【14】デイルの休暇
――――さて、本日は魔王四天王急襲後の休暇である。
「お帰りなさいませ、デイルさま。部屋はしっかりと掃除させておりますのでいつでも寛げます」
「ああ、キール」
イスキオス本部の俺の部屋。ここに来るのも久々だな。
「ジルはどうしてる?」
「ローウェンに修行に付き合ってもらっております」
休暇だと言うのに訓練に打ち込むとは。やはりあの戦闘で悔しかった部分が大きいのだろう。
「アンジュは?」
「クレアと特訓だそうです」
「そうか……クレアたちにも休暇をやるつもりだったのだが」
「ローウェンは身体を動かしていないとならない性分ですし、クレアも空き時間にアンジュとリフレッシュすると」
「そうか。アンジュは適度に休むのが苦手だからな」
頑張りすぎるところがある。それは彼女が『自分は遅れている』と言う意識が働いているからだろうが。
「クレアがいいところでリフレッシュに連れていってやれればいいかもな」
「ええ」
「でもローウェンはいいの?」
「サボるのも得意ですから」
おいおい……。でも普段はきっちり働いてくれているわけだし。ジルの師匠としても……な。
久々の部屋で落ち着けば、扉がバァンッと開く。
「デイルさま!」
「アトラス?来たのか」
「デイルさまがお帰りになったのなら……来る」
「そうかそうか、ありがとな」
アトラスも色々と事情を抱えている。初めて出会った時は兄ちゃんが面白い世界の異物だと連れてきたんだったか。
※※※
『面白いだろう?デイル。これが魔物と人間の唯一の成功例だ』
混魔とは違う。魔物と人間の混ざり子。まさに想定外の世界の異物。
『だけどどうしようね……?』
『グルルルルっ』
人間の言葉を知らぬその獣は兄ちゃんに威嚇するばかり。兄ちゃんに飛び掛かるものの……完全に弄ばれてる。
『おもちゃにはちょうどいいかもしれないが……少し暴れすぎだ』
『ああぁぁぁぁっ』
兄ちゃんによって空中でもがくだけしかできない獣。
『なぁ、兄ちゃん』
『どうした?デイル。もしかしてこれが欲しいのか』
『うん、ちょうだい』
そう言えばこのブラコンはすぐにほいと渡してきた。
『知性も言葉もない。人の形をしたただの獣。そろそろ飽きて藻屑にしようと思ったところだ』
あ……あっぶねええぇ……。
『ほら……おいで』
『ぎゅるるるる……』
兄ちゃんによって消耗した獣は抵抗する気力も見せずゆっくりとこちらにやって来る。まるで助けを求めるように。
『お前に名をやろう。そうだな……アトラスと言うのはどうだ?』
『ぎゃ……あぁ……ぅ』
自分の名前を……言葉を覚えようとしているのか?
『いいだろう。お前は俺とおいで』
そう言うとアトラスは俺に懐きついてきた。
※※※
あれからどれくらい経ったろうか。俺たちと普通の人間の時間は違う。源流と言うのはそう言うものだ。
「アトラス」
「デイルさま」
今ではすっかり言葉も覚え、イスキオスの任務も務められるような知性を得た。
それは兄ちゃんとしても想定外だったらしく役に立つならとイスキオスの一員となっている。
「散歩にでも行こうか」
「はい……!」
アトラスは相変わらず懐いてきてかわいい。でっかくなっても相変わらずだもんなー。
「デイルさま」
「どうした、キール」
「アトラスばかりかわいがって……っ、私だって!」
「すまんすまん、悪かったって。お前も一緒だって」
「はい!」
全くお前らは。ま……悪くはないがな。
※※※
イスキオス本部を散歩……そんなことが出来るのは兄ちゃんと俺くらいだろうなぁ。
てくてくと歩いていれば懐かしい男の後ろ姿が見えてきた。
しかし同時に怒号も飛ぶ。
「おい、孤児院は本当に無事なんだろうな!」
「お前が総帥の手足として働くのなら管理はしてやる」
孤児院て……?良く分からんが言い合いをしている男の声には覚えがある。
「何の騒ぎだ、ハルベルト」
言い合いをしている一方の男を呼べば、こちらを振り返る。
深い藍色の髪。厳格そうな顔立ち。瞳は赤、魔族の紫の角。そういやコイツも紫の角だったな。
「これはこれはデイルさま」
「……え、お前っ」
ハルベルトとは真逆に驚いた声を上げた青年のことを俺は知っていた。
「ルディさん。何でイスキオスにいるんです?」
「お……お前の方こそ!」
「ルドルフ、デイルさまに何と言う口の聞き方をっ」
ルドルフとはルディさんの本名か。ハルベルトが叱責する。
「コイツ、噛みついていい?」
「やめろアトラス」
「悔しいですが私も同感です、デイルさま」
「お前も殺気しまえ、キール」
うちの過激派も抑えて抑えて!
「……デイル、さま?」
ルディさんが驚愕している。
「そうだ。デイルさまは総帥の弟御。イスキオスの源流である」
「なん……だと?」
「ルディさん、驚きすぎ。でもイスキオスでもないのに何でここに?」
イスキオスかどうかなどすぐに分かる。しかし部外者がおいそれと入れる場所でもない。
「さっきの孤児院ってのが関係してるの?」
「それは……俺は、俺の育った孤児院には混魔の子どもたちが引き取られてる」
「……!」
「イスキオスは孤児院を管轄下に置くことで混魔の子たちを将来戦闘員にしようとしている。俺はそれを防ぐためにあの総帥の言う通りにするしかない」
「まぁ、混魔は強いですからね。普通の人間よりも。だけど居場所がない。イスキオスの管轄下にでも入らないと守れない。でしょ?」
「く……っ、そうだよ。何がSSランク冒険者だ!弟妹たちを満足に守ることも出来ないなんて!」
「……それでハルベルトが管理してんの?」
「左様でございます、デイルさま」
ハルベルトが頷く。ハルベルトは幹部だ。それらを任される立場にある。
「ふぅん?将来イスキオスになるかどうかは子どもたちの自由じゃないかな」
「んなこと言ったって総帥は……っ」
「そうはしないだろうなぁ、兄ちゃんだもの」
あの兄は面白そうなものは遊ぶ気。今まさに混魔の代表として遊ばれてるのがルディさんだろ。
「表ギルドの摘発時に動いてたのも兄ちゃんの指示だな」
「……そうだよ」
「なら、名案がある」
「どんなだよ……?総帥の命には逆らえないんじゃ……」
「逆らいはしないさ。ついてきて」
「え……?あ……おう」
※※※
「兄ちゃん」
「やぁ、デイル。今日は大所帯でどうしたの?」
「ルディさんの……混魔の子どもたちの孤児院のこと」
「おや、興味があるのかな」
「そりゃぁな」
本来の源流なら世界が美しくあるように使うだけ。しかしながら前世の記憶が俺にそうをさせないのだ。
「な、子どもたちを将来のイスキオス戦闘員にする気?」
「良い案だろう?」
「てんめぇっ!」
憤るルディさんをハルベルトが強引に抑え込む。
「それは面白いよねぇ。イスキオスにも誘ってあげたのに。拒否してただ働きさ」
「SSランク冒険者をただ働きって」
やはりイスキオスの総帥だな。
「なぁ、ルディさんと孤児院を俺の管轄にしていい?」
「……どうして?」
「健全な勇者と聖女育成計画に使うの。ルディさんはローウェンと交替でジルの育成に加わってもらう」
適度にサボるとは言えローウェンにも休暇がなくてはな。
「アンジュは孤児院の訪問とか好きなんだよ」
多分性分にも合っているだろう。
「イスキオスの管轄下なら任せやすいだろ?」
「それは確かに」
「具体的な経営はハルベルトの方がいいだろうから任せるけど、管轄は俺にちょうだい」
「ふむ……まぁそれもイスキオスの美学のためには必要か。いいよ、あげる。一向に素直にならないからそろそろ飽きてきたところだ。ちょっくら拷問でも加えて従順な犬にしようか迷っていたんだ」
あっぶねえええぇ。
「そんなわけだから、ルディさん」
「デイル……お前」
「孤児院の子どもたちを将来の戦闘員にするなら俺の許可がいります。子どもたちが望まないのであれば戦闘員にはしません。それでどうです?」
「どうしてそこまで……っ」
「んー……」
前世的に美しくないから……と言うのもあるが。
「アンジュが心を痛めたら嫌なので」
せっかく訪問した子どもたちが戦闘員になるなんて知ったらきっとショックを受けるから。
「これは一大プロジェクト、健全な勇者と聖女育成計画に則った適切な運営です」
「あ……ありがとう、ありがとう!」
「いいえ、俺は俺の美学を通しただけですから。それより……俺の管轄になったんですからちゃんと働いてくださいね。あと俺の出自はジルたちには内密に」
「も……もちろんだ!」
ルディさんは繰り返し礼を述べてくれた。
「全くお前は……次から次へと懐かれる」
「アトラスたちのこと言ってる?兄ちゃん」
「ふふっ。だからこそデイルにあげたくなってしまう」
「そらどーも」
元々ブラコンってのもあるけど、こうして与えるのにも総帥なりの理由があるってこと。
俺は精々その期待に答えていかないとな。




