【13】SSランク冒険者
冒険者ギルドの改革はゴタゴタな中行われたものの、穏便に幹部の交替が果たされたのはイスキオスも少しは容赦していたからだ。
裏は既に磐石だしな。
「ジル、これがCランククエストの一般的な報酬だ」
と言ってもものによるが、相場はこのくらい。
「3000ゴル。本来ならばそのうち300ゴルがギルドへ納める手数料だ」
円換算すると3000円と高いが、だからこそCランクまでは1割。Bランク以上より優遇されている分、その分で装備やアイテムを充実させるのだ。
「だが暫くはこのギルドへの手数料はクエスト達成報酬に上乗せされる。今まで正当に支払われていなかった分の報酬だ」
各国からの支援金の返還もある。一気に返すとギルドが破産するのでここら辺は容赦してやってるんだ。
「さらに防具の刷新予算が別途出た」
「そんな……いいの?」
「いいも悪いも、これが本来お前たちが受け取らなければならなかったものだよ。お前だって気付いてんだろ?」
「……」
「アンジュのためにも防具を新たな揃える。いいな?」
「う……うん!」
もちろん騙されるなんてことがあってはならないから、防具店にはイスキオスの息がかかっているが……このくらいは許されんだろ。
※※※
――――装備を一新したジルとアンジュを連れてやって来たのはのどかな町だ。
ここで軽度なクエストを幾つか請け負うのが今日の仕事。講師役にローウェンも来てくれた。
「あの……そう言えばデイル」
「どうした?アンジュ」
「デイル……マジックボックスや通信アプリも持ってるんだよね。どこからそんなの仕入れたの?」
「え……と」
まさか真実を言うわけにもいくまい。
『修行の旅の途中で……』は無理があるか。
「兄ちゃんに押し付けられたんだよ」
その解答にクレアたちが吹き出すのが分かった。いや、嘘は言ってない。
「デイルのお兄さん、過保護だもんね」
ジルはのほほんと笑っているが。
「ほんと何者なの?あなたのお兄さん」
ジルからちょこっとしか聞いたことのないアンジュは不思議そうにしていた。
※※※
クエストをこなしていれば、思ってもみない人と再会することになった。
「え……ルディさん!?」
「何だ、俺のこと知ってんのか?」
おっと、俺の方は仮面で顔を隠していたから知らないんだよな。
「SSランク冒険者ですし」
「ああ、そうだったが」
普段はあまり飾らない人なんだな。しかし俺たちのパーティーを見たルディさんが固まる。
「……ローウェン、何でお前が」
え、知り合い?
「別に。剣の指南を頼まれてるだけだよ」
「とはいったって……そいつら、勇者と聖女だろ」
さすがにルディさんの方はジルたちを知っていたか。
「下手な剣の指南を受けさせるわけにもいくまい」
「まぁ……そうだが」
「それよりお前こそ、後ろ楯がなくなったのはいいのか?」
処罰を受けた表の元ギルド長のことか。
「……別に。俺は守るもののためにこの責務を全うするだけだ」
「どう言うこと……?」
「ローウェンを側に置いてるくせにそれを問うか。それともお前……」
ルディさんが訝しげにローウェンを見る。
「それはそうと……お前はここにいるし。何だか妙な匂いが濃くなっている」
「まずい……!」
ルディさんが叫ぶ。
「お前たち、すぐに避難しろ!それから町の連中も……!ここを魔王四天王が狙っていると情報が入ったんだ!ガセかもしれないが本当かもしれない」
「それでルディさんが来たんですね」
「そう。ローウェンの鼻がそう言ってるのなら急がないと!」
『その必要はないわ』
恐ろしげな声が響く。
『今ここで勇者もろとも殺してあげるから!』
現れた女魔族が妖艶に微笑んだ。瞬時にその場が戦々恐々となる。
「何で魔王四天王がこんなところに!?こんなの、まだまだ序盤に近い街だぞ」
中盤に行くとしてもまだまだジルたちのレベルが追い付いてない!
『あら……だからこそよ』
「何っ」
『芽が出ないうちに潰すのよ!こんな序盤に近い街で燻ってるなんてチャンスじゃない!』
くそ……っ。ゴルトのやつのせいでまだまだジルたちは成長できてないってのに!
(どうするの?デイル)
クロウから念話が届く。
(全員に通達ー!イスキオス的にはNG!イスキオスの美学に反する!)
まだまだ成長途中の勇者を狙うとかダメだろ!実力整ってからにしろ!
(それならどうする?)
ローウェンからだ。答えは決まってる。
(我らの美学を瀆す者には制裁を)
(((我らの美学を瀆す者には制裁を)))
「クレアはアンジュと一緒に町の人の避難を最優先!」
「分かったわ!アンジュ、行くわよ!」
「う、うん!」
『あら、聖女は勇者を置いて逃げる気?』
「違う!お前の相手は俺だ!」
ルディさん!?
「うおおおおおぉぉっ!!」
ルディさんが咆哮を上げれば紫の角が出る。この人……混魔か!
『あぁらあなた、半分こっち側なのね。強そうだし、こちらに寝返らない?』
「ふざけるな!俺は人間として生きている。お前らの側になど行くか!」
『その角で受け入れられるとでも?』
「……っ」
SSランク冒険者が混魔。混魔だからこそ並みの人間よりも強いのだ。恐らく今までは表の元ギルド長が庇っていたのだろう。
「問題ないですよ」
「え……?」
ルディさんが不思議そうに振り返る。
「ルディさんはルディさんでしょ?これからもそれは変わりません」
アトラスにそう通達を出せば表もそう倣う。
「それに今は魔王四天王をどうにかしないと」
『楽しませてよねぇ、あなたたち!』
そう言うと女魔族の部下と見られる魔族たちが湧いて出る!
「ここで塞き止める!」
「任せて」
「気が乗らないが……俺の前に現れたお前らが悪い」
クロウとローウェンも臨戦態勢。
(アンデッドの支援準備完了でーす!)
ナルの声だ。
(こちらもバックアップする)
(目にも止まらぬ早さで間引きます)
ルキとキールも準備万端だな!
「その……俺はっ」
「ジル」
「デイル?」
「これが魔族との戦いだ。ちゃんとその身で感じ、覚えろ」
「だけど……っ」
勇者が覚悟も何も決まってないってのに。ほんと……美しくない。
(ナル、ルキ、キール。勇者の援護を)
(((了解!)))
『さぁ、狙いは勇者だよ!やっておしまい!』
「させるかよ!勇者には指1本触れさせねぇっ!」
ルディさんの言葉と共に決戦の火蓋が開けられる。
ルディさんが魔王四天王と対峙し、俺たちはあぶれた魔族たちを相手取る。
「マジックアクシズ!」
「くらえっ!」
クロウも暗器で応戦する。
「弱い!」
ローウェンは相変わらずだな。
「うわぁぁぁっ!!?」
ジルの悲鳴!?
(ご安心を)
ナル!
ちらりとみればアンデッドたちが撹乱し、キールが目にも止まらぬ早さで仕留めている。
さらにはルキの魔法の援護!
「この……っ!待てっ!」
『こんなの聞いてない!何で押されてんのよ!』
四天王が逃げる?
「逃がすと思う?」
『ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!』
次の瞬間、四天王は腹を真っ二つに引き裂かれていた。
「ローウェン……お前」
「ルディ、お前の方こそ詰めが甘い」
(イスキオスの美学を瀆した酬いだ)
ま、ローウェンの念話の通り。俺たちはルディさんにはない使命があるもので。
※※※
町の人々も無事に避難し大きな被害は出ていない。後処理はギルドも駆け付けてくれて事なきを得たが。
「俺は何も出来なかった」
「ジル」
「お前はすごいよな。レベルだって俺以上。魔族とも戦える」
「悔しかったのか」
「……お前はいつもこんな気持ちだったのか」
「そうだ」
「ならどうすればお前みたいに強くなれる!?」
「経験を積むしかない。魔物と戦い、ローウェンに鍛えてもらい、少しでも実戦を積む」
「それでも今日みたいになるかもしれない。何かの力が働いているみたいに襲われなかったけど……でも何も出来なくて」
「いいんだ。その悔しい気持ちがバネになる」
「デイル……」
「そのために俺はお前の隣にいるんだから」
「うう……っ」
その日ジルは旅立ってから初めての涙を流した。何も出来なかった悔しさと反比例するようにそこにある勇者と言う責務。
いつか今日の悔しさをバネに立ち向かえるように……。
※※※
――――はぁ、これが異世界の営業と言うものか。
異世界の営業とは奇妙なもので。名刺持たずに仮面を着けて手ぶらでオッケー(ただしイスキオスに限る)。
「ふんふんふん」
俺のげんなりとした気分に反して兄ちゃんは上機嫌である。
いや、兄ちゃんもイスキオスの美学を瀆されたので激おこなのだが、隣に俺がいるからゴキゲンなのである。
その証拠にひとたび謁見の間にまみえれば。
「やぁ、魔王。久しいと言っておこうか」
ズドンと空気が重くなる。
「ふん……イスキオスめ。来よったか」
あれが魔王。
想像に難くない恐ろしい形相をしているな。そして兄ちゃんを前にしてもその態度、度胸がある。
「私が直接出向いた理由が分かるか、魔王」
「ふん……先日の勇者強襲の件か」
「分かっているのなら話は早い。あれは、どういうつもりだ」
「どうもこうも、あれも我が魔王軍の作戦のうち。お前たちに文句を言われる筋合いはないわ!」
「ふふふっ」
「何がおかしい」
「お前は魔王なのだろう?」
「そうだ!だからこそ勇者を撃ち取るために策に出た!それだけであろう!」
「いいや、お前は魔王と言う世界に当てはめられたひとつの駒にすぎない」
「何だと!?」
「どうあってもお前が魔王を選んだのだからそうなるべきでしかない」
魔王を選ばなければ駒にならない。しかしそんな選択肢があるのだろうか?
「許されないのだよ」
「何がだ!イスキオス!」
「イスキオスの美学を瀆すことは」
「そんな美学、知ったことか!これからも我は変わらん!」
「ならば一匹一匹四天王が狩られ、最後はお前になる」
「そうなればお前たちが望む勇者と魔王の戦闘は見られぬぞ」
「次の駒があればいい」
「は……?」
「お前が魔王と言う駒に座った以上、駒は駒。替えはいくらでもある。それを用意するのも我らの役目」
「ぐぬ……っ」
「分かったのならせいぜい我らの美学を瀆さぬことだ」
「くそぉっ!」
魔王が玉座の手すりを破壊する。わざわざ自分で破壊するか?直るまでカッコ悪い魔王の誕生じゃないか。知らんけど。
「さて、帰ろうか」
「……ああ」
魔王の前を後にする。しかしその時。
「イスキオスめ!」
飛び出してきた魔族に後ろの魔王がほくそ笑んだのが分かった。しかし……。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」
魔族が粉々になる。そう、文字通り粉々に。
「ふふっ、ふふふっ」
やれやれ、兄ちゃんに手を出すからああなる。君子危うきに近寄らずって言葉、知らないのか?
後ろの魔王がどんな表情かなど確認せずに謁見の間を後にする。
しかし俺たちの前にひとりの魔族の少女が立っている。赤髪に黒い角、金色の瞳だ。
「あの……っ」
兄ちゃんは何も答えない。つまり興味がないのだろう。
「私は……私は魔王の娘リリアです」
あの魔王にこんな美少女の娘が!?
「魔王が駒なのだとしたら、お父さまが役目を追われた時、次の駒になるのは私なのですか?」
「……」
兄ちゃんは何も答えない。
むしろ進路妨害されてどうしてくれようか考えを巡らせている。今のところ彼女はイスキオスに必要な駒じゃない。ここで進路を妨害したとして先程の二の舞になってもおかしくはないのだ。
「魔王は世襲じゃない」
「それは……っ」
「だから魔王がこれからも駒としてイスキオスの美学のために存在するか……それとも新たな答えを見付けるか。それは君次第だ」
「……」
リリアは何かを考え込むように俯く。
「さて、行こうか」
「うん、兄ちゃん」
どうやら兄ちゃんはリリアに手を下すことは諦めたようだ。
俺たちは立ちすくむリリアを残し魔王城を後にした。




