【1】モブは覚悟を決める
――――イスキオス。それは生まれながらに受け継いだ呪いであり枷だ。
だから俺はモブでいい。ただ勇者の隣に立っていたかっただけなんだ。
「デイル・スキア!出ていけよ、この役立たず!」
戦士ゴルト・パットウが俺の頬を殴り飛ばす。13歳の身体が軽々と吹っ飛んだ。
「やめてください!」
赤髪の勇者ジルが叫ぶ。
「ひ……ひどすぎるわよ!」
金髪のエルフの聖女アンジュも抗議し2人で止めるもののゴルトはそれを振り切る。2人だってまだ13歳。2歳も年上の戦士にはかなわない。俺に馬乗りになり殴り続ける。
「お前役立たずのくせに、ずっとムカついてたんだよ!だいたい何だそれは!役立たずのくせにアックスなんて持ちやがって!俺とエモノが被ってんじゃねえかっ!」
そんな……ことで。
「しかもこんな醜い痣まであってよぉっ!」
俺の服を引き裂きゴルトがせせら笑う。俺の腕には聖女の力でも消せぬ痣があった。
「そのくせ平民のくせに何だぁ?その目」
俺は黒髪に珍しい紫の瞳だった。
お貴族さまのゴルトにはさぞ羨ましかったのだろう。だからって見た目に嫉妬して、そんな……。
「てめぇは金輪際勇者パーティーからは追放だ!そして冒険者もやめちまえ!ジルベールには相応しくないんだよ!」
俺には言い返す力もなかった。アックスも破壊されて服もボロボロ。何もかも失い、パーティーから追放され放り出された。
※※※
――――流行りの異世界転生と言うものもいいことばかりではない。
こっそりアンジュが忍ばせてくれたポーションを飲めば顔の腫れは引いたようだ。
「はあ……しかし、勇者に望まれて隣に立つだけじゃ……」
周囲は認めない。勇者ジルがどれだけ心の支えが必要と見なしても彼の才能と特別な勇者と言うジョブが放っておかないのだ。
「かといって、勇者パーティーをあのままにしておくのもな……」
あの戦士はジルの故郷のブラン村を領地に持つ領主の息子。アンジュはツンデレだが根はいいやつだ。しかしすぐ泣いて失速する。
まだまだ実力的にも精神的にも成熟していない勇者と聖女。俺が付いていくことは村長が許可してくれた。俺が同年代よりも少しマセていたからってのが理由だけど……。当然だ、地球で一度社会人やってんだから。
「でも金もない。今さら村に戻ってどうする?人質がひとり増えるだけだ」
ならどうすればいい?
「……兄ちゃんにバイトでも紹介してもらおう」
とぼとぼとウッドベルの街の冒険者ギルドの門を叩けば、周囲の視線が冷たい。やはり俺が勇者パーティーを追放されたと言う報は既に届いていたか。
「あの、通信機借りたいんですけど」
「はあ?勇者パーティーでもない底辺Gランク冒険者になんて用はないのよ。とっとと消えれば」
異世界と言えば……の花の受付嬢。あからさまにひどい態度に変わったな。当然か。勇者パーティーに憧れたものたちは平凡なくせに選ばれた俺を妬む。
「冒険者登録してれば無料ですよね」
俺が冒険者カードを示せば、受付嬢が渋々と受け取った。
「はあ?アンタ、今日で冒険者やめるんでしょ?戦士くんが教えてくれたの。なら今ここでやめさせてあげるわ」
「……は?」
受付嬢が俺の冒険者カードを真っ二つにしたのだ。
「冒険者でもないクズは出ていきなさいよ。あっははははっ!」
受付嬢の笑い声に拍手と称賛が送られる。何だよ……これ。日本だったら器物破損。身分証をお役所が故意に破壊だなんてお役所叩き案件だろ!
「……っ」
俺は受付嬢に真っ二つにされたカードを掴み上げ、踵を返すことしか出来なかった。
「そんなことをしても、もうそんなの使えないわよ!バカみたい!」
バカみたいなのはお前の方だろ!?くそ……っ、でもここで受付嬢に抗議すれば周りの冒険者からどんな目に遭うか分からない。
※※※
――――この手だけは使いたくなかった。しかし他に手がない。俺が叩いた門はと言えば。
「ここはお前みたいなボウズが来る場所じゃねえぞ」
門番と見られる男が俺を睨む。あからさまにヤバそうな見た目。現代日本じゃ絶対に近付いたらならない人種だろうな。
「問題ない」
ボロボロになった服は腕の痣も明らかになっている。ポウッと俺の魔力を当てれば痣は本来の証の形を取る。
「我らの美学を瀆す者には制裁を」
「どうぞお入りを」
ま、そうなるんだよな。中に通されれば割りと広々としている。表のギルドと同じく買取りカウンター、ヤバめのクエストリストそれから……受付カウンターだ。
「いらっしゃい。坊っちゃん。大層なものをお持ちだが、どんなご用で?」
まだまだ子どもだから視線を集めるが、表のギルドのようにあからさまな態度を取るものなどいない。門番に通されたと言うことはそう言うこと。それともこの腕の証のせいかな。
「通信機を使えないか?」
「そう言うのは表の仕事だが」
「この有り様で困っている」
俺は真っ二つに折られたギルドカードを見せた。
「これは坊っちゃんが?」
「表のギルド嬢が勝手に」
「ほう?面白いことをしやがる」
クツクツと苦笑するが目が笑ってねえな。
「これ、どうにかなる?今は手持ちがないが……多分直ればギルド預金に仕送りが入ってるはずだから」
「高ぇぞ」
「どんくらい?」
「軽く……1000万……いいや、そちらさんならまけて700万ゴールド」
「……問題ない。手、付けてないから」
一応どうにもならなくなったらジルとアンジュのために使うつもりはあったが、ゴルトに目を付けられたら面倒だから隠しておいた。さすがにギルド預金の金には勝手に手を付けられないだろう。
「あと通信についてだが、誰に繋ぐ?専用の通信ポータルがあるなら好きに使えばいいが違うのならここの管轄支部になる」
「……支部長は誰かな」
「女幹部アマリリスさまだよ」
「姉さんか……!それなら姉さんに繋いでくれ」
「……」
「その?」
「いや……アンタ、アマリリスさまをそんな風に呼ぶとは何もんだ?」
「……っ」
不審がられたか?
「いや、いい。こちとら裏ギルド。無駄な詮索はしない。その様子だとこっちのギルドカードはないようだな」
「あ……はい」
何とか切り抜けられたか?まさか裏ギルドのスタンスに救われるとは。
「表ので調べるから、名前を書いてくれ」
「その、勝手にギルド名簿から消されてるかもしれないんですが」
「まさか……消すのは俺たちの仕事なんだから消してりゃその情報がうちにある」
びくんっ。つまりどちらにせよ裏ギルドの目からは逃れられないと。
「デイル・イスキオス」
ならいずれはこれに辿り着く。
「お前さん……そりゃぁ……こんな場所で嘘を言うわけでもあるまい。何たってその目だ」
受付の男はすぐに通信を繋いでくれる。そして姉さん自ら来てくれることとなり、俺は裏ギルドの2階に案内されていた。
なかなかに旨い茶菓子を摘まんでいれば、やがて美しい竜族の女性が現れる。深緑の髪に金の竜角、水色の瞳を持ち竜の尾は髪と同じ色。
「久しぶりね。デイルくんから会いに来てくれるだなんて嬉しいわ」
「俺のほうこそ急にごめん、姉さん」
「いいのよ。それで?ずいぶんと服装が荒れているわね。一緒に旅立ったはずの勇者くんたちもいないし……何があったのかしら」
「それはその……追放されちゃって」
「誰に?」
「戦士ゴルトだよ」
「あの田舎貴族のボンボンね」
「準男爵家だけど……まあ平民からしたらお貴族さまだから」
「イスキオスの名を聞けば高位貴族どころか一国の王すら恐れ戦き従うでしょうね」
「……いや、俺は長らく距離を置いてきたから」
一種の反抗と言うか、何と言うか。
「けれど私にこうして会いに来たってことは何かあるのでしょう?」
「うん……その、姉さん」
「ん?」
「俺、覚悟を決めた。勇者の隣に立つにはこのままじゃダメだって。普通の努力じゃ埋まらない差があるんだ。だから……俺は、イスキオスに戻る」
「……そう、待っていたわ」
「うん」
「けどうちの訓練は並大抵じゃないわよ。脱落者なんて相当なもの」
「それでも強くなりたいんだ。ジルの隣に立てるように。ジルと……それからアンジュのためにも。2人を守れるように」
「そうね。その信念は私たちの美学にも通ずるわ。勇者と聖女には強くなってもらわないといけないの」
「俺はそれが理解できなくて逃げ出した。けど、隣で見守ることもできるから」
「それがデイル、あなたのしたいことね。分かったわ。あなたの帰りを歓迎します。ただし、これからは私は上官。訓練の場ではアマリリス教官と呼ぶように」
「……は、はい!」
「……プライベートでは今まで通りでもいいけど」
へ……?それはそれで嬉しいが今は気を引き締める時だ。
【デイル・スキア】
13歳
レベル:22
ジョブ:斧使い
スキル:探索
こっちのステータスとは暫くお別れだな。……裏ギルド経由の偽物だが。
【デイル・イスキオス】
13歳
レベル:22
ジョブ:スペルマスター
スキル:
魔力無限
千里眼
「さて……行くか」




