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イスキオスの源流  作者: 夕凪 瓊紗.com


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【16】聖者と聖女



――――勇者パーティーは魔王の居城に向けて舵を切る。


「もうすぐエルフの森だわ」

「アンジュの故郷だな」

「そうね……デイル」

久々の故郷だと言うのに何故だか浮かない顔をしているな。


「故郷で何かあったのか?」

「そう言うほどのものじゃないのよ……ただ」

アンジュが言いかけた時だった。


「やめろ!」

「何だと!?よそ者のハーフエルフが口を挟むな!」

言い争いか……?


「何事かしら、行ってみましょう」

「ああ、アンジュ!」


その場にはブロンドにエメラルドグリーンの瞳のエルフたちに向かい合う黒髪のエルフがいる。いや……あのひとはハーフエルフだ。そして庇われているのもハーフエルフ。その証拠にどちらも耳が短く尖っている。


「ちょっとやめてよ!何をしているの!」

しかしアンジュが割り込んだことでエルフたちがどよめく。


「まさかアンジュ!?」

「アンジュが帰ってきたのか!」


「そうよ。だけどこれは一体どう言うこと?どうして彼らと言い争っているの」


「それはその子どもがハーフエルフだから……」

「罰を与えていたと言うのにその男が邪魔をした!」

「よそ者のクセに」


「待ちなさい。彼がよそ者だからとか言う前にその子が何をしたのよ」

「いやだから、ハーフエルフだから」

「ハーフエルフだからと言う理由で虐めたの!?信じられない……」

「だがハーフエルフと言うものは人間と混じりあった醜い存在で……」

「醜くなんてないわ!人間だってエルフだって醜いものや醜くないものがある。醜いと決めるのは種族じゃない!」


「あなたにはわからないのだ!里を出て汚れたあなたには!」

「そうだそうだ!聖女に選ばれたからと里を出、汚れたお前になど!」


「いい加減にしろ!」

ジル……?


「お前たちの価値観は知らない。だがこれ以上俺の仲間を貶すな!」

「ジル!」


「何だお前は」


「ジル。勇者ジル。ここへは旅の途中で立ちよった。アンジュの故郷だと言うから久々に帰郷させてやりたいと立ちよったが……間違いだったようだ」


「勇者……」

「勇者だと?」

明らかにやつらの顔付きが変わった。人間が醜いと言いながら勇者にだけはいい顔をしようとしてももう襲いと思うがな。


「みな、そこまでにしなさい」

その時割って入ったのはプラチナブロンドにエメラルドグリーンの瞳の神聖みのあるエルフだ。


「すまない、アンジュ。それから同行者たち。里のものの非礼を詫びよう」

「シュアン兄さま」

兄さま……?


「それからお前たち」

シュアンがほかのエルフたちを見る。


「リーシャは里で引き取ると決めたエルフの子だ。ハーフエルフと呼び蔑むことは許さない」

あの子はリーシャと言うのか。


「ですがシュアンさま!」

「あのハーフエルフは親のエルフにまで捨てられたみなしごではないですか!」

は……?


「関係ない。親がどうしようとあの子を里で育てると決めたのはエルフ王。父上だ」

つまりシュアンはエルフの王子なのだ。


「文句があるのなら父上に直接言えば良かろう」

『……』

エルフたちが黙りこくる。


「それからフィラ殿、すまないことをした」

シュアンは黒髪の青年に向き直る。


「謝るのならリーシャに謝れ」

「……その通りだな。リーシャ、辛い思いをさせたな」

「……」

リーシャは俯いたまま何もしゃべらない。


「大丈夫よ、リーシャちゃん。シュアン兄さまはとっても優しい兄さまなのよ」

「……おにいさん?」

「親戚のね」

つまりアンジュもまたエルフのお姫さまだったわけだ。そんなアンジュに向かってひどい暴言を。


「お前たちへの処罰は追って出す。里に戻りなさい」

『はい……』

エルフたちは震えながら里に戻っていく。ま、自業自得だがな。


「それよりもアンジュだけではなくフィラさままで何故こちらへ?」

「たいした用事じゃない。俺は……」

フィラのエメラルドグリーンの目が俺を見る。


「修行の旅の途中で出会ったんだ。アンジュの講師にいいと思ってな」

「私!?」

「フィラは聖者。聖女と言うジョブに非常に近いからこそ助けになるのではと思ってな」

「デイルの頼みとはいえ引き受けるかどうかは決めかねていた。だが……お前はハーフエルフでも構わず助けるんだな」


「当たり前よ!相手が誰だって苦しんでいたら助けるのが普通でしょ?」

混魔でも気にせず手を差し伸べるアンジュがハーフエルフと言うだけで差別するはずがないのだ。


「ふぅん……分かったよ。お前に浄化魔法を教えてやる」

「あ……ありがとうございます!フィラさま!」

「私からもお礼を言わせてください。アンジュのためにありがとうございます」

「ふん……お前らのためじゃない」


(イスキオスの美学のためだ)

フィラから念話が響いてくる。


(まぁね)

これも健全な勇者と聖女育成計画の一貫である。


「さて、こんなところで立ち話もなんです。里へ案内します」

「ありがとう、兄さま!」

俺たちはシュアンに続き里へと招かれることになった。


※※※


まさに森と暮らすエルフに相応しいと言わんばかりの森に囲まれた暮らしである。


家々は木々の洞や幹を利用して作られており家と木が一体化している。


「滞在中はこちらにどうぞ」

案内されたのはエルフ王の屋敷の客間である。


「ありがとうございます!」

ジルが元気に頷き、早速男女に分かれて客間を使わせてもらうことになった。

リーシャはアンジュたちに招かれ一緒に行ったようだ。


「ご心配をおかけしましたね、リーシャのことで」

「あの子は……親に捨てられたのか」

フィラが重い口を開く。


「人間の親はエルフの親の妊娠が分かった途端逃げました。エルフの親はあの子を産みましたがその後別のエルフと結婚するためにあの子を手放したのです」

「ひでぇ話だ」

「ええ、ですから父上も子どもを育てるために里に残るか、育てる気がないのなら出ていくかを選ばせました。親はその言葉に従い……出ていきました」

「……勝手すぎる」

「ええ、だからこそ王は王家で面倒を見ることに決めました。周囲のエルフたちにはハーフエルフのクセにと受け入れられないものもいるのです」

「はんっ、反吐が出る」

「お見苦しい部分を見せてしまいましたね。しかし出来るだけ私もあの子を傷付けるものがいないよう見張るつもりです」

「そうかよ。ならせいぜい俺みたいに出ていかれないように精進することだな」

「肝に銘じます」

エルフはもう既に失ってしまったのだ。聖者であるはずのフィラにハーフエルフと言うだけで迫害したことで。


王たちはきっと同じ過ちを繰り返したくないのだろう。


「さて、デイル。荷物を置いたなら俺は聖女の訓練をする」

「そうしてくれ、フィラ。アンジュなら俄然やる気だと思うし」

「ふん、分かった」

フィラがアンジュのもとへ向かい、シュアンも仕事に戻っていくようだ。


「でもデイル、聖者と知り合うなんてすごいな」

「偶然だよ、ジル」

イスキオスの幹部だから元々知り合いだったとは……なかなか言えないな。


※※※


エルフの里にお邪魔したその夜のことだった。


(デイル、聞こえているか。大変だ)


(ルキ?どうした)


(ナルが邪気を察知した。その原因を探ったら……魔王四天王第3席が迫り森を枯らしている!)


(そんな……っ)


急いで部屋を出ればエルフたちが騒がしい。既に異変は始まっていたのだ!


「シュアンさん!」

「不味いことになった!魔王四天王が……っ」


「俺たちが戦います!勇者ですから!」

「すまない……勇者ジル。力を貸してくれ」


※※※


邪気に冒される森。現れたのは毒々しい堕天の翼をはためかせる女魔族とその部下たちだった。部下も全員翼種のようだ。


『はぁんっ、いいわねぇ。エルフの森がこぉんなに素敵に彩られちゃって!』


「ふざけるな!エルフたちの森をこんなにするなんて!」

「ジルの言う通りよ!私の故郷に何てことを!」


『ふふふっ、この素晴らしさが分からないなんて。あんちち、まとめて殺してあげるわぁっ!』

女魔族たちが空から迫る。


「我々が弓で援護をする!」

「シュアンさん!」


「アンジュ、森の浄化を!早速実戦訓練だ!」

「分かりました!フィラさま!」


「ジル、俺たちは2人で女魔族を相手にするぞ」

「わ、分かった!」

エルフたちの弓の援護、クレアのバフデバフ、そしてクロウの暗器は空も駆る!


(すまんが浄化魔法でナルがダウンした)

(そうなると思ったよ、ルキ。ナルはローウェンに任せて。ナルは魔法で援護してくれ)

((了解))

ルキ、ローウェンから返答が来る。さて俺はこちらだ!


『空を駆る私をどう相手取る気かしらぁっ!?』

「こうだ!マジックアクシズ!」

マジックアクシズを女魔族の背中に叩きつける。


『きゃあぁぁっ!?』

「食らえっ!」

落下する女魔族にジルが斬りかかる。

上空に逃げようとするがそうはさせない!


「斬り刻め!」

右の翼を落とし、ジルが一撃。

左の翼を落とし、ジルがトドメを刺す。

『ギャアァァァァァァッ』

「やったか!」

「ああだがまだまだ数は多い!一掃するぞ!」

「ああ!」

すべての魔族を撃ち落とし終えたときには朝陽が昇っていた。


「はぁ……はぁ……森は浄化できたみたいね」

「ああ、何とかな」

アンジュとフィラもくたくたなようすだ。その時だった。とたとたと駆けてきたリーシャがアンジュの腕に触れる。


「はやく、元気になって。お姉ちゃん」

そしてリーシャの手からまばゆい光があふれでる。


「あの子は……光魔力を持っていたのか」

シュアンさんが驚いたように目を見張る。


「ふん……二の舞になるかどうか見物だな」

「守って見せますよ、フィラさま。今度こそ」

シュアンさんの決意の目は固い。リーシャちゃんはシュアンさんに見守られながら育つ。


何だかそんな気がしたのだ。



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