クラスの勘違い連中を完全論破
「ちょ、ちょっと待ってよサーニャちゃん! そんなに怒らなくても……! ほら、今のは冗談だって~!」
必死に取り繕う渦原。
彼は花園サナの大ファンだった。
嫌われたくない一心で、汗をだらだら流している。
けれど、花園サナの目は冷たい。
「『底辺でもボスを倒せるお助け武器』って言った? そんなものがあるなら、君たちみたいに努力を笑う人でも、少しは役に立てるかもね」
「いや、あれは、そのぉ……」
「武器を開発できたら、ぜひ父の会社に持ってきてください。大金で買い取って、第一号を君たちに支給しますから」
彼女の声は静かなのに、教室の空気を一瞬で支配する。
渦原たちは顔を真っ赤にして、いそいそと席へ引き返していった。
「すげぇ……サーニャちゃん、あの渦原たちに真正面から……」
「人気者なのに、あそこまで言うって相当だぞ」
「それだけ本気で怒ったってことだろ……」
そんな声が周囲から上がる。
俺は思わず息を呑んだ。
もしこれで彼女が叩かれたらと思うと、胸が締めつけられた。
……止めるべきだったのかもしれない。
そう思ったとき、花園サナがふっと柔らかく笑った。
「ごめんね、古津川くん。余計なことして。……でもね、君を笑う人たちが、許せなかったの」
その言葉が胸にささる。
彼女が怒った理由が、俺のためだったなんて。
心の奥で、何かがほどけるような気がした。
いつも一人だったのに、今は違う。
……味方がいるって、こんなに心強いのか。
教室の空気が一変したのも、この瞬間だった。
さっきまで笑っていたクラスメイトたちが、静まり返っている。
誰かが小さく呟いた。
「……どう考えても、サーニャちゃんが正しいよな」
それを皮切りに、あちこちから声が上がる。
「渦原たち、さすがに言い過ぎだったよ」
「あれは怒られて当然だって。見ててムカついたもん」
「古津川、マジですげぇわ。あの場で黙ってるの、かっこよかった」
「それが渦原たちみたいな小物と、実力者の違いなんだろうな」
完全に形勢逆転。
孤立した渦原たちは顔を真っ青にして縮こまっている。
教室の温度が、まるでひっくり返ったみたいだ。
そんな中、花園サナがそっと視線を落とし、指先をいじりながら言った。
「ねえ……古津川くんと二人きりで、話したいことがあるの。今、少しいいかな?」
渦原たちを圧倒していたのが嘘みたいに、その声は小さい。
「私はここでもいいけど……君が嫌かなって」
花園サナの頬はほんのり赤い。
さっきまでの迫力なんてどこにもない。
これが同じ人間なのかと思うくらい、雰囲気が違った。
「え……かわいすぎる……」
教室のどこからそんな声が複数上がる。
たしかにそれには俺も同意だ。
「だめ……?」
尋ねながら、ちらっと俺の顔をうかがう。
教室中の視線が一斉に集まるのを俺は感じた。
興味津々で身を乗り出すクラスメイトたち。
「……廊下で話そう」
耐えきれず、俺は顔を赤くして立ち上がった。
「うわあ、二人きり!?」
「古津川やば! 人生逆転じゃん!」
「助けたうえに呼び出されるとか、マンガかよ!」
背後で大騒ぎする声を聞きながら、俺と花園サナは教室を抜け出した。
扉を閉めると、世界が一気に静かになる。
「ごめん、みんな騒がしくて」
「ふふ、気にしてないよ」
彼女ははにかみながら微笑んだあと、コホンと咳払いして真剣な顔になった。
「古津川くん、ずっと低層で狩りをしてたんだよね?」
「え、なんで知って……」
「調べちゃった」
さらりと告げられて、思わず言葉を失う。
「そんな努力、誰にでもできることじゃないよ。君なら深層を目指せると思う」
「いや、さすがに深層は……。モンスターの平均レベル200超えだよ? S級探索者でも全滅するのに」
「うん。でも、君ならいけるよ」
まっすぐな瞳。
冗談じゃなく、本気でそう思っている目だった。
うやむやにして誤魔化すのは失礼だと感じた。
「ありがとう。そう言ってもらえてうれしいよ。俺も、キングオーク亜種を討伐できたことで、少しは自信がついたから、次はもう少し下まで潜ってみようと思ってたんだ」
花園サナの顔がぱっと輝いた。
「よかった!」
ん?
よかった、とは?
花園サナは一拍おいて、少しだけ表情を引き締めた。
「実はね……父が、君に直接会いたいって。今日の放課後、時間あるかな?」
「えっ……?」
思考が一瞬で真っ白になる。
聞き間違いじゃないよな?
花園サナの父。
ダンジョン管理を担う超大企業の社長。
政治家や芸能人ですら頭を下げる時の人。
ニュース番組の経済コーナーではほぼ毎週見かけるし、SNSのフォロワーは数百万人。
新装備の発表ひとつで業界が動く、そんな怪物みたいな人物だ。
……そんな大物が、俺になんの用なんだ?
※カクヨムで十数話分を先行公開しています
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