第10話 ガラクタ令嬢は、世界の中心で笑う
幸せの価値とは、何かしら。
わたくしは今、新しく完成した迎賓館のバルコニーから、活気あふれる街を見下ろしています。
かつての荒れ果てた岩山は、今や大陸中から商人が集まる『宝石の都』へと生まれ変わりました。
魔力のない石が、知恵と技術で金貨の山に変わる。
商売人として、これ以上の快感はありませんわ。
「お嬢様。王都から最終的な報告が届きました」
隣に立つリュカが、一通の書面を差し出しました。
彼は今や帝国の駐在外交官ですが、わたくしの前では変わらず有能な助手の顔を見せます。
「カシアン様は、公金の横領罪で王位継承権を完全に剥奪。セシリア様と共に、魔石鉱山の強制労働に従事することになったそうですわね」
(……はい、自業自得っすね。当然の結末だわ)
彼らの敗因は明確です。
「国家管理委託物」である公金を、個人の贅沢のために「私物化」しようとしたこと。
法と帳簿を軽視した者に、富を扱う資格はありません。
父である公爵も、多額の賠償責任を負い、家督を親族に譲って隠居したと聞いています。
「アステリア公爵家は存続しますが、もうわたくしの領地に干渉する力はありませんわ。契約の勝利ですわね」
わたくしは満足げに扇を閉じました。
今のわたくしには、公爵家の後ろ盾など不要です。
この街のすべての石、すべての輝き、そして生み出される利益。
そのすべてが、わたくし個人に帰属する資産なのですから。
「……オリビア。仕事の話は、もういいだろう」
ふいに、リュカがわたくしの腰を引き寄せました。
彼の指が、わたくしの髪を愛おしげに梳きます。
「契約書は交わした。帝国との独占供給も、俺の駐在も。……だが、まだ足りない」
リュカがポケットから、小さな、けれどこの世で一番美しく輝く石を取り出しました。
それはわたくしが彼に託した、あの最初の一粒。
特製のプラチナ台にセットされた、婚約指輪でした。
「俺という『個人資産』を、あんたの生涯の専属にする契約……受けてくれるか?」
紫の瞳に、逃れられないほどの執着と、深い愛が宿っています。
(うわ、すごい熱量っすね。一生分の利益を前借りした気分だわ)
わたくしは、思わず吹き出しそうになるのを堪え、優雅に左手を差し出しました。
「いいでしょう。ただし、わたくしは欲深い女ですわよ? 貴方の心も、体も、その未来も。一分たりとも他所へ流出させることは許しませんわ」
「……望むところだ。俺のすべてを、あんたに永久譲渡しよう」
リュカの手で、指輪が薬指に嵌められました。
ダイヤモンドの輝きが、夕日を浴びて虹色の光を放ちます。
かつて「ガラクタ」と呼ばれ、すべてを奪われたあの日。
わたくしは自分の足で立つことを選びました。
自分の価値を自分で決め、世界を塗り替えてきました。
手に入れたのは、莫大な富と、揺るぎない地位。
そして、どんな宝石よりも尊い、たった一人のパートナー。
「さあ、リュカ。次の商談に出かけましょうか」
わたくしたちの物語は、これからも輝き続けます。
世界で一番美しく、そして誰よりも自由な、宝石の都の中心で。
(完)
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