実力を見せつける
「みんな、こんにちは! 花園サナです!」
ダンジョンの入口で、サナがカメラに向かって明るく手を振る。
「今日は特別な配信ですよー! なんと……私に“初めてのパートナー”ができました!」
同接はすでに五十万を突破。
コメント欄が爆発的な勢いで流れていく。
中には見慣れない国の言葉も目立つ。
『初パートナー!?』
『もしかしなくても、あの人……!?』
『ついにきたーーー!』
サナが横を向き、にこっと笑う。
「こちら、古津川陸くんです!」
カメラが俺を映した瞬間、コメントの熱量が跳ね上がった。
『顔出しきたああああああ!!』
『瞬殺剣士本人!!』
『マジで特定当たってた!』
『伝説の雑魚狩り高校生、ついに姿を現す!』
『鳥肌止まらん!』
……本当にはじまったのか。
俺が、見られる側に立つ日が。
サナはうれしそうに目を細めた。
「ふふっ! みんな、待っててくれたんだね」
コメント欄がさらに燃え上がる。
『サーニャちゃんナイス!』
『この発表、歴史に残る!』
『スクショ連打!』
俺は息を整え、まっすぐカメラを見つめた。
『見た目はさわやか高校生ってかんじだ』
『最強なのに一般人感あるの逆にすき』
『陸くん手振って』
『今日から推します!!』
予想外の反応が多くて、正直戸惑う。
なんで俺なんかにこんな食いつくんだ。
唖然としていると、サナがくすっと笑った。
「言ったでしょ? 君の顔出し配信を、みんなが待ってるって」
視聴者が盛り上がれば盛り上がるほど、彼女の笑顔も輝きを増していく。
「古津川くん、今日の初配信、一緒に楽しもうね!」
不安はあるけれど、それでも頷き返す。
俺とサナの目的は、深層を目指しながら攻略を配信し、多くの探索者に共有すること。
彼女はそのために人気チャンネルを築き上げてきた。
足を引っ張るわけにはいかない。
「それじゃあ出発!」
サナがくるりと振り返る。
その先には――。
……嘘だろ。
ダンジョン入口の石畳に、撮影スタジオ並みの荷物が山積みになっている。
「よいしょっと」
サナが迷いなく機材を背負いはじめる。
「これ全部、持ってくつもり!?」
「うん! カメラ七台、ライト五台、予備のバッテリー二十個、非常食十人分……あとお守りと――」
コメント欄が即座に大爆笑。
『荷物量ww』
『金持ちの発想やばすぎw』
『もはや引っ越しw』
でも、彼らの表現は全然誇張じゃない。
「古津川くんのデビュー配信なので、念には念を入れました!」
「いやいや、どう考えても多すぎる!」
「うっ、これでも厳選したのですが……。すみません、浮かれてました……」
サナはしゅんと肩を落とす。
「いや、気持ちはめちゃくちゃうれしいよ。でも、カメラは一台で行こう。撮影に関しては、花園さんの腕を頼りにしてるから!」
空気が沈みすぎないよう、軽く笑って返す。
彼女はホッとしたように口元を綻ばせた。
「古津川くん、ありがとう……。やっぱり優しいね」
頬を赤らめたサナが胸の前で両手を合わせる。
『空気いいなw』
『サーニャ照れててかわいい』
『コツコツくん、フォローうますぎ!』
『中身までイケメン』
聞いてるだけでこっちが照れそうだ。
「じゃ、改めて出発だ」
◇◇◇
上層・第五通路。
《フラワーカンパニー》が「ゲートの乱れが観測された」と報告した地点まで、あと少し。
道中は、雑魚モンスターを狩りながら進んだ。
コメント欄はにぎやかだ。
『コツコツくん、避け方うますぎ!』
『攻撃の無駄がないな』
『サーニャの解説神』
『さっきの雑魚狩り、普通に勉強になるんだが……』
サナがぱっと顔を明るくして、前のめりになる。
「わ! みんなが古津川くんを褒めてる! うれしいです!! そうだよね、古津川くんってすごいよね!!」
『サーニャちゃん、犬っぽくてかわいいw』
『このかわいいサーニャちゃんを引き出すため、コツコツくんを褒め倒すぞ!!』
おいおい、やめてくれ。
心の中で突っ込むと、サナは不思議そうに小首を傾げた。
「無理に探さなくても、古津川くんには褒めるところしかないような?」
その声がふわっと響く。
コメント欄は爆発した。
『天然の破壊力w』
『もう大好きじゃん』
『完全肯定羨ましすぎる』
サナは照れもせず「古津川くんを肯定するのは当然です! 素敵な人なんですから!」と返す。
……変な誤解を生むからやめてくれ。
けれど、彼女の無邪気さに不思議と緊張がほぐれていく。
敵に向かうときは勇敢で、普段は意外にもぽやっとしていて。
この心地よさが人気の理由なんだろう。
だが、その穏やかな空気は、唐突に終わりを告げた。
「おいおい……まさかとは思ったが」
通路の奥から、耳障りな声が響いた。
カメラが自動でズームする。
三人組の影が近づいてくる。
「やっぱりおまえじゃないか、コツコツくん!」
サナを助けた日に会ったFランク探索者たちだ。
ことあるごとに俺にダル絡みしてくる連中なので、俺は警戒した。
「時代遅れの地味剣士が人気配信者とはな!」
「世の中わかんないもんだな~!」
彼らは相変わらずだ。
三人は光る剣を掲げ、カメラに見せびらかすように構えた。
「このミスリルソード、覚えてるか? コツコツくんに教えてもらった方法で核を手に入れて作ったんだぜ!」
「これがあれば、俺たちのほうが強い!」
その直後、低い警告音が鳴り響いた。
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
サナが顔を引き締める。
「ゲート反応、上昇中……! 来ます!」
通路の奥に光が集まり、空気が熱を帯びていく。
「お、ちょうどいいところに。サーニャちゃん、配信中なんだろ? 俺たちの活躍、しっかり流してくれよな!」
サナが不安げに俺を振り返る。
「まさかおまえたち、戦うつもりか……?」
「当たり前だろ、今度は俺たちがバズる番だ!」
「地味男は引っ込んでろ!!」
光が渦を巻き、ゲートが開いた。
その中心から、巨大な影がゆっくりと姿を現す――。
※カクヨムで十数話分を先行公開しています
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