メインコースと隠された動機
第2章：メインコースと隠された動機
ル・ミステールの個室は、シャンデリアの光に照らされ、まるで舞台のようだった。給仕たちが銀のトレイに載せたメインコース——仔羊のロースト、トリュフソース添え——が運ばれてくる中、エリオット・グレイはナプキンに付いたオリーブオイルのシミを手に持ったまま、静かにゲストたちを観察していた。
「皆さん、落ち着いて食事を楽しみましょう」とエリオットは言ったが、その目は鋭く、まるで仔羊の焼き加減を吟味するように一人ひとりの表情を捉えていた。「失踪したミスター・ハリソン。彼は実業家として成功していましたが、成功には必ず影がある。誰か、その影について知っていることは？」
貴族の令嬢、キャサリン・オーモンドがフォークを置いて口を開いた。「エリオットさん、ミスター・ハリソンは確かに…少々強引な方でしたわ。私の父の土地を無理やり買おうとしたこともあります」彼女の声は穏やかだが、瞳にはかすかな怒りが宿っていた。
「ほう、土地ね。なかなかスパイシーな話だ」エリオットは仔羊を切りながら、わざと軽い口調で返した。「でも、キャサリン嬢、あなたのナプキンも少し…油っぽくない？」
キャサリンはハッとして手を引いた。彼女のナプキンには、確かに小さなシミがあった。「これは…前菜のオリーブオイルが少し…」と彼女は言い訳したが、エリオットの視線はすでに次のターゲットに移っていた。
劇作家のヴィヴィアン・クロウは、ワイングラスをくるくると回しながら笑った。「エリオット、まるで私の戯曲の探偵みたいね！ でも、ミスター・ハリソンが消えたのは私の仕業じゃないわ。私のトリックは舞台の上だけで十分よ」彼女の派手な赤いドレスと大げさな仕草は、まるで事件そのものを楽しんでいるようだった。
「舞台か。面白いね、ヴィヴィアン。ハリソンが消えたのも、まるで舞台のマジックみたいだ」エリオットはフォークを口に運び、トリュフソースの香りを堪能しながら続けた。「ただ、舞台のトリックには必ず仕掛けがある。この部屋のどこかに、その仕掛けがあるはずだ」
最後のゲスト、美食評論家のハロルド・ベネットが咳払いをした。「エリオット君、君の推理は面白いけど、証拠がないじゃないか。ハリソンは単に気分が悪くなって帰っただけかもしれないよ。さあ、この仔羊の焼き加減を評価しようじゃないか。完璧だ、ミディアムレアだよ！」
エリオットは微笑んだが、その目は冷たかった。「ハロルド、君の舌は鋭いけど、観察力はどうかな？ ハリソンのコートはクロークにある。靴もそこにある。なのに、彼の席のナプキンにはオリーブオイルのシミ。そして、テーブルの下に落ちていたこの小さな…」彼はポケットから小さな金属片を取り出した。「鍵。これ、誰のものだと思う？」
部屋に緊張が走った。ヴィヴィアンがグラスを握る手が止まり、キャサリンの頬がわずかに赤らみ、ハロルドはナイフを落としそうになった。
「さて、皆さん」エリオットは鍵を指で弄びながら、ゆっくりと立ち上がった。「メインコースの次はデザートだが、その前に、この鍵が開けるものを見つけてみようじゃないか。ル・ミステールには、料理以上に美味しい秘密が隠れている気がする」
物語の展開ポイント
新たな手がかり: エリオットが見つけた「鍵」は、ル・ミステールの隠し部屋に繋がるもの。読者は、この鍵がハリソンの失踪とどう関係するのかを想像しながら読み進める。
ゲストの秘密: キャサリンの土地問題、ヴィヴィアンの芝居がかった態度、ハロルドの過剰な平静さ。それぞれが何かを隠していることが匂わされ、読者の推理心をくすぐる。
ユーモアと美食: エリオットの軽妙な皮肉（「スパイシーな話だ」など）や、料理の描写（トリュフソースの香り、仔羊の焼き加減）が物語に華を添える。
次の展開: 第3章では、エリオットが鍵を使ってレストランの隠された通路を発見し、ゲストたちの過去とハリソンの失踪の真実が少しずつ明らかになる。トリックには、料理の提供タイミングや給仕の動きが絡んでいることが示唆される。
