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俺、クラン抜けます

「国王様。只今戻りました」


「うむ。成果を聞かせてもらおうか」


俺の所属するクラン、輝炎の鳳羽(メラ・フェザー)のリーダーであるエイトはいつも通り、堅苦しい口調で王様のガヴィルセット・グランド様に接している。俺こと、ソウトとリーダー以外のメンバーは堅苦しいのが無理と言って逃げるし、仕方ない。


「ふむ…。魔獣の出現が減っている、と。」


「そうですね。あの雪山なんかは1匹も見かけませんでした。他の地域では…」


俺、いつまで跪いた体勢してればいいんだ?あー、これ意外と膝痛くなるな…。俺も言いたいことあるのに…。


「ソウト様…?どうかなされましたか?」


「あぁ、いえ。なんでもございません」


「…それでは、少々私の話し相手になって頂いても?」


「…勿論でございます」


いやだ。王女様…もといファリア・グランド様は話している途中に絶対違う話題になるからである。つまり天然だ。勿論と言った手前、仕方なく足を浮かせて…。


「ふむ。ご苦労であった。輝炎の鳳羽宛に後々、報酬を贈ろう」


「ありがたき幸せです」


「もうよい。今、業務は終わったであろう?」


「すみません。癖が抜けなくて」


助かった、と思った。けど王女様が寂しそうな目をしていたので笑顔で軽く、すみませんとジェスチャーをする。すると、少しは機嫌を直したのか王様の元へと戻っていった。


「ところで…今日は珍しくソウトも来ているのだな?」


「えぇ、そうですね。なんでも、あなたに直接話したいことがあるそうで。内容につきましては私も知りません」


エイトの前振りは完璧だ。あとは俺自身。


「…発言してよろしいでしょうか」


「わざわざ確認せんでも良い。が、許そう」


「ありがとうございます」


声色は優しく、目線も過去を振り返るように意識して話を続ける。


「俺は…輝炎の鳳羽から脱退したいと思います」


「んっなぁ?!」


「…ほう?余の反応を食うでない。どんな反応をすれば良いか分からなくなったですあろう」


「も、申し訳ございません…おいソウト、本気か?」


「勿論だ」


「もし実力が足りないとかの理由なら全力で止めるぞ?だってお前は強いし」


「そうだ。貴公は剣聖のジョブを神から授かり、剣の極地へと至った天才。…理由を述べよ」


「理由…ですか。そうですね。俺、そもそもの話なんですけど…冒険者に向いてないみたいで。本当は殺すの嫌なんですよ?でも、周りに俺の価値観を強要したい訳でもないんです。だから、脱退したら冒険者ギルドもやめて商人ギルドにでも入ろうかと思っています」


「そう言われると断り難いではないか。卑怯なものよ」


「申し訳ないです」


「どんな事をしたいとか決まってるのか?もし決まってないなら別に依頼は受けなくていい。だからしばらくパーティーに残ってくれないか?」


「無理だな。お前、あいつらの面倒俺に見させる気だろ?少しは女の扱い方覚えろ」


「扱い方って、そんな物みたいに…」


「小さな変化にすぐ気付くとか、ちゃんと感謝を言葉にするとか…そんなんで変わるから」


「だとしてもあの2人を俺1人で見るのは正直キツい!だからもし脱退してもたまには顔見せてくれ!」


「…たまにはな」


「なんじゃ、恋バナか?」


「違いますよ。このバカみたいに俺は色ボケではないので」


「その話、詳しく伺っても?」


「お、王女様…?」


「場合によっては女性の敵ですから…ね?」


一瞬でもエイトに気があると思った自分を恥じたい。あの目を見れば分かる。あれは内容によってはエイトそのものが消える。


「まぁ簡単に言うと…好きな人が2人いるんですよ。別に告白もしてないのでそこら辺は自由でしょう?」


「そうですか…残念です」


「「わぁドS」」


「なにか?」


「「いえ何も」」


「というか王様、恋バナとか興味あるんですね?」


「うむ。幾つになっても楽しいものよな」


「話が脱線してるので話を戻しますね?俺は大まかにですけどやりたい事は決まってます」


「それは?」


「それは…」


王様との謁見が終わり、クランハウスで俺の今までありがとう会(命名 エイト)が行われていた。


「本当に抜けてしまうのです?」


「私としても貴方がいなくなるとキツイんだけど…?」


この2人が、件の女性だ。ポワポワしている前者がポポ、キリッとしている後者がソラ。2人ともとても顔がいいしジョブも強い。


「申し訳ないが…そうだな。あんまりエイトに迷惑かけるんじゃねぇぞ?」


俺は煙草を咥えながらそう言って一口で酔い潰れたエイトを見る。その目線につられて2人もエイトを見やる。


「気を付けはするわ。…というか、商人になるなら煙草は止めるの?よく煙草臭い商人は嫌がられてるじゃない」


「そこまで吸ってねぇよ。…ま、週ニ、三回くらいに抑えるつもりだ一応接客業するつもりだしな」


「さっき言ってた…あの…」


「カウンセラーです?」


「そうそれ。どんな仕事なの?」


あまり広められるのも嫌なのでエイトには言わなかったがこの2人の口の硬さは信用しているので言っても大丈夫だろう。


「俺は転生者だ」


「「!」」


「ま、前世の俺は才能なんてない平凡な人間だった。生きるために必死に働いて働いて…何度か死にたくなったりした。でも、その時にカウンセラーさんに相談して心に余裕ができたんだ。まぁ、結局過労死したんだけどな」


当時、ブラック企業に勤めていた俺はいろんな事を経験してきた。上司の機嫌取りと並行して部下の育成をしたり、取引先相手にいい顔をしたり、上司に誘われてキャバクラ行ったり…キャバクラは特に地獄だった。


「…つまり、メンタルセラピー的な?」


「そうだな。金なら腐るほどあるし、しばらくは稼げなくてもどうにかなる」


「そうなのです…?それでは、私達が宣伝します!」


「え?いや別に…」


「そうね。もしかしたら私達がお世話になるかもだし」


「広める代わりに代金無料にしろってことか?本当はカウンセラーなんて必要ない方がいいんだぞ?」


「私達だっていろんな悩みがあるのよ。本当は私も煙草吸いたいし」


「僧侶が煙草奪おうとするな…火は?」


「ほひい」


俺はそう言いつつもソラの口の中に煙草を投げる。ジャストフィットだ。


「私だってあるのですよ?えと、んーっと…」


「お前はいつまでもそのまま居てくれ…。色ボケ武闘家と反抗期僧侶みたいになるんじゃないぞ?」


「?はいなのです?」


「誰が反抗期よ!」


「っちょ、まっ、脇!脇はやめっ」


「私もするのです!」


「ポポぉ?!」


こうして夜の闇は深く深くなっていく。こんな日々が終わってしまうのに少しの寂しさを感じながらこのひと時を楽しんだ。翌日。


「…もう、行くのです?」


「起きたのか」


早朝、メンバーと会わない内に外へ出ようと支度をしているとポポが起きてきた。


「んにゅ…」


「相変わらず、子供みたいな奴だな…。たまに遊びにくるし困った時は協力するから。まだ朝早いし、もう一度おやすみ?」


「…ん」


前髪を捲り上げ、俺の前で背伸びをする。ポポがこれをするのは俺に何かを求めている印だ。俺は最後まで変わらないポポに軽く苦笑しながらおでこにそっとキスを落とす。すると、多少機嫌は良くないものの眠気に襲われて倒れ込みそうになったので俺はゆっくりと抱き抱える。女の部屋に入るのは気が引けたので俺の部屋のベットに下ろし、一度頭を撫でて、もう一度「おやすみ」と言って部屋を出た。他の2人の顔も見ておこうかと思ったが起こすのも申し訳ないのでやめておく。


「今までありがとう」


クランハウスの前でそうとだけ言って俺は商業ギルドを目指した。


「おはようございます」


「はい、おはようござい…ま…?」


「ギルド登録頼めるか?」


「え、えぇと…剣聖…様、ですよ、ね?」


「…ギルド登録頼めるか?」


「し、少々お待ち下さい。今ギルド長を…」


「いや別にそんな大層なことしたいんじゃねぇよ。普通に登録だけしたい」


「…分かりました。あとサインくださいファンです!」


「おー」


そう言って商業ギルドの受付嬢が俺のSRプロマイド(S級クランプロマイド ランダム5枚入り 税込650円の中に入っている)を渡してきた。俺にとっては黒歴史だ。ペンだけ貰って名前を書いてやると目をキラキラさせて感謝を伝えてきた。なんでも、サイン入りプロマイドともなると相当な価値で取引されるらしい。(本人はその気がない)


「それではこの書類にやりたい事をお書き下さい」


「ん」


「…剣聖様、かうんせらー?とはなんでしょうか?」


「メンタルセラピー的なもんだ」


「承知いたしました。物件などは必要ですか?」


「持ってるところ使おうかと」


「そうですか。これでギルド登録は完了しました。最初の月なのでまだノルマはありませんがそれ以降は収益ノルマがありますのでご了承下さい」


「分かった」


こうして俺は剣の才能を捨て、カウンセラーとなった。一体どんな人が来るのだろうか。とても楽しみだ。

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