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80.剣と正体

「声、ですか……」


 スイと一緒に声の事をケアラに聞きに行けば、ケアラは難しい顔をして考え込んだ。経緯に関しては、スイがほとんどゼツの代わりに話してくれて、ゼツはまだ楽に息ができていた。


「ちなみに、どんなタイミングで聞こえるのか、ということは聞いても問題ないですか?」


 ケアラはゼツの様子を確認しながら、優しく尋ねる。それなら言えるはずだと、ゼツは口を開いた。


「最初聞こえたのは、ミランの家で剣を持ち出す少し前。突然声が聞こえて、シュウが剣を置きっぱなしだったことに気付けたんだ。さっき、剣はここだよって声がして、扉を開けたら剣があって……」

「……それが事実であれば、幻覚魔法とは関係ない可能性が高いです」


 ケアラは、まだ険しい顔をして言った。


「幻聴は、ご自身の頭の中で無意識に考えていることを、まるで誰かが話しているように錯覚するとも言われています。勿論、幻覚自体は魔法にかかっていてもありえます。けれども、ゼツさんが知らない事まで、聞こえるはずがないのです」


 ケアラの言葉に、ゼツは少しホッとする。ずっと、自分がまたおかしくなったのではないかと不安だった。けれども、ケアラの言葉を聞く限り、そんな事はないのだろう。

 同時に生まれる疑問は、声の正体。幻覚魔法が関係ないとなると、どこからか声が聞こえているはずだった。


「共通するのはこの剣が近くにある時か……」


 スイは持っている剣をチラリと見て言った。ゼツもその剣を見て、そういえばと思い出す。


「声、最初に聞こえたのは、もう少し前かも。その時は幻覚魔法にかかってたのかもって思ってたけど、アリストの森で欠片を取って帰ってる時にも、同じ声が聞こえたんだ。それ以外の時はミランとか、知ってる声が多かったのに」

「……そもそもこの剣って何なのですか? ロウさんの話を聞く限り、魔王自体も人間が勝手に作り出した物語ですよね? しかも、不老不死の体質になったことだって、原因がわからないことです。それなのに、魔王を殺すために作られたという伝説のある剣、という存在がおかしくないですか?」

「確かにおかしいな。俺達も、そして人間も、剣の存在を疑いもせず信じた。そもそもこの剣に本当にロウ様やゼツを殺す力があるのかすら誰も証明できていない」

「あっ、少なくとも力は、えっと、本物だと思う……」


 スイとケアラの話を聞いていたゼツが、少し目を泳がせながら言った。


「おまえ、まさか……」

「あはは……。えっと、死のうとして死ねなかったら嫌だなって、城の裏口から出た時、ちょーっと試した……」

「どこをですか! ちょっと見せてください!!」


 ケアラは怒りながら、ゼツに詰め寄った。


「いや、気付いたら血は止まってたし……。ほら……」


 そう言ってゼツが腕をまくると、確かにそこには、少し前についたような切り傷の跡があった。


「まったく、何もせず膿んだりしたらどうしてたんですか! 些細な傷でもちゃんと私に見せてください!」


 そう言いながら、ケアラはヒールを使って傷跡を消す。ゼツ自身完全に忘れていた事ではあったが、ケアラの怒る意味をちゃんと理解できるようになったからこその申し訳なさはあった。


「……まあ、そのおかげで力は本物だと証明できたから、今回は良しとしよう。しかし、本物であれば余計に不気味だな。しかも、まるで幻覚魔法の中にいるのと同じような声を浴びせるのであれば、余計にだ。……そうだな」


 そう言ってスイは、剣を壁に立てかける。


「ゼツの言う通りであれば、声がしたのは欠片が3つ揃ってからだ。別にこの剣を今すぐ使うわけではない。もう一度神珠を壊してみるか」


 そう言って、スイが剣に向かって手を伸ばした、その瞬間だった。


『それは困るなあ』


 突然声が聞こえ、剣が光り出す。その光が収まると、そこには黒い長い髪に黒い羽根、そして紫色の目をした少女が浮かんでいた。


『流石、神様に選ばれた人間だね。どれだけ壊そうとしても、周りにいる人が何としてでも助けちゃう』

「おまえは何者だ」


 スイはゼツとケアラを守るように立ち、その少女にいつでも魔法を放てるよう手を向けた。それと同時に、ペンダントでここにいない者たちを呼ぶ。ロウやラス、アビュは勿論のこと、シュウやミランにもペンダントを渡していたからすぐに集まった。


『あらら。みんな集まちゃった。これじゃあ死んでくれないね』

「もう一度聞く。おまえは何者だ」

『わたし? わたしはなんだろうね? 伝説の剣だよって言えばいいのかな?』


 そう言った少女の言葉を聞いて、ロウが少し震えながら一歩下がる。


「その声……! 僕が闇魔法使えるようになった時に聞こえた声……!」

『ああ、おまえはあの時の。いい感じに魂が穢れてくれたね。わたしの望んだとおりだ』

「君は何!? 悪魔!?」


 ロウの言葉に、少女は愉快そうに笑う。


『酷いなあ。これでもわたし、神様に使える天使だったんだよ? まあ、堕とされてしまったのだけれどね』


 そう言いながらも楽しそうに笑う少女は、本当に悪魔なのかもしれないと誰もが思った。少女の発言に、聞きたい事は沢山あった。何故天使から堕とされたのか、何故ロウの魂が穢れることを望んだのか、神様に選ばれた人間とは何なのか。けれども今一番重要な事はと、スイは少女を睨みながら尋ねた。


「何故、ゼツの死を望む」


 そんなスイの質問に、少女はニコリと笑って答えた。


『神様に選ばれたからだよ』

「選ばれた、だと……?」


 少女はゼツを指差し、そして言った。


『それは神様のエサ。それの魂が神様に喰われたくないから、わたしはそれを殺すの』

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