよ」
俺はソイツには二度とアンジュを会わせたくないと思っている。
「それでね、魔女狩りに遭う私の前でイスキオスは魔女狩りを主導した貴族に制裁を加えたの。その光景はとても美しかったわ」
一瞬ゾクリとしたのは気のせいだろうか。
「それ以来私はイスキオスに魅了されて……ここにいる。あなたはよく似ているわね」
「……誰に、ですか……?」
「あなたもよくご存じの御方よ」
まさかそれ……兄ちゃんじゃないよな……?しかし兄ちゃんが直接出向く案件なら彼女を苛めたのは相当な相手。それもイスキオスが出向くってほどの【美学】に反するもの。
俺が知っているのは2つだけだが、【勇者】関連とは思えない。
「比べられるのは……嫌い?」
俺の沈黙に彼女が問うてくる。
「いやその、比べられるほど俺に実力も経験もありませんから」
「謙虚なのね。嫉妬してもいいのに」
「憧れの人なのでは?」
「あなたが嫉妬しても憧れの人は憧れの人よ」
「俺にとってもですよ」
決してかなわないけど、それでも俺にとっては唯一の肉親だ。
「やっぱり私たち、似てるわね」
「何だか光栄です」
「光栄……ね。初めての感想だわ。それにあなた、私のことどうとも思わない?」
「え……?その、探索系スキルのことは話してみたいなとは思ってましたが」
「あらそっち……?やっぱりいいわ、あなた」
「えと……クレアさ……」
「クレア」
「……クレア」
「そうそう。デイルく……いいえ、それじゃ不公平よね。デイルって呼んでいいかしら」
「もちろんです」
やがてチャイムが鳴る。
「2人で話してたの?」
「ああ、クロウは?」
そういや教室にいなかったな。
「ちょっと備品を買いに行ってたんだ。売店、あそこ」
「ああ……」
訓練施設には訓練中の生徒たちに必要なものを売っている。嗜好品は少なく訓練で必要なものや日用品ばかりだが。
「武器の備品も手に入る」
そう言えクロウは珍しい武器をたくさん使っている。そんな武器の部品までって……やっぱりイスキオス、ヤバすぎる組織だ。
「……ま、俺の武器ももうじき届くだろうし」
思い出の斧は壊されてしまったから。
「後で俺も行ってくるよ」
座学が始まる。集中しなくてはな。




