第4話 【真贋鑑定】と最初の一粒
「リュカ、そこに立っていてくださる?」
わたくしは屋敷の一室で、作業机を前にリュカへ声をかけました。
背後の彼は、少し困惑したように眉を寄せます。
「ここか? だが、あんたの作業に俺の『呪い』は邪魔だろう。魔石を動かす魔力さえ、俺のそばでは霧散するぞ」
「いいえ、逆ですわ。貴方がそこにいるだけで、魔力のノイズが消える。最高に贅沢な作業環境になりますの」
わたくしは優雅に微笑み、足踏み式の研磨機を回しました。
これは王都の職人街で、使い道がないと投げ売りされていた骨董品。
魔法で動く最新型ではなく、人力で動くこの機械は、わたくしが自費で購入し持ち込んだ「私物」です。
(さあ、鑑定から始めるわよ)
手元にあるのは、この地に到着した際、足元から拾い上げた親指ほどの石。
表面は曇り、歪な形をしています。
ですが、わたくしの【真贋鑑定】と前世の知識が、その内部に潜む「光の屈折」をすでに見抜いていました。
(インクルージョンは極小。色は最高ランクのDカラーっすね。これをブリリアントカットで仕上げれば……)
わたくしは石をドップと呼ばれる固定台に据えました。
研磨皿を回し、慎重に角度を合わせます。
この世界には「研磨」という概念が乏しい。
魔石は「魔力量」がすべてであり、表面を整える程度の加工しかされません。
光を反射させ、輝きを増幅させるという「美しさ」への追求は、魔導文明の影に隠れていました。
キュリ、キュリと乾いた音が響きます。
「……信じられない」
背後で、リュカが息を呑む気配がしました。
わたくしの手の中で、泥を被ったような石が、一つ、また一つと面を削られていきます。
リュカの魔力無効化体質により、空気中の微細なマナの揺らぎさえもが凍りついたように静止していました。
これこそが、超精密なカットに必要な「究極の静寂」です。
数時間が経ちました。
わたくしは最後に、石の表面を磨き上げました。
ピンセットで持ち上げ、窓から差し込む夕日にかざします。
「見てください、リュカ。これが本物の『宝石』ですわ」
そこにあったのは、もはやただの石ころではありません。
光を吸い込み、内部で千々に砕き、虹色の火花を散らす結晶。
魔力など一滴も宿していないのに、見る者を平伏させるような圧倒的な「輝き」がそこにありました。
「なんだ、これは……。魔力がないのに、これほどまでに光を放つのか」
リュカが呆然と呟きます。
「ダイヤモンドと言いますの。美しさそのものに価値がある、光の王様ですわ」
(原価ゼロ、技術料プライスレス。これ一つで、王都の高級住宅が買えるわね)
わたくしは満足げに目を細めました。
この一粒が、わたくしの成り上がりの第一歩。
アステリア領から世界を変える、最強の「商品」の誕生です。
「リュカ、これをケースへ。貴方の給料を守るためにも、しっかり警備をお願いしますわね?」
「……ああ。俺の命に代えても、これは守り抜く」
リュカの瞳に、強い意志が宿りました。
ただの行き倒れだった男が、今はわたくしの「唯一無二のパートナー」として、その美しき呪いを発揮しています。
わたくしたちの快進撃は、ここから始まります。




