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84.戦う理由と君のため

 王都の光景を見た瞬間、ゼツは思わず強く目を閉じた。この距離からでも見える、大量の人型の魔物。そして、倒れている何人もの人達。

 勿論そこにいるのは戦える騎士だけじゃない。戦えない一般の人たちも、逃げ惑い、叫び、そして血を流していた。


 おまえが死ねばいい。おまえが死ねば、止めてあげる。


 声はしないのに、その光景が、ゼツにそう訴えている気がした。生きたいのに、やっぱり死ななければいけないのではという不安に襲われる。


 と、暖かい何かがゼツの背中を包む。きっとミランが抱きしめてくれているのだろう。それでも、震えは止まらずその光景をゼツは見ることができなかった。


「ゼツ。見て。大丈夫。大丈夫だから」


 ミランの声と共に、聞こえた大きな爆発音。思わずゼツは目を開けて、そちらの方を見る。

 爆発の煙から現れたのは、空っぽになった沢山の薬瓶を持って、静かに笑うケアラ。


『こんなに沢山の敵さんがいるのなら、気にせずこれをぶちまけられますね!』


 下に降りる直前、ケアラがそう言っていたのを、ゼツは思い出す。

 ケアラの起こした爆発から逃れた、ケアラに向かう沢山の魔物が見えた。そんな魔物を、シュウが大きな剣を振り回し、一気にたたき切る。


『ゼツ。なんでも言い合える関係になりたいって言ってくれた事、忘れてないからな! その約束を守るために、俺は戦うから!』


 ここを出る直前、シュウがゼツにそう言った。約束を守ろうと、シュウは必死に戦ってくれているのだろう。


 また別の場所で、紫や白、黄色と、色とりどりの靄が、花が咲くようにふわりと広がった。その中心にいるのはアビュ。


『アビュが辛い時、ゼツがいたから元気になった! 今度はアビュが、ゼツを元気にする番! アビュ、ゼツのこと大好きだから!』


 アビュもまた、ここに出る前ゼツに抱き着いてそう言った。

 靄が晴れると、見えるのは眠るように倒れている魔物や、苦しそうにもがいている魔物。きっともう、二度と動くことは無いだろう。


 まだ逃げ遅れた人が多く残っている城下町を見ると、ラスが動物型の魔物に指示を出しながら、自分の剣を使って戦い、人を逃がしていた。


『あなたはもう、私の大切なお友達。お友達を傷つける子は、絶対に許さない』


 そんな事を言いながらも、人間達の命までも守ってくれているのだから、ラスはやっぱり優しい。そんなラスの思いが伝わっているのか、状況を知らないはずの城下町の人々も、気が付けばラスの扱う魔物に守られながら逃げていた。


 そことはまた別の人が多く残る場所で、氷の雨が人型の魔物だけを突き刺していく。


『約束は守る。大丈夫だと言ったからには、おまえを必ず安心させてやる。だから、心配するな』


 そんなスイの背中を見ながら、スイに助けられた人たちが魔物から逃げていく。

 スイはラスほど口は上手くないけど、ゼツはスイの背中に何度も助けられた。スイには、背中で見せる安心感があった。スイに守られながら逃げる人たちも、誰も混乱せずに逃げていた。


 そして、そんな王都の姿が一番良く見える城のてっぺんの屋根の先に、ロウが降り立った。ロウが天に手を伸ばすと、無数の黒い剣が上空に現れる。

 その剣は、残っていた魔物の全てを突き刺して、一気に魔物を殲滅した。

 ロウは強い。魔王城にゼツが初めて来たとき、ラスが言った言葉の意味をゼツはようやく理解した。


 ロウはゼツ達の方を見て、ニコリと笑う。


 ね? 大丈夫って言ったでしょ?


 そんなロウの声が聞えた気がした。


「凄いね。本当に、皆凄い」


 ゼツは思わずそう呟く。これで、不安になれという方が無理だった。それほどまでに、皆、強かった。

 そんなゼツの言葉に、ミランは優しくゼツに笑いかける。


「でもね。ゼツからその言葉を言われたら、きっと皆同じことを言うのよ。そうさせたのはゼツだって。だから、ゼツが一番凄いんだって」


 なんで、そんな、自分なんかのために。

 そんな少し前の自分が、顔を出す。違う、本当は照れ隠し。だって、自分なんかと心の中で思いながらも、心は温かくて、涙が止まらない。

 幸せで、幸せで、お願い、神様、自分を食べに来ないでと、ゼツは何度も願った。


 けれども、そんな幸せもずっとは続かなかった。一度は殲滅したはずなのに、次から次へと魔物は王都にやってきた。どれだけ皆が強くても、魔力も体力も限りはあった。限りがあれば、無限にはいくら挑んでも敵わない。


 何か自分も力になりたい。そう思ってゼツは目を凝らす。空から状況を伝えるのがゼツ達の役目だった。魔物が現れたなら、出てくる場所があるはずだった。


「……イグちゃん、あっちに行ける?」


 ゼツはイグリーにそう語りかける。イグリーも頷いて、ゼツの示す方向に向かった。


「ゼツ……?」


 ミランが不安そうにゼツを見る。


「ミラン。大丈夫。魔物の発生源を探したいだけ。あっちから魔物が沢山来てるから、もしかしたら何かあるかもしれない」

「そういうことね。王都にいる人たちの避難はあらかた終わったみたいだし、見つけ次第、皆に教えましょう」


 発生源は、直ぐに見つかった。王都からすぐの所にある森に、ぱっくりと穴が空いていた。そこに現れた、普通ではありえない真っ黒な沼。そこから、人型の魔物は湧いて這い出てきていた。


「皆に伝えなきゃ……。イグちゃん、もう少し近付ける?」


 もう少しわかりやすくと、ゼツがそう言った瞬間だった。


「待って! 今すぐ離れて! 今すぐ!」


 ミランが、焦ったような声で叫んだ。ゼツもミランの見る視線の先を辿って、そして目を見開く。

 あの日、幼い頃に見た姿と全く同じ、黒い犬がこちらを見ていた。

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