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素振り代わりに雑魚狩りしてた俺、美少女配信者をうっかり助けて死ぬほどバズる  作者: 斧名田マニマニ


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4/9

俺の学園生活、激変する。

「おい見た!? #瞬殺剣士の特定情報! うちのクラスの古津川陸だって!!」

「は!? あの古津川!? 地味で影の薄い素振り厨の!?」

「やっば! 100万バズの本人!? うちのクラスから!?」

「人生逆転すぎて笑う! てか、古津川があんな強かったなんて……」

「動画の動き、マジで化け物だったもんな!」


登校していくと、教室内はそんな話で大盛り上がりになっていた。

バズの余波で鳴りやまないスマホの通知音と笑い声が入り混じる。

周囲が俺抜きで盛り上がっているみたいで、気まずい。


その直後――。


「……いやいや、冷静になれって」


教室の隅、ややだるそうな男子が椅子を傾けながら言った。

渦原うずはらだ。

渦原の声で、少しずつ笑い声が静まる。


「古津川があんな動きできるわけねーだろ。合成だって」

「だよな。雑魚狩りしかしてねぇやつが、炎避けてボス瞬殺とか無理ゲー」

「まじめすぎてネタにされてたのに、いきなり英雄扱い? 笑わせんなよ」


さっきまで「やべえ!」と騒いでいた連中も、空気を読んで笑いに乗っかる。


「たしかになー」

「ネタ動画だよ、ネタ」

「今日学校来たら、どんな顔してんだろな」


どっと起こる笑い。

そのうちの一人の視線が、教室の入口にいる俺の視線を捕えた。

さっき、合成だと言い出した渦原だ。


「お! ちょうどいいところにご本人登場~」


俺は好奇心と悪意の入り混じる視線を受け流しながら、自分の席へと向かった。

渦原たちが後をついてくる。

彼らは俺の机の横にきて、にやにやしながら言う。


「なあ、古津川。まさか、おまえじゃないよな? 瞬殺剣士の正体」


面倒なので、俺はしらばっくれることにした。


「さあ、なんのこと?」

「は? 知らねえの? #瞬殺剣士だよ! 昨日からトレンド入りしてんじゃん」


他人事のように答える。

実際、そう思ってる。

画面の中の自分は、まるで別人みたいだったから。


だって、まさか、自分の素振り動画がここまでバズるなんて思わなかった。

ただ毎日、雑魚モンスターを狩って、剣の腕を磨いてただけ。

それが瞬殺剣士だなんて呼ばれて、100万同接超え。


朝起きたら、スマホが光の滝みたいに通知で溢れてた。

未読五百件。

知らない番号。

昔の知り合い。

SNSのフォロワー爆増。


世界が一晩でひっくり返ったみたいだった。


でも、正直、実感はない。

困ったなぁ、そのうち静かになるだろ、ぐらいの気持ちだ。


「なんだよ、バズッてることすら知らねえのかよ。ほらな、やっぱこんな地味な奴が瞬殺剣士なわけねぇって。――って、そんなことより古津川、今日も課題見せてくれよ」


これがいつもの流れだ。

渦原たちは俺をバカにしながらも、授業前だけは頼ってくる。

自分でやりなよと思うけど、断るのもめんどくさい。

まあ、俺が損するわけでもないし、別にいいか。


そう思ったときだった。


――ざわっ。


急に教室の入口が騒がしくなる。


顔を上げると、そこにいたのは――。


「……花園サナ?」

「サーニャだ……!」


あの時は、炎の中で必死だった。

顔をまともに見る余裕なんてなかったけど、改めてこうして見ると、本当に同じ人間なのかと思うほど、整っている。


チャンネル登録者数、一千万超え。

ダンジョン配信のトップランカーで、芸能人よりも有名な美少女。

しかも、ダンジョン管理を担う大企業フラワーカンパニーの社長令嬢。

探索者たちが一度はコラボを夢見る存在。


隣のクラスにいるの知ってたけど、話したことなんて一度もない。


花園サナが歩き出すだけで、わあっと悲鳴が上がる。

彼女は高根の花で、俺以外の生徒から遠巻きに眺められる存在だった。


そんな彼女が、まっすぐこちらへ歩いてくる。


まさか、俺のところに……?


「見つけた!」


にっこり笑って、花園サナが目の前に立つ。


「探したんだからね!」


教室中が、時が止まったみたいに静まり返る。


「え、俺……?」

「そう、君! 古津川陸くん」


花園サナはまっすぐ俺を見つめて言った。


「もう一度会って、ちゃんとお礼が言いたかったの。あのとき君は、ダンジョン入口まで私を送り届けてくれた後、名乗ることもなく姿を消しちゃったでしょ?」


――あのとき。

後ろ姿だけだったが、生配信に映ってしまったことに気づいた。

正直、焦った。

あんな派手な配信者と一緒に映れば、身元なんてすぐバレる。

だから、逃げるようにその場を去った。


まさか、そんな俺のもとに、彼女のほうから、もう一度会いに来るなんて思ってもいなかった。


「君がいなかったら……私は、生きてなかった。――本当にありがとう」


教室の空気が、弾けた。


「……うそ!!」

「ガチで!?」

「やっぱり古津川だったんだ……!!」


感嘆の声が、波紋のように広がっていく。

それが合図となり、全員が一斉にこちらを見る。


彼らの顔には憧れと尊敬の色が浮かんでいた。


「おまえ、すごい奴だったんだな……」

「古津川がサーニャちゃんを助けてくれたんだ……!」


誰かが呟き、みんながうんうんと頷く。


胸の奥で、静かに熱いものがこみ上げる。

俺のやってきたことは、無駄じゃなかったんだ。

初めてそう思えた。

努力が報われたような気がしてうれしくなる。


ほんの少しだけ、世界の見え方が変わった気がした。


それだけで、十分だった。

……のに。


「え、ちょ、まって! こいつが!?」

「いやいや、ありえない!」

「どうせ企業案件だって! サナちゃんの会社のタイアップとかだろ!?」


いつも俺を利用してた渦原たちが、好き勝手言いはじめた。


「底辺でもボスを倒せるお助け武器を持たされたんだって」

「あー、わかるわ。『努力してます!』みたいな奴って、だいたい裏でズルしてんだよな」

「真面目ぶって努力してますアピール、前からキモかったし」


次第に、嘲るようなトーンが混じっていく。

そして――。


「結局、運が良かっただけだろ。地味で何の取り柄もねぇやつが、バズっていい気になるなよ」


教室の空気が、ざらりと揺れる。

花園サナはもう笑っていない。


「君たち、今……なんて言ったの?」


その声は、氷みたいに冷たく、鋭かった。


「努力した人を笑うなんて、最低です。一番みっともない」


空気が凍りつく。

笑っていた渦原たちは、戸惑ったように彼女を見つめ返した。

※カクヨムで十数話分を先行公開しています

続きが気になると思っていただけましたら、そちらもどうぞご活用ください~!

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