87.限りある未来
あの後少し神様と話をして、そしてゼツ達は神様と別れた。その後も、王都で起こったことやそれからの対応に追われて、誰もが慌ただしく過ごしていた。
神様が去る前に、ゼツ達はいくつかの願いを叶えてもらった。その一つが、ゼツとロウの寿命だ。
二人とも、神様になんてなりたくなかった。だから決して、無限の時を過ごしたいわけではなかった。だからこそ、ゼツとロウは止まっていた時間を動かしてもらった。
それによって、剣で死ななくても永遠に生きることは無くなった。そして、スイやラス、アビュもロウの魔法で寿命をコントロールするのは止めたという。これからの四人は、限られた時間で歳を取りながら、一緒に過ごしていくという。
ロウの使う闇魔法は、使えるままにしてもらった。いきなり力が無くなると、守るものも守れないからとロウは言った。勇者と魔王が手を取り合ったとはいえ、人間と魔族はこれからも敵対する可能性は十分にあった。
けれども、王都の一件で、魔族に対する意見は友好的に傾いた。多くの人間が、魔族に助けられた。勇者であるシュウが必死に魔族が生まれた理由を説明して回ったという事もあるが、必死に人間を助けた姿を見て、そして魔族の成り立ちを聞いて、もう誰も魔族と敵対したいとは思わなかった。
そのおかげで、ロウ達も今の場所に暮らし続ける決断をしたという。今は人間とのこれからを話し合いながら、お城にスイが空けた大きな穴を直している所らしい。そして、シュウとケアラは、そんな魔族との架け橋になるよう動いているという。
そしてゼツは、そんなシュウとケアラをミランと一緒に手伝いながらも、あまり表に出ずに過ごしていた。地位や名誉も望めば手に入ったのだろうが、そんなものにゼツは興味なかった。ただ望んだのは、ミランとの穏やかな生活だった。
国も、ゼツは魔族との関係に重要な人物とは把握していたが、ロウ達からの圧力もあって、ゼツを何かしらの役割に縛る事はしなかった。
これからの事をゼツは決めていなかった。ただもう少し落ち着いたら、ミランと二人でどこかに暮らそうかとは話していた。ゼツの両親とはもう会うつもりもなく、どこか遠くで暮らすつもりだ。
ちなみに、ロウがこっそり調べたらしいのだが、ゼツの両親は今、街では少し冷ややかな目で見られているのだという。ミランとゼツの両親の会話を聞いていた従業員が、今まで自分がされてきた不満を含めて、何があったか街の人に話をしたらしい。ゼツの両親の仲も相変わらず悪いが、ゼツがいなくなっても別れることなく一緒に暮らしているのだから、ある意味お似合いな夫婦だったのかとしれないとゼツは思った。
そして今、ゼツは王都から少し出た道を、ミランと歩いていた。そこは、黒い沼も魔物も最初から無かったかのように、穏やかだった。
「ほんと、凄いわよね。ゼツは」
ミランがゼツにそう言った。
「こんなにもこの世界を平和にしただけじゃなくて、神様と天使まで救っちゃうんだもん」
神様は、ゼツ達の願いを叶えた後、旅に出ると行って去って行った。天使に特別な愛を教えてもらいながら、平等な幸せが無くなった世界を見て回るらしい。
「でも、良かったの? 体のこと」
ミランはゼツに尋ねる。
「うん、勿論! ミランと一緒に歳は取れるし、おばあさんになったミランも見てみたいしね!」
「そ、それは私もだけど、そうじゃなくて! ……その、傷の付かない体の事よ。あたしとしてはそっちの方が安心だけど、なんとなく、ゼツは完全に普通の体に戻りたいのかなって思ってた」
ゼツは、寿命以外も、寝る時間や疲れやすさなど大半を人間と同じものに戻してもらったが、傷の付かない体だけはそのままにしてもらっていた。
ミランの言う通り、傷の付かない体は好きではなかった。死にたかった時は死なせてくれなかったし、死にたくなくなってからも、これが魂を神様に食べられるためにされたことだなんて言われて、良い思い出はなかった。
けれども、嫌な思い出以上に叶えたい事があった。それは、きっとこの体じゃないとできないことだ。
「俺にとっては、この体の方が都合が良いしね」
「……もうゼツに守られてばかりじゃないわよ。それにあたしの方が、ゼツより強いんだから」
「俺にも守らせて欲しいけど、それだけじゃないんだよね」
そう言って、ゼツは立ち止まる。そして、ミランの前に立った。
王都から少し外れた、特に何もない、なんでもない場所。しかも人もいないのだから、ここならいいだろう。
「ミラン。改めて言わせて」
ゼツはミランの手を取った。そして、愛おしい気持ちでミランを見つめる。
「ミランの事、愛してる」
ゼツはそう言って、ミランの唇にキスをした。そうして唇を離せば、顔を真っ赤にしたミランがそこにいた。
「き、急には駄目だってば!!」
そうミランが叫んだ後、案の定ミランの魔力は暴走した。ゼツも吹き飛ばされながらも、無傷の体で声を上げて笑う。
ミランには悪いけど、これぐらいは慣れてもらわないとなあ。
ゼツはこれからの、限りある未来を思い浮かべながら、そう思った。
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