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素振り代わりに雑魚狩りしてた俺、美少女配信者をうっかり助けて死ぬほどバズる  作者: 斧名田マニマニ


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6/9

「俺が勝ったら謝って下さい」

大企業フラワーカンパニーの社長室。

壁一面のモニターには、深層ダンジョンの映像が無音で流れている。


花園社長は俺の姿を見るなり、深々と頭を下げてきた。


「娘の命を救ってくれて、本当にありがとう」


その声には、重みがあった。

大企業のトップが頭を下げるなんて、普通じゃない。

俺みたいなただの高校生に、こんな接し方をしてくるなんて。

現実感が追いつかない。


「い、いえ! そんなつもりで助けたわけじゃ……!」


社長は顔を上げ、静かに言った。


「遠慮はいらん。命の恩人だ。君の望みを、なんでも叶えよう」


「本当に結構です……!」


俺が慌てて手を振ると、社長はわずかに目を見開き、ふっと笑った。


「欲がないな。……サナが惹かれるわけだ」


その隣で、花園サナが嬉しそうに微笑む。


「強いだけじゃなく、中身もすごく素敵な人なの」

「ああ、そうみたいだ」


社長の声色が少し柔らかくなった。

深く頷いた花園サナが、思いもよらぬ一言を口にする。


「だからこそ、パートナーなら古津川くんがいい」

「……えっ?」


今、パートナーって言った?


迷いのない花園サナの眼差しが、まっすぐ俺を射抜く。


「お願い、古津川くん。私のパートナーになってほしいの」


一瞬、時間が止まった気がした。


あまりに唐突な申し出すぎて困惑する。


花園サナの隣にいる社長が補足した。


「娘のユニークスキルは支援系のものなのだ。一人では深層に潜れない。だが、君のような実力者がいれば――」


花園サナが続ける。


「今まで何人もパートナー候補が来たけど、みんな売名目的とか、下心だらけで……。でも、あなたは違う」

「娘が自らパートナーにと望んだのは君が初めてなんだ。なんとか検討してもらえないだろうか?」


社長はモニターに映る映像へと視線を戻す。

深層で暴れる巨大なモンスターが、無音で暴れ狂っていた。


「最近、深層まで到達できる探索者が、ほとんどいなくてね。そのせいで、S級モンスターが溢れている。一部はゲートを抜けて、上層にまで姿を現しはじめた」

「……たしかに、ゲートの出現には俺も乱れを感じました」

「このまま放っておいたら、いずれダンジョンの門そのものが壊されて、外の世界にも出てくるかもしれない。均衡を取り戻すには、深層を攻略できる実力者が必要なんだ。生配信で深層を突破し、後に続く探索者たちに情報を残してくれる人を、私たちは探していた」


社長が花園サナを見る。

花園サナは俺に向かって一歩踏み出してきた。


「私は、その配信を流したい。古津川くんがパートナーになってくれれば、それを実現できるの」


たしかにモンスターがダンジョンの外に溢れ出したらとんでもないことになる。

他人事じゃない。

俺が役に立てるのかとは思うが、だからって突っぱねていい問題ではなかった。


できるかどうかじゃない。

やるかどうか、だ。


「……覚悟がいる話だね」


花園サナはしっかりと頷いた。


「うん。でも、古津川くんなら絶対大丈夫!!」


その直後。


バンッ!


勢いよく扉が開く。

一人の男が社長室に現れた途端、空気が冷え冷えとした。


「——本当に大丈夫なのかな?」


キラキラしたスーツに、完璧に整えた髪。

やたら高そうな香水の匂い。

見るからに自信の塊みたいな若い男が入ってきた。


「玲一君……。ノックもせずまったく君は……」


社長が困惑しながら彼の自己紹介をする。


「こちらは花園玲一。私の兄の息子で、うちの会社の戦略広報室長を任せている」

「そうです、伯父上。戦略広報室長としての立場から言わせてもらいますがね。スポンサーになるほどの実力が、本当に彼にはあるんですか?」


嫌な笑みを浮かべながら、俺を値踏みするように見てくる。


「どこからどう見ても、そこらにいる高校生にしか見えないなぁ」

「玲一さん、いきなり入ってきて、なんなの……!」


花園サナがムッとした顔で反論する。


「あなただって配信を見たでしょ? 古津川くんの実力はわかってるはずよ」

「あの勝利、まぐれだったんじゃないの? あの一戦だけで、実力者だとは到底言い切れない。再現性のないヒーローに投資するなんて、企業としては危険すぎる」


玲一は軽く肩を竦めて、彼女の怒りをいなした。


「僕は会社のためを思って進言してるんだよ。社長、是非、彼に対して公開テスト戦を行ってください。社の看板を背負う以上、彼の実力を僕たち社員に見せてもらわないと」

「いい加減にして! 私と父がお願いしてるのに、テストを受けさせるなんて失礼すぎる!」


花園サナが負けじと言い返す。


「信じているなら、テストごとき問題ないだろう?」


玲一はわざとらしく眉を下げた。


「僕や会社の人間を納得させられるなら、それでいいじゃないか。――どうかな? 古津川くん。君にはテストを受ける勇気もない? それならそれで僕は構わない。サナちゃんと社長の目が曇っていたってことで、この話は一件落着だ」


社長も花園サナも眉をひそめる。


俺は小さく息を吐いた。


正直、馬鹿にされるのは慣れてる。

でも、花園サナと社長まで侮辱されたのは、見過ごせなかった。


今朝の学校で、渦原に絡まれた俺を庇ってくれた花園サナの姿が頭をよぎる。

今度は、俺の番だ。


「いいですよ。公開テスト。受けます」


玲一が目を細める。


「ほう?」

「でも、もし俺がクリアしたら、花園さんと社長を侮辱したこと、ちゃんと謝ってください」

※カクヨムで十数話分を先行公開しています

続きが気になると思っていただけましたら、そちらもどうぞご活用ください~!

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