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ガラクタ令嬢は、石を宝石に変えて孤独な皇子と共に世界を買い叩く  作者: 月雅


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第3話 行き倒れの美形は、最高級のセキュリティ


ザリ、ザリと。

乾いた砂利を踏む音が、岩壁に反響します。


わたくしは領境の視察に来ていました。

これからこの領地を再建するにあたり、まずは資産の正確な境界線を確認しておく必要があります。

公文書には「アステリア領全域」とありますが、現地での実測は商売の基本です。


すると、領地の境界石のすぐそばに、何かが倒れているのが見えました。


「……あら?」


それは、泥にまみれた一人の男でした。

ボロボロの服を纏っていますが、その隙間から見える肌は驚くほど白い。

わたくしは警戒しつつ、歩み寄りました。


「あの、大丈夫ですか?」


声をかけると、男が薄く目を開けました。

吸い込まれるような紫の瞳。

その美貌に、一瞬だけ心臓が跳ねます。


(うわ、超絶美形っすね。磨きがいがありそうな逸材だわ)


反射的に「商品価値」を査定してしまいました。

彼はわたくしの手を取ろうとして、ふと動きを止め、苦しげに顔を歪めました。


「……離れろ。俺には、呪いがある」


「呪い、ですか?」


「魔力を消す……忌まわしい体質だ。あんたの魔石も、俺のそばではただの石になるぞ」


なるほど。魔力無効化体質。

この世界では、生活のすべてが魔石の力で回っています。

魔石を無効化する人間は、火を消し、光を奪い、治癒さえも拒む「歩く呪い」として忌み嫌われる存在です。


ですが、わたくしは彼を見捨てませんでした。

それどころか、その言葉を聞いて瞳を輝かせました。


(え、それって最高じゃない?)


わたくしがこれから行う宝石加工には、魔力の干渉が天敵です。

精密なカットを施す際、周囲の魔石が共鳴して手元が狂うことが一番の懸念でした。

彼がそばにいれば、魔法的な磁場をシャットアウトできる環境が手に入るようなものです。


「素晴らしいわ。そんな便利な呪いをお持ちだなんて」


「……なんだと?」


「わたくしの名はオリビア・アステリア。この地の領主です。行き倒れの貴方を、わたくしの土地の一部として保護いたします」


わたくしは彼を、御者に手伝わせて馬車へ運び込みました。

屋敷へ戻ると、わたくし個人の所持品である薬草と水を与えます。

これらは公爵家から持ち出したものではなく、途中の宿場で自費で購入したものです。


数時間後、少し体力を回復させた男――リュカは、困惑した様子でわたくしを見ました。


「なぜ助けた。俺の力(呪い)を怖くないのか」


「むしろ大歓迎です。リュカ様、貴方をわたくしの専属用心棒兼、作業助手として雇用したく存じます」


「雇用……?」


「はい。住み込みでの労働契約です。報酬は食事と宿、そしてわたくしが提供する法的な保護。もちろん、労働時間外の自由は保証いたします」


わたくしは、さっそく契約書を作成しました。

これは雇用契約であって、人身売買ではありません。

彼という高度な専門スキルを持つ人材の労働力を、正当な対価で買い取るのです。


リュカは信じられないものを見る目で、わたくしと契約書を交互に見ました。


「……あんた、本当に変わっているな」


「商売人は、物の価値を正しく見極めるのが仕事ですから」


彼が署名した瞬間、わたくしは勝利を確信しました。

最強のセキュリティと、完璧な作業環境が手に入ったのです。


(さあ、これで準備は整ったわ。ガラクタたちを、世界一の宝石に変えてあげましょう)


リュカの紫の瞳が、わたくしをじっと見つめていました。

その視線の熱さに気づかないふりをして、わたくしは宝石研磨機に手をかけました。


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