【12】イスキオスの制裁
――――画面に映らない【彼ら】の表情はどうなっているだろうか。イスキオスの恐ろしさを知っていれば顔面蒼白。でなければこれからそうなるだろう。
『喜びたまえ、諸君。君たちが各国から支援を受けた勇者への支援金を横領したことは既に各国には通達済みだ』
そのためのパイプを持っているのもイスキオス。ギルドは治外法権といえど、各国から支援金を騙しとっていいわけではない。
『言っておくが……さきの罪人のせいにしても誰も聞く耳を持たないだろうな。あれを放置してギルドと癒着したのは事実』
俺が動き出すまで傍観していたのも事実だが……全部この時のためか。
『無論……斧使いのせいにしたところで事実無根』
むしろろくな余生を送れないぞ。
『そしてこれ』
画面に先ほど俺が記載したワークシートが表示される。
『許可しよう』
総帥自ら決裁が下りるとは。本来ならば公開処刑にはならなかっただろうが俺に暴言を吐いたためにこのブラコン兄の逆鱗に触れたのだ。自業自得だな。そして画面が切り替わる。
「俺が✕をつけたやつらだな」
画面の向こうの彼らは顔面蒼白だ。何故なら彼らの周りを黒ずくめが囲っているのだから。
さらに表ギルマスの長の元には目立つオレンジ髪な槍使いの青年が立っていた。
『アレンさん、残念です』
『る、ルディ!お前、散々面倒を見てきてやったのに!』
『それでも勇者にしたことは……許せません』
どうやらルディさんはまともなようだな。しかし見た目表の冒険者なのに裏ギルドの捕縛クエストに混ざっているのはなんだか奇妙だな。
『よせ……私がいなくなれば……いなくなればギルドがっ』
『後任ならば既にある』
画面が総帥に切り替わる。
『だからいらないんだよ』
ニヤリと嗤った総帥に彼らはどんな悲鳴をあげただろうか。
『それじゃ……負債の処理は頑張ってね。表だけで』
あぁ……表だけが変われなかったからこそ。むしろ勇者のための金を横領しなければこんなことにはならなかったろうに。
画面から総帥の姿が消えればプツリとブラックアウトする。
「終わったか」
立ち上がり仮面を外せば、扉の前に立っている人物に驚く。
「おや……キールさんとお知り合いの方ですか?不思議な気配がしますねえ」
ナルとルキも仮面を外し、裏ギルマスが仮面を外して急いで畏まっている。
「ナル……さっきそこにいたろう」
ルキが示したのはスクリーンだ。
「そうだな。でも何故こんな早く……?」
イスキオスの技術や特殊な魔法があれば可能だが。俺も初任務の時はイスキオスの転送魔法技術を使ったし。
「あなたにお会いするためです。デイルさま」
仮面を外した素顔は目元だけ隠してある。そして傅けば俺の手を取り頬に押し当ててニイとほくそ笑む。
「はいはい、俺も久々にアトラスに出会えて嬉しかったし」
なでなでとその黒髪を撫でればニタニタと笑みを絶やさない。
「あまり甘やかさないでもらえます?デイルさま!」
キールから苦情が飛ぶ。
「いや、久々に会えたわけだしさ。アトラスも任務をこなしてたし」
「任務ですか?」
「あー、うん。ナル」
多分ルキは知ってるだろうけど。
「アトラスは裏ギルドの掃除を……あ、この話大丈夫?」
アズールの裏ギルマスを見る。
「現在の裏ギルドは全て長と志を同じくしております」
「なら問題ないか。以前の裏ギルドは表の監察の任務を放棄し癒着していたんだ。それをイスキオスがテコ入れして建て直した。ギルドが崩れればイスキオスとしても困るから」
イスキオスとの関わりは元々だが、だからこそ上手くテコ入れできたと言うか。
「イスキオスの関係者も相当いるぞ」
俺たちもだが。
「そう言うことでしたか。それにしても……」
ナルはじっとアトラスを見る。
「見たことのない種族です」
その瞬間ルキの顔色がサアァッと引く。
「あー……内緒な」
アトラスは俺に夢中と言うかそれしか考えてないメンヘラだから聞いちゃいないと思うが。
「はーい!」
ルキやキールの微妙な表情をものともせず、ナルの調子には感服するよなあ。てか……見た目は明らかに人間だと言うのに分かるのか。
まさかとは思うが、やっぱりキールの正体もバレてないか?次はキールに迫ってるし。
「それじゃぁ報酬の件はこれで解決だな。アトラス、俺はジルたちのところに戻るよ」
「うう……もうお別れですか?」
「またメッセージ入れるから」
よーしよーしとなでにですれば立ち上がりにこりと笑む。
そしてパシャパシャと俺を無断撮影すると満足したようにその場を後にする。
「……撮影許可……いやまぁアトラスだからいいけど」
「ちょ……っ、何勝手に撮ってるんですか!私にも寄越しなさい!」
アトラスを慌てて追いかけるキールに逃してしまったと残念がるナル。
「大人気ですね。ふふっ」
「まあ……あの2人を見ていればこの出自も悪くないと思える。もちろんナルたちに出会えたことも」
「光栄ですよ」
柔和に微笑むナルにルキも緊張の糸をほどいたようだ。
「じゃ、後は頼むね」
裏ギルマスに告げれば静かに会釈をされる。さて、これからはジルたちに合流だ。
※※※
ザクザクと草原を抜ければ、ローウェンに剣を打ち込むジルの姿が見えてきた。懐かしいな。俺もああやって教えてもらったっけ。
俺の姿に気が付いた2人が手合わせを終えて来てくれる。
「ジル、どうだ?」
「こうやって剣を見てもらったのは初めてだけど、すごく身になった気がするよ」
そう語るジルは本当に楽しそうだ。こうして誰かに師事するのも初めてだろうな。
「ま、最初に比べたらましになったよ」
くすりとローウェンが微笑む。
「レベルも上がったし」
「どのくらい?」
するとジルがステータスを見せてくれる。
レベルは……70!?しかもスキル女神の加護に【経験値アップ】が追加されている。
「今まで足りなかった技能分が伸びたものと思われるね」
ローウェンが解説してくれる。
「それでこんなに……しかも女神の加護ってスキルが追加されるのか」
「だから勇者は強くなるんだ」
「数多の伝説通り……か」
ミソはこの女神の加護だったわけか。
「ならアンジュも……?」
「可能性はある」
俺たちは急いでアンジュたちのもとへと向かった。
俺たちに気が付くとアンジュが手を振ってくれる。クレアとクロウとの特訓。今までとは違い笑顔も見られるとは。
「アンジュもたくさん魔法を覚えてレベルが上がったのよ」
「うん!見て!」
レベルは35。ヒーラー職とは言え、勇者の半分も上昇するのはなかなかだな。やはり回復魔法だけで鍛えるよりも育つのが速い。
「それにスキルも増えたのよ」
クレアの言う通りアンジュのステータスも変化していた。以前の女神の加護は【状態異常耐性アップ】のみだったが、今は【回復性能アップ、デバフ成功率アップ】が追加されている。
「多分最後のスキルは……デバフ魔法を覚えたからじゃないかしら?」
「そっか……勇者も技能が上がればスキルが増える。それは聖女も同じ。さらには回復魔法以外を鍛えればそのスキルも付いてくる」
「そう言うことね」
クレアも満足そうだ。そして何より。
「これで少しでもみんなの役に立てれば……っ」
アンジュが自信を取り戻してくれたことが嬉しい。
「ああ。もちろんだ」
アンジュがいるだけで俺たちはパーティーでいられる。笑顔でいてくれれば……もっと。
「どうする?今日はさすがに休ませるけど、今後のクエストは」
「そうだな……クロウ。そっちも問題ないよ」
片付けてきたからな。
「じゃぁ今日のところは飯奢るから。俺からなら問題ないだろう?」
とローウェン。やはりこのひとは面倒見がいいと言うか、よく見ているのだ。俺の気持ちも丸分かりなのかな。
「そうする」
ジルとアンジュももちろんと頷いてくれる。今夜は久々に空腹と栄養を満たせたようである。




