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素振り代わりに雑魚狩りしてた俺、美少女配信者をうっかり助けて死ぬほどバズる  作者: 斧名田マニマニ


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8/9

破格の契約金

「敵、もう少し強くてもよかったみたいですね、社長の甥殿」


玲一の顔が一瞬で歪む。

彼は苦し紛れに叫んだ。


「ふ、ふざけるな……! こんな結果はまぐれだ……!! 俺は貴様なんか認めな――」

「いい加減にしなさい、玲一」


社長がピシャリと叱責する。


「君は、キングオーク戦のこともまぐれだと言ったな? いいか、玲一。覚えておきなさい。《《まぐれは二度は続かない》》」

「……っ!」

「恥を知るんだ、玲一。君を一端の大人なら、勝者には敬意を払え」


社長の言葉に、社員たちが喜びの溜息を洩らした。


「まさか社長が玲一さんを叱るなんて」

「……正直スカッとしたよ」


小声の囁きがあちこちから聞こえてくる。

まるで全員が、心の中で拍手しているようだった。

どうやら玲一は社員たちからも嫌われていたらしい。


玲一は不安そうに視線を彷徨わせると、形勢が不利だと認めたのだろう。

唇を噛みしめ、ゆっくりと頭を下げた。


「……古津川くん、すまなかった」


そう言って俺に謝る。

俺は首を横に振り、花園さんと社長を振り返った。


「最初から俺への謝罪なんて求めてません。俺はあなたに馬鹿にされたって、なんとも感じないので。それよりも、花園さんと社長に謝って下さい」


玲一も、俺が掲げた条件を思い出したのだろう。

花園さんと社長に向き直ると、改めて頭を下げた。


「社長、サナちゃん、申し訳ありませんでした。あなた方が仰るとおり、古津川くんの実力は本物でした」


サナと社長は顔を見合わせると、受け入れようというように頷いた。


「玲一さん。これに懲りたら、二度と古津川くんのことを馬鹿にしないでくださいね」

「……肝に銘じておくよ」


なんだかんだ玲一はサナに弱いらしく、小さくなってしまった。


「——さて、仕切り直しだ!」


そう言って社長が手を叩く。


「古津川くん、君の実力は完全に証明された。どうだろう? 我が社とのスポンサー契約をお願いできるかね?」


サナを見ると、首を何度も振って頷いた。

さっき玲一を戒めていたときとは違って、彼女は今子犬のような目で俺を見上げている。


俺は苦笑して、社長の差し出した手を取った。


「俺でよければよろしくお願いします」

「おお……! ありがとう! これで契約成立だ」


社長の力強い手が俺の手を握り返す。

社長は息子を見るような温かい目で微笑みながら、言った。


「君は必ずこの国の希望となるだろう!」


その瞬間――。


ドッ!!


爆発のような歓声が社内に響いた。


立ち上がった社員たちが拍手を鳴らし、口々に叫ぶ。


「おおおおおっっ!!! 最強の高校生と契約だー!!」


空気が一気に沸騰する。

歓声が重なり、訓練場全体がまるでフェス会場のようだ。


その輪の外。

玲一はひとり、壁際に押しやられていた。

顔を真っ赤にして拳を握るが、誰も彼を見ていない。

視線はすべて、俺に集まっていた。


「ミラーゴーレムを真っ二つにしたあの一撃、かっこよかったよ!」

「まさか高校生がAI兵器を倒すなんて誰が想像した!?」

「生で見れたの奇跡だろ!?」

「古津川くんは、フラワーカンパニーの名を世界に轟かせるぞおおお!!」


いや、持ち上げすぎだって……。

まいったな。

戦うのは好きだが、こういうのはさすがに照れる。


そんな熱気の中、サナが駆け寄ってくる。


「古津川くんがパートナーになってくれて、本当にうれしい! これからよろしくね!」


勢いあまったのか、両手で俺の手をぎゅっと握ってくる。

顔が近い。距離が近い。

ドキッとしたが、なんとか平静を保つ。


「さあ、古津川くん。さっそく契約料を送らせてもらったよ」

「え?」


社長にそう言われて、反射的にスマホを取り出す。


ピロン。


通知音が鳴った。

口座を開く。


【残高:50,056,000円】


息が止まるかと思った。

ゼロの数がおかしい。

桁がひとつ、いやふたつ違う。

画面を二度見した。何度見ても現実だ。


……これ、俺の通帳で合ってる?


「これはたんなる契約金だ。これから次々入金がある」

「……マジですか」

「君にはそれだけの価値があるし、君になしてほしい行為は、それだけ危険なものだからだ」


そこで社長の表情が引き締まった。


「命は金では買えない。君を未知の領域に送り出す以上、いくら積んでも安いくらいだ」


ようやく金額の意味が腹に落ちた。

これは、命を懸ける契約だ。


けれど、不思議と怖くなかった。

むしろ、胸の奥が熱くなる。


「……でも、それが面白いじゃないですか」


俺の言葉を聞いた途端、サナと社長が驚きを露わにした。

まさかそんな反応が返ってくるなんて、思ってもいなかったという様子だ。


「ダンジョンは、ずっと潜ってきた場所です。そこの均衡が崩れかけてるなら、守りたい」


それに、キングオーク亜種やミラーゴーレムと戦うのは、雑魚戦では感じられないスリルがあった。

行動しながら考え、戦いの中で強くなっていくあの感覚。


「それに、最強の敵たちとの戦いを何十回、何百回、何千回とコツコツこなせば、一体どれだけ強くなれるんでしょう? 想像しただけで、ワクワクが止まりません」


言いながら、自分でも気づかぬうちに笑っていた。

自分でも不思議なくらい、心が澄みきっている。


サナは口を開けかけて、結局言葉を失った。

瞳が、わずかに揺れる。

その頬がわずかに紅潮する。


「……すごい、古津川くん。本気で、楽しそうに言うんだね」


小さく零れた彼女の声には、驚きと憧れが混じっていた。


その後方で、社員たちが互いに顔を見合わせている。


「……肝が据わってる。数えきれない鍛錬の日々が、彼の精神力を強くさせたのか……」

「高校生の目じゃない。彼はやっぱり本物だ……」


囁きが再び大きな渦になりかけたときだった。


バンッ――。


「社長、緊急報告です!」

ドアを開け放ち、社員が駆け込んでくる。

「ダンジョンの上層でゲートの乱れを観測!」

「なんだと!?」

「明日の夕方には、深層部と繋がる可能性が高いとのことです!」

「くそっ。また上層にS級モンスターが現れてしまう……!」


緊迫感がいっきに走り抜ける。

俺とサナは思わず目を合わせた。

そんな俺たちに向かい、眉を寄せた社長が低く言う。


「古津川くん、サナ。どうやら明日の放課後が、君たちの初仕事となりそうだ」


社員たちが息を詰め、俺の返事を見守っている。


深層に潜るより先に、また深層レベルのモンスターと上層階で戦うことになるとは。

でも、練習にはちょうどいいか。

上層階は俺の庭のようなものだし。

俺は軽く息を吐き、口元に笑みを浮かべた。


「了解です。初仕事、今の俺の全力で挑みます」

「ああ。頼むぞ。君の活躍を期待している!」


サナと再び目が合う。

彼女はパートナーへ向ける信頼を込めた熱い瞳で、しっかりと頷いた。


「その瞬間を、誰もが待ってるはずだよ。古津川くんの初めての顔出し配信を!」


俺は静かに頷いた。


こうして、俺たちの初配信が決まった。

明日の放課後、世界が見ている前で。

※カクヨムで十数話分を先行公開しています

続きが気になると思っていただけましたら、そちらもどうぞご活用ください~!

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