表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

鬼のお面の向こう側

作者: 北大路京介
掲載日:2026/01/30


二月三日、商店街の節分イベント。赤鬼の着ぐるみを着たチカと、青鬼のハナが、寒空の下で立っている。


「ねえチカ先輩、これって演技の仕事って言える?」


ハナが青鬼のお面の中でぼやく。子供たちに豆を投げられるたび、着ぐるみの中で二人は小さくため息をついた。


「劇団の活動費のためだから」


チカがそう答えた瞬間、一人の男の子が泣きながら母親の後ろに隠れた。五歳くらいだろうか。


「怖いよ、ママ」


ハナが膝をついて近づく。


「怖くないよー、お姉さんだよー」


でも、台本通りの明るい声は男の子に届かない。チカは、ふと立ち止まった。


そっとお面をずらして、自分の素顔を少しだけ見せる。


「ほら、本当は鬼じゃなくて、ただのお姉さんなの」


男の子の目が、大きく見開かれた。涙が止まり、小さな手が豆の入った袋を握る。


「鬼は、外!」


元気な声で豆が飛んできた。チカとハナは大げさに倒れてみせる。男の子が笑った。その笑顔が、二人の胸に温かく響いた。


イベントが終わり、着ぐるみを脱いだ二人は商店街のベンチに座っていた。


「ねえ、今日さ」


ハナが切り出す。


「私たち、久しぶりに本当に『演じて』たよね」


チカが頷く。


「うん。あの子の笑顔、見た?」


技術を磨くことに必死で、評価を気にして、いつの間にか演技が型にはまっていた。でも今日、小さな男の子の心を動かせた。それは紛れもなく、二人が役者を目指した原点だった。


夕暮れの商店街を歩きながら、チカが突然立ち止まる。


「次の公演、子供も楽しめる作品にしない?」


ハナの目が輝く。


「いいね! 絶対やろう!」


二人はコンビニで恵方巻を買い、その場で願い事を心に決めた。


「観てくれる人の心を、ちゃんと動かせる役者になる」


北北西を向いて黙々と恵方巻を食べる二人。でもすぐに、ハナがぷっと吹き出した。


「無理、やっぱり黙って食べるの無理!」


チカも笑い出す。


「バカ、ご利益なくなっちゃうじゃん」


「いいよ、もう十分もらったもん」


商店街の明かりが灯り始める。二人は肩を寄せ合いながら、笑い声を残して帰路についた。


鬼のお面の向こう側には、いつだって本当の自分がいる。そしてその自分を信じて演じれば、きっと誰かの心に届く。


節分の夜、二人は小さな春を見つけた。



― 終 ―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
寒い中での節分イベントで着ぐるみを着て豆をぶつけられる様子は役者の卵らしい苦労が伝わりましたし、チカが怖がる子供にお面を外して素顔を見せる場面は機転が利いていましたが、ただの仕事としてこなすのではなく…
2026/01/30 15:27 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ