美少女配信者を助けたら生配信に映ってた
駆けつけたダンジョンの奥には、信じられない光景があった。
巨大なモンスターに襲われている女の子。
その顔を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
花園サナ。
登録者数二百万を超える、業界トップの美少女配信者。
同接五万超えが当たり前、『サーニャ』の愛称で呼ばれる存在だ。
花園サナは護衛ドローンを破壊され、壁際まで追い詰められていた。
逃げ場は、どこにもない。
《うそうそ、やばいって!》
《なんで上層にキングオーガ亜種!?》
《誰か通報して! サーニャが殺されちゃう……!!》
投影機材によって、彼女の周囲にリアルタイムでコメントが浮かぶ。
視聴者たちの焦りも当然だ。
花園サナが対峙しているのは、S級モンスターのキングオーガ。
しかも、よりによって亜種だった。
亜種はでかい。
通常個体の2倍はある。
動きも速い。
さらに、攻撃には属性まで乗ってくる。
身に纏ったオーラを見る限り、このキングオーガは炎属性の持ち主だ。
……護衛ドローンじゃ、話にならない。
とんでもないことになった。
深層でもめったに見ない怪物が出現するなんて。
「みんな、どうしよ……。私、ここで死ぬかも。でも、せめてカメラだけは……。この記録が、きっと誰かの役に立つから……!」
声を震わせながらも、花園サナが勝ち気に微笑む。
かわいいだけじゃなく、めちゃくちゃ肝が据わっている。
そんな姿を見せられて、放っておけるわけがなかった。
俺がキングオーガを倒せるとは思えない。
でも、彼女が逃げる隙を作るくらいならひょっとしたら……。
剣を構え、飛び出す。
「キングオーガ、おまえの相手は俺だ!」
『グオオオオ……』
キングオーガの意識がこちらにそれる。
いいぞ。
ドンッ!
拳が床を叩き割り、炎が弾けた。
焼けた石が飛び、頬に当たって熱い。
熱風が吹き荒れる。
速い。
けど、見える。
一撃目をかわす。
「うそ……あの速さ、避けた……!?」
花園サナが息を呑む。
すぐに次の攻撃がくる。
また炎の渦。
それもギリでかわした。
「……っぶな!」
鼓動が早くなるのに、目だけは妙に冷静だった。
炎の線がゆっくり見える。
なんなら、遅いと感じるくらいだ。
いや、そんなバカな。
雑魚モンスターばっか斬ってた俺が?
でも、見える。
本当に。
炎の渦の中でも、キングオーガの動きがはっきりわかる。
……あれ? これ、もしかして。
雑魚ばっか斬ってたら、いつの間にか強くなってたパターン?
『グオオオッッッ!!』
キングオーガが咆哮し、拳を振り上げた。
炎が爆ぜる。
その瞬間、身体が勝手に動いた。
「これも避けれる……!」
熱気を切り裂きながら、踏み込む。
敵の動きが目に見えて荒くなってきた。
炎で筋肉を焼かれて、力のコントロールが効かなくなってるんだ。
……待てよ。
勝ち筋、見えたかも。
オーガを含むオーク系の敵は必ず左足に重心をかける。
雑魚狩りで嫌というほど見てきた癖だ。
熱で動きが荒くなった今なら、あの癖が致命傷になる。
二つの知識が、ここで繋がる。
次の瞬間、奴は必ず左足のバランスを崩す。
おろしたてのこの剣なら、こいつの肉でも断てる。
「そこだ!」
ザシュッッ。
鋼みたいな皮膚を裂く手応え。
熱気の中で、赤い光が弾け飛ぶ。
キングオーガが咆哮した。
炎の腕が振り下ろされる。
でも遅い。
「見えてるっての!」
身をひねりながら、渾身の一撃を叩き込む。
ズバァッ!
巨体の右腕が宙を舞い、炎が散った。
一拍遅れて、地面が爆ぜるように揺れる。
《やば、今の見た!?》
《誰この人、すごすぎる!》
《今、トレンド確定しただろ……》
《コメント欄、止まんねぇ!》
「これで、終わりだ……!」
動きが止まった巨体に、渾身の一撃を叩き込む。
ザンッッ……!!
鈍い衝撃が腕を通して伝わり、足元の床石が砕けた。
巨体がのけぞり、赤い亀裂が全身を走る。
一拍遅れて爆ぜた。
ドオオオオォン――。
炎の中、キングオーガが崩れ落ちる。
巨体は灰になりながら、空気に溶けていった。
熱風が止み、静寂が戻る。
花園サナが呆然としたまま、ぺたんと座り込む。
「……た、助かった……。嘘みたい……。ありがとう。君は命の恩人だよ……!」
涙で濡れた瞳が、まっすぐ俺を見ていた。
「そんな大げさな」
俺は苦笑して剣を納める。
ずっと素振りしてた甲斐が、ようやくあった気がした。
でも、そこで気づいた。
花園サナの上に、怒涛の勢いで流れ続けるコメント欄。
並んだ言葉に、息が止まる。
……いや、まさか。
これ――俺、生配信に映ってる?
※カクヨムで十数話分を先行公開しています
続きが気になると思っていただけましたら、そちらもどうぞご活用ください~!




