第2話 辺境はゴミの山? いいえ、宝の山です
ガタン、と馬車が大きく揺れました。
窓の外に広がるのは、灰色の岩肌ばかり。
緑はまばらで、生命の鼓動を感じさせない荒野です。
ここがわたくしの新天地、アステリア領。
「お嬢様、到着いたしました」
御者の声に促され、わたくしは馬車を降りました。
目の前に立つのは、今にも崩れそうな古い屋敷。
かつては別荘として使われていたようですが、今は見る影もありません。
(……想像以上のボロ物件っすね)
前世の不動産知識が、資産価値ゼロの判定を下します。
ですが、わたくしの目はその先にある「地面」に釘付けでした。
足元に、無数の石が転がっています。
どれもこれも、濁っていたり、透明すぎて魔力を宿さなかったりするものばかり。
この世界の常識では、これらは「魔力伝導率ゼロのゴミ」です。
わたくしは、その中の一つを拾い上げました。
泥を払い、太陽の光に透かしてみます。
「……素晴らしいわ」
思わず吐息が漏れました。
それは、魔力こそありませんが、完璧な結晶構造を持つ原石。
研磨さえすれば、王宮のどの宝石よりも輝くであろう「ダイヤモンド」でした。
(市場価値、測定不能。この世界の連中には、これがタダの石ころに見えるわけ?)
わたくしの胸は、期待で高鳴ります。
この世界の宝石価値は、すべて「石に宿る魔力量」で決まります。
魔力のない石は、路傍の石と同じ扱い。
つまり、この広大な領地に転がる「宝の山」は、すべて無料のゴミ扱いなのです。
「お嬢様、そんな汚い石を……。やはり、ショックのあまりお心が……」
御者が同情の目を向けてきます。
わたくしは優雅に微笑み、その石をハンカチで包みました。
「いいえ、とても清々しい気分ですわ。この土地のすべてが、わたくしのもの。そうでしょう?」
「は、はい。公文書の通り、この領地の土地、及び付随するすべての所有権はお嬢様にございます」
確認は取れました。
あの卒業パーティーの夜に交わした契約により、この土地の鉱物資源はすべて「オリビア個人の所有物」です。
公爵家や国が口を出す権利はありません。
わたくしは屋敷に入り、手荷物を整理しました。
バッグから取り出したのは、王都で買い集めておいた「私物」の研磨道具。
公爵家の資産ではなく、わたくし個人の小遣いで購入したものです。
(まずは試作品作りっすね。供給過多にならないよう、ブランディングを徹底しないと)
前世の古物商としての血が騒ぎます。
希少性を演出し、付加価値をつける。
「魔力がないから価値がない」という常識を、「美しさにこそ価値がある」という新常識で塗り替えるのです。
わたくしは窓の外を見つめました。
遠くの鉱山跡には、捨てられた石が山のように積まれています。
かつてアステリア公爵家は、ここから魔石を掘り尽くし、価値がないと判断して捨て去りました。
彼らにとっての「負債」は、わたくしにとっての「純資産」です。
(お父様、カシアン様。せいぜい今のうちに、わたくしを笑っておけばいいわ)
わたくしは、拾った石をデスクに置きました。
まだ泥にまみれたその石は、わたくしの目には、どんな金貨よりも眩しく輝いて見えたのです。




