第5話 市場独占のプロモーション
王都の空気は、相変わらず煤けていますわね。
わたくしは、数ヶ月ぶりに王都の土を踏みました。
隣には、フードを深く被ったリュカが控えています。
彼の「呪い」が周囲の魔導具に干渉しないよう、細心の注意を払っての再上陸です。
目的地は、鑑定士ギルドの本部。
この国のすべての宝石の「価値」を決定する、権威の総本山です。
「……アステリア令嬢? 追放されたはずの貴女が、何の用ですか」
受付の男が、あからさまに不快そうな顔をしました。
わたくしは優雅に微笑み、カウンターに一通の書類を置きます。
「『アステリア領主』として、新たな商標の登録と、知的成果物の保護申請に参りました。ギルド長を呼びなさいな」
「領主? あんなゴミ捨て場の……」
「言葉に気をつけなさい。わたくしは王印の押された契約書を持つ、正当な領地所有者ですわ」
わたくしが扇をパチンと閉じると、奥から恰幅の良い老人が現れました。
ギルド長のバルトロです。彼はわたくしを「無能」と見なしていた一人でした。
「オリビア様、無駄足ですよ。魔力のない石など、このギルドでは鑑定の対象にすらならない」
「それはどうかしら。バルトロ様、貴方は『美しさ』という価値を忘れたのではありませんか?」
わたくしは、リュカが守っていた小箱を取り出しました。
蓋を開けた瞬間、薄暗いギルドのロビーに、鋭い閃光が走ります。
「な……っ!?」
バルトロの目が点になりました。
そこにあるのは、あの荒れ果てた領地で、わたくしが初めて丹念に磨き上げた最初の一粒。
完璧なブリリアントカットを施されたダイヤモンドです。
魔力測定器は、まったく反応しません。
ですが、その輝きは、最高級の魔石さえも色褪せて見せるほど圧倒的でした。
(きたきた。この顔が見たかったのよ。商売の基本は、常識の破壊っすね)
心中でほくそ笑みながら、わたくしは畳み掛けます。
「これは『ダイヤモンド』。魔力ではなく、光の屈折率を極限まで高めた芸術品です。本日をもって、わたくしはこのカット技法を商会法に基づき登録いたします」
「ば、馬鹿な! 魔力のない石に、これほどの価値が認められるはずがない!」
「認めさせるのですわ。わたくしが。そして、これを所有できるのは、わたくしと契約を結んだ者のみ。……さて、ギルド長。これを『ただのゴミ』として追い返しますか? それとも、新たな利権の波に乗りますか?」
バルトロの手が震えています。
彼は鑑定士。魔力に依存しすぎて忘れていた「本能的な美」に、抗えるはずがありません。
「……鑑定、いたしましょう。特級の『希少石』として」
わたくしは、リュカと視線を合わせました。
彼はフードの奥で、少しだけ誇らしげに口角を上げていました。
(よし、独占販売権の確保完了っす。これで王都のトレンドは、わたくしの手の内だわ)
カシアン様やセシリアが、魔力至上主義の古い宝石を自慢している間に。
わたくしは「美」という新たな通貨で、この国の経済を掌握してみせますわ。




