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82.信じることと頼ること

 ゼツがシュウの方を見ると、慌ててシュウは魔道具を隠した。


「あっ、いや、なんでもない……」


 そう言って、無理矢理笑顔を作りながらも青ざめているシュウを見て、ゼツの頭にあの少女の言葉が蘇る。


『道を作ってあげたよ。おまえが死にたくなるように』


 ゼツはハッとして、そしてシュウの所に向かった。


「さっき隠した魔道具見せて」

「いや、これは国家秘密もあるからあまり人に見せるなと……」

「いつも内容教えてくれてるでしょ? 別に見たって……」

「い、いくらゼツの頼みだからって、駄目だ! ゼツには関係のないことだから……」

「関係あるから隠したんじゃないの!? シュウ、お願いだから……!」


 シュウに詰め寄るゼツの肩に、ラスが優しく触れる。


「ゼツ、落ち着いて」

「落ち着けないって! だって……」

「隠される側の気持ちも、少しはわかってくれたかしら?」

「……っ。それは……」


 ラスの言葉に、ゼツは何も言えなかった。もしゼツがシュウの立場だったら、そしてあの少女の言ったゼツが死を選ぶための道がその魔道具に書かれているのであれば、絶対に本人に見せようとはしなかっただろう。

 けれどもゼツは今、シュウには隠さずに全て話して欲しいと思った。無理矢理な笑顔を作ってまで、隠して欲しくないと。全部今まで、自分がシュウにしてきたことなのに。


「ゼツ、大丈夫よ。彼一人に抱え込ませることはしないわ」


 そう言って、ラスはシュウに、その魔道具を見せるように言った。そしてその内容を見た後、ラスはロウ達やケアラも呼び、他の部屋に行くとゼツに言った。


「ミラン。私たちは少し話してくるけど、あなたは彼のそばにいてくれないかしら。必要なら、後で伝えるわ」

「わかったわ」


 そう言って、皆他の部屋へと消えていく。ああ、自分がもう少し強かったらと、死のうとなんかしなかったらと、心の中の別の自分が顔を出す。


「ゼツ。皆あたなを守りたいだけ。あなたが弱いわけじゃないわ」


 ミランが、そんな自分の心を読んだかのように、ゼツに言った。


「うん、ちゃんとわかってる。わかってるんだけど……」


 これで、死にたい気持ちがでてくるかと言われれば、そんなことは無い。けれども、だからこそ、今まで自分が隠してきた全てが、申し訳なくなる。

 今まで、自分の事を隠すことに必死で、隠される側の気持ちなんて考えたことはなかった。でも隠される側になって、大切だから、知りたいと思った。もう死にたいなんて思わないから、死のうとなんてしないから、自分を信じて言って欲しかった。


『どうして俺達を頼らない! どうして俺達を信用してくれない……!』


 アリストでシュウに言われた言葉が、ふと蘇る。ああ、シュウもあの時、こんな気持ちだったのか。そして、ミランも。


「ミラン。今まで、ごめんね」

「……これからは、なんでも話してくれるんでしょ?」

「うん。ちゃんと話す。話すよ」


 自分を信用してくれているミランの言葉が、ゼツは温かくて仕方がなかった。




 それから暫くして、ゼツとミランはロウに呼ばれた。自分は呼ばれないだろうと思っていたから、ゼツは驚きながらも皆が待つ部屋を開けた。


「まったく、何が起こったのかと思えば、あの天使? 悪魔? もう悪魔でいいや。あの悪魔、僕達を舐め過ぎだよ。だから、ゼツもそこまで構えないで聞いて欲しい」


 ロウはゼツを見て、ニコリと笑う。その隣で、スイもまっすぐゼツを見た。


「その前に一つ確認だ。おまえはもう、生きたいと思っている。それは間違いないな?」

「うん。ちゃんと生きたい。死にたくなんかない。この幸せを、手放したくなんかない」

「そうか。それなら問題ないな」


 そう言って笑うスイを見ながら、ゼツはチラリとシュウを見る。シュウもまた、ゼツの言葉に安心したような顔をしていた。そんなシュウを見て、ああ、シュウもまた自分の言葉を信用してくれているのだと、ゼツは嬉しくなる。


「皆、俺を信じてくれてありがと。今まで、ほんとごめん」


 ゼツがそう言って頭を下げれば、皆も嬉しそうにゼツに笑顔を見せた。


 その後聞いた話は、流石に自分を全く責めない、ということはゼツにも無理だった。

 シュウに来た連絡は、大量の“魔物”が王都を攻めているから助けに来いというもの。しかし、ロウやラスが何もしていないのに、魔物が王都に攻め込むなんてありえない事だった。

 しかも、シュウがラスに言われて“魔物”の姿を国に確認すると、やせ細った人型の魔物だという。魔物は本来動物や植物だったものを、ロウが魔物に変え、ラスが配置しているものだった。そして人間に力を与えれば、それは魔物ではなく魔族となる。それなのに“人型の魔物”という存在は、本来ならあり得なかった。

 となれば、考えられる事は一つ。あの少女が人型の魔物を呼び出し、王都を襲わせたのだ。そうすれば、ゼツはそれを止めるために死ぬだろうと。


 けれども、自分を責める時間をゼツにあげるまいと、ロウは口を開く。


「と、言う事で、僕達全員でその魔物を殲滅しにいくことにしました! 勇者君達だけなら不安かもしれないけど、僕達もいれば楽勝だよね?」


 その言葉に、ゼツは驚いて魔族の4人を見る。本来魔族は、特に三傑と呼ばれていた3人は、人間を恨んでいたはずだった。


「……いいの?」


 そうゼツが言えば、3人は優しくゼツにほほ笑んだ。


「アビュ、ゼツを守るためならなんだってするもん!」

「そもそも、おまえと接しているうちに、人間への恨みなど消えてしまった」

「あなたのおかげね」


 そう言われれば、また心に温かいものが込み上げる。まさかこの3人が人間を守るために戦ってくれるなんて、誰が想像しただろうか。

 そしてゼツはシュウとケアラを見た。この2人も、魔族の事を恨んでいたはずだった。


「私達の旅の目的は、誰かを責めるためではない。父にイエルバで言われた言葉です。私があくまで望むのは、皆さんが幸せな世界です。そんな世界を同じように望む魔族の皆さんを恨むことなんて、もうできませんよ」

「俺もケアラと同じ考えだ。復讐に、過去に囚われて、今生きる大切な仲間を失いたくない。しかも、ゼツを一緒に守ってくれると言うんだ。手を取り合わないわけにはいかないだろう?」


 その言葉に、ゼツはなんだか嬉しくなる。シュウ達は勿論の事、魔族の皆のこともゼツは好きだった。お互いのことを恨み合っていたはずが、手を取り合っている姿を見るのは、ゼツも嬉しかった。


「言ったでしょ? ゼツは凄いんだって。ゼツがいなかったら、こんなことにはならなかった」


 ロウもまた、満足にそう言った。

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