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素振り代わりに雑魚狩りしてた俺、美少女配信者をうっかり助けて死ぬほどバズる  作者: 斧名田マニマニ


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7/9

時代遅れ剣士、圧勝。

大企業フラワーカンパニーの訓練場。


閲覧席に詰めかけたのは数百を越える社員たちだ。

その視線が、中央のフィールドに立つ俺へと一心に集まっている。

試験会場というより公開処刑台のように感じられた。


「本当に勝てるのか?」

「生配信は見たが……それでも彼はただの高校生だぞ」


ざわめきには好奇と懐疑が入り混じっている。


技量を疑われるのは当然だ。

俺ですら、まだどこまでやれるかわかってないんだから。


それでも、この戦いは負けられない。

俺のせいで玲一から馬鹿にされた社長と花園サナのためにも。


必ず勝つ。

あの二人の顔に泥を塗らせるものか。


社長と花園サナが見守る中、玲一がゆっくりとマイクを取る。


「それでは、公開テストを開始しよう」


その瞬間、床の魔導陣が光を放った。

金属の塊が立ち上がり、やがて俺の姿を形作る。


「……俺?」

「そうだよ」


玲一が笑う。


「君の戦闘データを元にAIが作った《ミラーゴーレム》だ。君が自分自身に勝てないようなら、サナちゃんの相方は任せられない」


社員たちの間に動揺が広がる。


「コピー対決!? うわ、玲一さんえげつない敵を用意したな……」

「ミラーゴーレムの攻略方法は、まだ見つかっていないんだろ……?」

「自分と同じ実力者を相手に、攻略方法を模索しながら戦うなんて、高校生の彼には到底無理だよ……」


サナが真っ青な顔で身を乗り出す。


「待って……!! こんなテスト、危険すぎる!」

「安全なテストなんて意味がない、危険なほうが実戦的だよ。そうだろう? 古津川くん」


俺は静かに息を吐き、剣を抜いた。


「どんな敵だって、構いませんよ。俺の積み重ねが本物なら、負けないはずだ」

「ふん。時代遅れの剣術と、最先端のAI技術。どちらが上か、はっきりさせようじゃないか!」


玲一が嘲笑う。


直後、ミラーゴーレムが動いた。

反射のように、俺と全く同じ構え、同じ踏み込み。


ガキン――。


金属音が重なり、火花が左右対称に散る。


「……完全に動きを模倣してくるのか」

「そう。君の反応、癖、呼吸。すべてをトレースしてる」


玲一の得意げな声が響く。


「君が自分を超えられるか、見物だな」


次の瞬間、刃がぶつかり、視界が震えた。

一進一退。

剣の重さも速度も完全に一致している。


だが、俺は気づいた。

ほんのわずか、俺の癖が再現されすぎている。

だからこそ、狙い目がある。


「模倣ってのは、所詮、昨日の俺だ」


左足をずらし、わざと姿勢を崩す。

こんな動き方は普段はしない。

あのキングオーク戦で、相手が見せた隙を敢えて真似たのだ。

ミラーゴーレムが同じ動きを取った瞬間、すかさず反撃する。


ザシュッ!


ミラーゴーレムの肩口に浅い切り傷ができた。


「おおっ、当てたぞ……!」


社員たちから歓声が上がる。

その途端、玲一の笑みがわずかに歪んだ。


「まだ余裕があるってわけか。……じゃあ、もう一段階上げようか」


玲一が端末を操作する。

その瞬間、ミラーゴーレムの瞳が赤く染まった。

低く唸る駆動音。

空気が震える。


「難易度200%、先読みモード解禁。ここからは、君の動きを予測して、動きを封じるように斬ることができる」


足場を抉るほどの勢いで踏み込んできたミラーゴーレムが、一直線に迫る。


ガキィンッ!!


金属の腕が振り下ろされ、受け止めた剣が火花を散らす。

衝撃で腕が痺れる。


「……!」


次の瞬間、横薙ぎの一撃が炸裂した。

防御が追いつかない。


ミラーゴーレムの拳が脇腹をとらえ、鈍い衝撃が全身を駆け抜ける。


「古津川くん……!!」


サナの必死の叫びが聞こえる。


反射的に地面へ手をつき、受け身を取る。

だが衝撃を完全には殺しきれず、数メートル滑って膝をついた。


「なるほど……こう来るか」


攻撃の軌道、間合い、重心、そして先読みの性能。

さすが《フラワーカンパニー》の最新技術としか言いようがない。


観客席からは息を詰めるような気配が伝わってくる。

社員たちは、目の前の攻防から目が離せない様子だ。


そんな中、青ざめたサナが制止の声を上げた。


「こんなのテストの範囲を超えてる! 玲一さん、止めてよ……!!」

「それはできない。どちらかが倒れるまで戦い続けてもらわないと。実戦は非情なんだから」


玲一が冷たく言い放つ。

俺は剣を杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がった。


「上等です。どちらかが倒れるまで。それなら、話は早い」


深呼吸。

世界の音が、ゆっくりと研ぎ澄まされていく。


雑魚狩りの日々。

同じ軌道、同じ攻撃、何千回も繰り返した。


AIはデータで俺を模倣した。

でも、俺は痛みで覚えた。

俺は俺の癖を熟知している。


《《先を読むAIと同等程度には》》。


だからこそ、崩せる。


「先を読むAIか。……だったら、読めない動きをしてやる」


右足を、ほんの数ミリずらす。

剣を振る寸前で止め、無意味な素振りを一瞬だけ挟む。

リズムをずらし、動きの統計を狂わせる。


一歩間違えれば、自分の体勢すら崩れる危険な賭けだ。

長年の鍛錬で身体の芯まで染みついた癖を、意識の力だけでねじ曲げる。


ミラーゴーレムの瞳が、迷ったように揺れる。

まるで、精密すぎる頭脳が自分の処理の不可能領域に戸惑っているようだ。


よし。狙い通りの展開だ。


息を呑んで戦闘を見守っていたサナが、低く呟く。


「……古津川くん、ありえない! あんなこと、普通はできないのに」

「ああ、戦闘は体についた無意識のリズムをもとに動くものだ。彼はそれを自分で壊している……!」


サナと社長の言葉を聞き、玲一が絶句する。

玲一が言葉を失う中、俺は静かに笑った。


「改良の余地がありそうですね」


刃を構え直す。


「このAI搭載のミラーゴーレム、頭が良すぎるせいで、馬鹿らしいですよ」


いっきに踏み込み間合いに入る。

重心を滑らせ、刃を走らせる。


次の瞬間――。


キィィィン――!


鋼鉄の装甲が裂け、閃光が奔る。

AIの先読みも、データの計算も、もはやすべて無意味だ。


「ミラーゴーレム、攻略完了」


ドォンッ!!


重い破壊音とともに、巨体が崩れ落ちる。

粉塵が舞い上がり、真っ二つに割れた鋼鉄の塊が床に沈んだ。


辺りを包むのは、静寂。

社員たちは一人残らず、息をすることさえ忘れていた。


ミラーゴーレムの瞳の光は、一瞬だけ青に戻り、そして消えた。

ビリビリと火花が散る音だけが、広場に響く。


その中心で、俺は静かに立っていた。

ゆっくりと剣を振り下ろし、血ではなく油を払うように軽く振る。


「これが、時代遅れの剣術です」

「……そ、んな……。AIが剣士に負けた、だと……?」


玲一が絶望のあまり膝をつく。

手にしていたタブレットが滑り落ち、画面に『ERROR』の赤文字が点滅した。


俺は剣をしまいながら、玲一のもとへ向かう。

※カクヨムで十数話分を先行公開しています

続きが気になると思っていただけましたら、そちらもどうぞご活用ください~!

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